第11羽「新たな出会いと約束」
街の名前は、リュミエール。
石畳の通りに花の鉢が並び、中央広場には大きな噴水がある、穏やかな空気の流れる街だった。
ここに着く少し前から、ミッツーはひそかに考えていた。
――たまには、長く滞在してみるのもいいかもしれない。
フィーネはこれまで多くの街を訪れてきた。
けれど、同年代の友達と「普通に」過ごす時間はあまりなかった。
ルナは大切な友達だった。
だが、病のために宿の部屋で過ごすことが多く、一緒に街を歩いたり、買い物をしたりすることはほとんどできなかった。
だからこそ、ミッツーは思う。
同じ年頃の友達と笑い合う時間も、フィーネにはきっと必要だ。
その考えを、本人にはまだ話していなかった。
⸻
到着した翌日。
二人は街をのんびり散策していた。
フィーネはあちこちの店を覗き込んでは、
「この街、かわいいものがいっぱい!」
と楽しそうに耳を揺らしている。
そんな中、一軒の雑貨屋の前で立ち止まった。
木の看板には、小さな星と花の模様。
店名は「ノルン」。
「入ってみよう!」
フィーネは目を輝かせて扉を開けた。
店内には、髪飾りやアクセサリー、ぬいぐるみ、旅のお守りなどが並んでいる。
「いらっしゃいませ!」
明るい声とともに現れたのは、フィーネと同じくらいの年頃の少女だった。
栗色の長い髪をリボンでまとめ、やわらかな笑顔を浮かべている。
「私はレティシア・ノルン。みんなにはレティって呼ばれてるの」
フィーネの耳がぴこっと動いた。
「私はフィーネ! こっちは父さん!」
「父さん?」
レティシアは一瞬目を丸くしたが、すぐに微笑んだ。
「仲良しなんだね」
「うん!」
即答だった。
⸻
レティシアはフィーネの灰色の髪とうさぎ耳を見て、目を輝かせた。
「その髪、とてもきれい。青い花の髪飾り、すごく似合いそう」
「ほんと?」
レティシアが差し出したのは、小さな青い花を模した銀細工の髪飾りだった。
フィーネがつけてみると、青い瞳によく映える。
「わぁ……」
鏡を見たフィーネの顔がぱっと明るくなる。
「かわいい!」
「すごく似合ってる」
レティシアがそう言うと、フィーネの耳が嬉しそうに揺れた。
「父さん、どう?」
ミッツーは少し目を細める。
「いいな。青い瞳によく合ってる」
「ほんと!?」
フィーネは嬉しそうに鏡の前でくるっと回った。
結局、その髪飾りを買うことになった。
店を出る時、フィーネは何度も振り返って手を振った。
「また来るね!」
「ぜひ!」
⸻
数日後。
広場でリンゴをかじっていたフィーネは、聞き覚えのある声に振り向いた。
「あっ、フィーネ!」
籠を抱えたレティシアが、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「レティ!」
フィーネもぱっと笑顔になる。
そのまま自然に並んで歩き始めた。
「今日はお休みなの?」
「うん。おつかいの途中!」
「私たちは次の依頼を探してたの」
「冒険者って本当に旅してるんだね」
レティシアは興味津々で身を乗り出した。
「ねえねえ、ドラゴンに乗ったことあるって本当?」
「あるよ!」
「ええっ!?」
そこからフィーネの旅話が始まった。
浮遊島のこと。
空飛ぶドラゴン便。
紫色のリンゴで大変なことになったこと。
ルナという大切な友達のこと。
レティシアは目を輝かせながら聞いてくれた。
「すごい……まるで物語みたい」
「毎日が冒険だよ!」
⸻
二人は公園のベンチに座った。
レティシアは少し空を見上げて言った。
「私もね、いつか旅に出たいの」
「ほんと?」
「うん。いろんな景色を見て、いろんな人に会ってみたい」
フィーネは嬉しそうに耳を立てた。
「絶対楽しいよ!」
レティシアは少し恥ずかしそうに笑う。
「でも、まだお店の手伝いもあるし、もう少し先かな」
「レティならきっと大丈夫!」
まっすぐな言葉に、レティシアの頬が少し赤くなる。
「ありがとう」
そして今度は、レティシアが尋ねた。
「フィーネの旅の目的って?」
フィーネは胸元のロケットにそっと触れた。
少しだけ真剣な表情になる。
「本当の家族を探してるの」
レティシアは静かに耳を傾けた。
フィーネは、森で迷子になっていたこと。
ミッツーに助けられたこと。
十年間一緒に旅をしていることを話した。
レティシアは最後まで真剣に聞いてくれた。
「……素敵だね」
「素敵?」
「うん。家族を探す旅も、父さんと一緒っていうのも」
フィーネは少し照れたように笑った。
⸻
夕方、別れ際。
レティシアはフィーネの手をそっと握った。
「もし、旅に関係する情報が入ったら、必ず知らせるね」
フィーネの青い瞳が輝く。
「ほんと?」
「うん。約束」
フィーネもぎゅっと握り返した。
「私も、旅の途中で素敵なお店を見つけたら教える!」
レティシアはくすっと笑った。
「それ、楽しみ」
「あと、旅に出る時は絶対教えてね!」
「もちろん」
二人は小指を絡めた。
「約束!」
⸻
宿への帰り道。
フィーネは青い花の髪飾りを揺らしながら、何度も楽しそうに話した。
「レティ、すごく優しかった!」
「ああ」
「おしゃれで、かわいくて、話しやすくて!」
「ああ」
「友達って、いいね!」
その一言に、ミッツーは静かに微笑んだ。
「そうだな」
フィーネはロケットペンダントを開き、ルナの写真にそっと囁く。
「ルナ、私ね、新しい友達ができたよ」
胸元で写真がきらりと光る。
きっとルナも、嬉しそうに笑っている。
空には、夕暮れの星がひとつ。
旅を続けるたびに、出会いが増えていく。
思い出も、約束も、仲間も。
すべてを胸に抱きながら、フィーネはいつものようにミッツーを見上げた。
耳をぴんと立て、満面の笑みで。
「父さん、次はどこ行く?」




