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館長と林を含め、職員たちは満足していた。瑠李に話をしてから数日後には弥和と一緒に行動することが増えたからだ。一緒に出勤するようになって僅か二日目には、どこから聞いてきたのか息子はクレープ屋に襲来してきた。
「なあ、クレープ君。一つ聞いていいかい?」
「なんですか? 買わないなら並ばないでくれません?」
話し方こそ、いつもの上からだったがいつもの彼じゃなかった。動揺していたのだ。イケメンだが、必要以上に弥和と話をしている雰囲気を感じていなくて勝手にライバル判定してなかった。それなのに、自分も未だに獲得できない地位を簡単に取っていったのだ。
冷静でいられる訳はなかった。
「き、君は図書館員の堂上さんに付きまとっているな! 彼女が可哀想だ、やめてもらおうか!」
こいつは何を言っているんだ、とクレープ屋に並んでいた人々は揃って思った。あの子に付きまとっているのは、お前のほうだろうと。クレープ屋に来るのは、職員や図書館の利用者が多く彼はちょっとした【有名人】なのである。
特に幼い子どもがいる親世代には、勝手に敵対心を持たれている。子どもたちが館長に懐いていて、どんなきかん坊でも館長に言われた事だけは守る子どもが多いからだ。
「堂上さん……? あ、ねえちゃんですか?」
「はっ……? ね、ねえちゃん……?」
「はい! 苗字違うから分かりずらいけど、従姉妹のねえちゃんなんですよ〜。どうせ同じとこに来るからって一緒に来てるだけですよ」
「そ、そうなのか……」
やはり、敵ではなかったと彼が安心したような声を漏らす。そこに、一瞬だけ【猫目】に変化した瑠李が純粋なフリをして聞いた。
「そういえば、職員の方からねえちゃんのストーカーがめちゃくちゃいるって聞いたんすけどね? どこの誰とか知ってたりしません?」
「し、知らないなあ……? すまない、お昼休憩が終わってしまうのでまたな!」
逃げたな。静かに聞いていた客たちは、美味しいクレープと人懐こい店員に癒される。
逃げるように去っていった彼が、何かを隠しているのは皆が気付いていた。気付かれていないと思っているのは、彼とその【仲間たち】だけであったのだが。
猫又である瑠李には、独自のねこねこネットワークが存在している。猫又仲間はもちろん、野良猫や家猫も入っているネットワークだ。だから瑠李が頼めば猫たちが勝手に色んな情報をくれるのである。
今日の反応で、瑠李はネットワークで知り得た情報が正しいものだと確信した。
本当は、弥和も姫も気付かないままこの件を終わらせようと思っていたのだがひかり経由で姫にはバレた。怒られた、めちゃくちゃ怒られた。
自分たちにも出来ることはあるし、頼って欲しいと。瑠李は姫の涙に弱かった。キッチンカーだって、後出しで報告するような形になってめちゃくちゃ拗ねられてしまったのだ。
「ひめさま、今いいですか?」
『どうした、瑠李?』
弥和が寝た頃を見計らって、瑠李は人間姿のまま滝夜叉姫の部屋を訪れた。
「弥和に対して良からぬ人間を見つけた。明日にでも決着を付けようと思って」
『そうか。前に言ってた奴か?』
館長の息子の事は、気になった段階で滝夜叉姫とひかりには報告していた。それを受けて、ねこねこネットワークに在籍している猫や猫又たちも護衛に加わっている。瑠李がキッチンカーを出すようになって外にいることが自然になったので、もふもふの護衛たちは代わるがわるで報告をしてくれているのだ。
実は今日襲来することも、事前に報告を受けていたりする。
「僕だけじゃなくて、他の猫又たちも協力してくれる事になってる。多分弥和にも気づかれないように動けると思う」
『お前たち、一体何をしようとしているんだ? 相手は人間だからな、やりすぎるなよ』
一応、という雰囲気で姫が釘を指すが本当に【一応】である。職場についていくことをしてこなかったから、まさか同僚たちが助ける程のストーカーがいるなんて思わなかったのだ。本当に瑠李が傍にいてくれてよかったと思う。
「じゃあ、ひめさま。僕もう寝るね」
『ああ、今日は弥和のところで寝るんだったな。おやすみ』
瑠李が去ってから、滝夜叉姫は物思いに耽っていた。猫又で、一度は神の扱いを受けていた不思議な存在。神だった時のなごりなのだろう、人の子を守る事に躊躇がない。その躊躇のなさは、妖怪の素質が強く出ている。
明日、彼らが何をしようとしているのか具体的なことは教えて貰えていない。ひかりなら知っているのではと聞いてみたが、本当に知らないようだった。他の猫に聞こうにも、妖怪でもない普通の猫とは話ができない。
蒼葉たちは、やはり立派な妖怪だったから話ができたのだ。今度、蒼葉達に、普通の動物とも話せるようになるお守りを頼んでみようか。そういった物があるのかは知らないが、聞いてみるだけタダである。
特に任された事もないが、明日の決戦に向けて姫は布団に入った。
どうか、瑠李たちがやりすぎませんようにと願ったがそれが叶ったのかは微妙な結果となった。




