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その日、弥和は不思議な鏡越しに信太の森のみんなと話をしていた。この鏡は、晴明や葛の葉たちがよく弥和の近況を知るために使っていたもので今でいうスマートフォンのようなものだ。
ここ最近は晴明の【稽古】のお陰か、思念を飛ばせるようになってきたのだが慣れない力のため一度使用すると熱が出てしまう。そこで、晴明が御上に頼んで鏡をもう一つもらったのだ。これで、いつでも下関と信太の森で話ができるようになった。
初めは晴明と葛の葉だけだったが、次第に十二天将たちやモーリーとも個別で話をするようになっていた。一番会話が多いのは、十二天将の中では青龍だった。青龍本人は弥和の話をただ聞いているだけなのだが、他の者たちから『長い』と苦情が出た。もちろん一番に苦情を入れたのは、騰蛇と朱雀だったのだが。
『姫、一つ聞いてもいいだろうか?』
「なあに?」
初めて会った時から、何故か懐いてくれている狐の姫君に青龍は思っていたことを聞いてみることにした。
『何故、姫は俺をそんなに好いてくれている? 騰蛇や朱雀の方がよくないか?』
「二人に甘えすぎると、私結婚できなくなりそうやん」
確かにそれはそうかもしれない。あの二人は元々の気質だろうか、姫に構いすぎている節があった。弥和にはあまり言えないことだが、弥和が生まれた時一番に彼女が笑いかけた相手は騰蛇だったのだ。そのことがまだ頭にあるからこそ、離れていた時間を埋めたいのだろうと青龍は考えている。
しかしそんな赤ん坊の頃のことだ。今の弥和に伝えたところでという感じだろう。
「青龍さんは、いつも静かに私の話を聞いてくれるし、アドバイスも的確やからさ。話したくなるんよね」
青龍は普段から他のモノたちに比べると口下手だ。言葉が出てこないというわけではないのだが、どう伝えていいのか分からなくなってしまうことがある。晴明はそんな自分の性質をよく理解してくれて、最終的に指示を出すような役よりは、護衛として使役してくれる。その性質はおそらく弥和も理解しているのだろうと推測している。
『俺より適任はいくらでもいると思うが……』
「大丈夫だよ、そんなに心配しなくても。みんなの性質を見た上で相談する内容とか変えてるもん。例えば術とか他の妖怪でわからんかったらお兄様に聞いたりとか、料理でわからん事は騰蛇さんに聞いてるから」
なんだ、いつも『ずるいずるい』といじけてくるから申し訳ない気持ちがあったが話をしているのではないか。ただの嫉妬じゃないか、ではこちらも遠慮などいらんな。
「青龍さんこそ、私と話するの疲れたりとかせん? 聞いてくれるからついつい長話しちゃってるもんね。嫌やったら言ってね?」
『嫌ではないぞ、姫。俺も姫とこうして話を聞いたりするこの時間がいつも楽しみだ。なんなら、もう少し話をする頻度をあげてもいい。それくらい俺はこの時間が大好きだ』
しまった、珍しく饒舌になってしまったと思ったが、姫はにこにこと嬉しそうにしている。
無理やりに下関にまで押しかけていた、騰蛇と朱雀の世話を焼きたい気持ちが少し分かったような気がする。遠く離れてはいるが、俺もなるべくこの狐の姫君のために何かしてやりたい。それが、姫にとってこの時間であるならお安い御用である。




