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『我が姫、話の相手に選んでくれたのはとても光栄だが私で本当に良かったのだろうか?』
「うん、合っちょるよ。勾陳さん」
その日、弥和はあまり個人的に話をした子がない勾陳を指名して鏡を使っていた。勾陳は今嬉しさと気まずさの間に挟まれていた。理由は、鏡の中の弥和には見えない角度で自分のことを睨んでいる騰蛇がいるからである。そんなに独占欲が強くては、姫に愛想を尽かされるのではなかろうか?
『して、本日はどうしたのだ?』
我ら十二天将たちを一度に見ても、この狐の姫君は怖がったりしなかった。一度に紹介してはいけないのではないかと心配していたが杞憂に終わった。
「あのね、もうすぐ人間の世界では父の日っていうのがあるのね? 母の日には姫とお母様にそれぞれプレゼントをあげたんやけど……。父の日には、ね? 騰蛇さんに何かあげたくてその相談をしたいの」
なんと。我らの狐の姫君はなんてお優しく可愛らしいのだろうか。勾陳は鏡越しで顔を覆い隠して弥和のあまりの可愛さに悶えた。騰蛇が居たはずの方向では『ドガッ!』とか鈍い音がしたが、神の端くれなのだ。心配は要らないだろう。
「え、なんかすごい音しなかった!? 誰か怪我とかしてない!?」
『姫君、心配はいらない。誰かがこけてしまっただけだろう』
勾陳は長年一緒にいる同胞が、どんなものなら喜ぶのかと考え込んだ。きっと騰蛇のことだ。姫君からの贈り物だったらなんでも喜びそうだが、それは姫の望んだ答えではないだろう。
『姫君、こういうのはどうだろうか?』
六月の第三日曜日、世間は父の日で浮き足立っている。いつもなら断ってばかりだが、今日だけはお兄様と一緒に騰蛇さんが下関に遊びに来てくれる。
勾陳さんにアドバイスをもらってから、お兄様にも今日の【計画】を事前に伝えている。喜んでくれるか心配していると、お兄様は『騰蛇の事ですから、弥和がくれるなら何でも喜びますよ』と言われたが不安でしかない。
『我が姫、今日はお招きありがとう。久しいな、息災だったか?』
「昨日の夜も鏡で話したよ、騰蛇さん。元気だよ」
内心これからの事を考えて内心、気が気ではない弥和をいつも通り優しく微笑んでくれる。もう、どうにでもなれ! と思いながら準備したものを騰蛇さんの目の前に差し出した。
「これ、いつものお礼! 今日、父の日やから! お兄様みたいに字が綺麗なわけやないけど……。よければ……」
プレゼントーー手書きの手紙を差し出しながら、どんどん声が小さくなっていく弥和を騰蛇は固まって見ている。
『騰蛇、何か言うか受け取らないと弥和が泣きます』
『え、ああ。ありがとう、姫。とても嬉しい、大事にする』
勾陳との会話で何かをくれようとしているのは知っていたが、まさか手紙を貰えるとは思っていなかった。きちんと【騰蛇さんへ】と書かれてあって口元が緩む。いつも懐に入れて持ち歩くことに決めた。恥ずかしいと言われても、絶対にそうする。
嬉しそうに手紙を持っている騰蛇を見て、弥和は嬉しくなった。勾陳に提案された時は、そういうものでいいのだろうか? と思っていたが『そういうのは感謝をしているという気持ちが大事だろう。手紙が一番そういう思いが伝わるものだ』と言われ納得した。既に鏡でみているかもしれないが、後で勾陳にお礼を言っておこう。
自分は関係ない、という顔で微笑んでいる晴明にも父の日のプレゼントととして手紙を渡す。兄だが、父と似たようなものなので大丈夫だろうと用意していた。
生まれてから今まで、遠くで見守ってくれた大切な人だ。誕生日を聞いても忘れたと言って教えてくれなかったからだ。
今までは父の日は自分には関係ないと思っていたが、今年からは二人に渡そう。




