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晴明が騰蛇と朱雀を引きずって、信太の森に帰ったその日の夜。弥和は滝夜叉姫にずっと聞きたいと思っていたことを聞いてみることにした。
「ねえ、姫。聞きたいことがあるんやけどさ、今いい?」
『ああ、なんだ? あ、晴明に稽古を付けてもらう話の事か? 場所がいるだろうから、瑠季にでも探させようか』
「ううん。その事もそうやけど今は違う」
いつもと違い、少し重苦しい雰囲気を漂わせている弥和に滝夜叉姫は姿勢を正して聞ことにした。きっとこれを聞くのになにか勇気でもいるんだろう。
「今日、自分の生い立ちについての話を聞かせてもらった。びっくりしたけど、同時に血の繋がった家族がいて嬉しかった。でね、姫にとっては恩人でもあって因縁の相手の家族なわけやん? なんで育ての親になってくれたん?」
晴明が弥和に生い立ちの話をするという事は事前に聞かされていた。受け入れてもらえるように努力するとか、うじうじしていたが晴明や葛の葉が心配していたような事は起こらなかった。
緊張している様子の弥和に、滝夜叉姫は微笑みながら自分の気持ちを話し始めた。
葛の葉が妊娠を自覚してから、信太の森は大忙しになった。妊娠している体にも関わらず、葛の葉がじっとしていられなかったからだ。森を歩き回って妖怪や動物たちに話をして、問題があれば解決するのがお役目とはいえ、以前よりアクティブに動くようになった。
『聞け、もうすぐ狐の姫が生まれるのだ』
そう言って森の中を闊歩するようになった。そのうちに妖怪や動物たちが葛の葉をフォローしてくれるようにはなったが。自分たちだけでは止められない、母体や子供になにかあったら大変だと十二天将や滝夜叉姫に進言してくる始末。
そん中で、滝夜叉姫は晴明に御上のお言葉によって、弥和を人間の街で育てることと、姫も信太の森から出ても良いというお達しだった。
確かに、ここで育てるよりも街で育てるほうが子の為にはなるのだろう。しかし、血の繋がった母親と兄と離れて暮らすことが生まれる前から決定しているだなんて。
父を突然失った自分とは、少し境遇は違うかもしれない。しかし、何とかしてやりたいと思ったのだ。
『葛の葉さま、どうか姫の世話係をお任せしていただけませんか?』
気がつけば自分の口からそんな言葉が飛び出していた。晴明は少し驚いた様子だったが、『母上に相談してみます』と言ってその日の話は終わったのだった。
その話が具体的に滝夜叉姫に伝えられたのは、弥和が生まれた日の夜の事だった。呼ばれた時はなにか必要なものがあるのかと思うくらいには、その話は流れたものだと思っていた。
『滝夜叉姫、弥和を頼めるか』
『……葛の葉さま』
少し悲しそうな顔で、葛の葉は弥和を育てて守って欲しいとお願いしてきたのだ。育てさせて欲しいと先にお願いしたのは、こちらの方なのに。
『この子は妖力が凄まじいくらいあるのだ。その辺の力の弱い妖怪は寄ってはこないだろう。しかし、そういう存在を利用しようとするモノから守って欲しいのだ。信頼しているそなただから、頼むのだ』
『分かりました。私にお任せください』
そうして、育て親が決定した。
「それでどうして下関だったん? これが一番聞きたかったんよね」
『同胞がいるから』
葛の葉さまが旅行に来たところだったから、とか言われることを想定してい弥和は少し少子抜けした。どこに行ってもいいと言われたから、一族が眠っているところがいい。姫のそういう【家族思い】な所が弥和は尊敬しているし、大好きだった。




