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 弥和は晴明の話を聞いて、やっと二人に対して懐かしい気持ちになった理由が分かった。そうか、親子だったんや、お兄ちゃんやったんや。

 捨てたと、罵倒されてもおかしくないと覚悟していた晴明は、弥和が嬉しそうに自分の話を聞くのを見て内心ホッとしていた。

「ねえ、晴明さん」

『なんですか?』

「あの……。お兄様って……お母様って呼んでもいい?」

 恐る恐る聞いてくる弥和に、晴明は微笑んで言った。ああ、こういうことなら母上も連れてくるべきだった。この子も直接呼びたかったかもしれない。

『ダメな理由がありませんよ。貴方は大切な家族なんですから』

「ありがとう、お兄様!」

 その日、ずっと離れて暮らしていた兄妹はやっと家族になれたのだった。


「ん?  あれ、もしかして滝夜叉姫が一緒にいてくれてるのってお兄様とお母様が森を離れられないから?」

『ええ、そうです。元々、あの姫は森で母上が保護していたのですがね。そろそろ千年経つし、本人も良くない存在にならないと御上が判断しまして独り立ちしてもいいことになったんですよ。それを聞いた母上が姫にあなたを託したんです』

 なるほど、姫の言う"あの方"はやっぱりお母様のことだったんだ。

「じゃあ、道満と会ったときの私の術も、私がお兄様の妹やからなんやね」

『そうですねえ。そういうことになりますね。そうだ。あの後から、何か体がおかしいとか違和感はありますか?  日常生活に支障が無い程度には力の使い方を定期的に教えようと思っているのですが』

「あの時みたいに耳が変わるとかはないけど、お願いしたいな。あと、帰るときに一緒に騰蛇さんと朱雀さんも連れ帰ってほしい」

『それは三人で相談しなさい』

 心の中に溜め込んだお願い事に、真顔で返されてしまった。

 モーリーたちの郷の時に聞いた、パリンっという音がしたかと思えば半べそになっている朱雀と、すでに号泣している騰蛇が現れた。姿が見えないと思っていたら、話が終わるまでお兄様の結界で家に入れなかっただけのようだ。

『我が姫!  なんでもするからここに置いてくれないか……!』

『姫~……やっとまた会えたんだ、そんな悲しい事言わないでくれよ~……』

 助けを求めて晴明を見上げるが、二人のことなんて見えていないし、声も聞こえていないかのように涼しい顔でお茶を飲んでいる。お兄様の式神であって、私の式神じゃないのに。

『二柱は、家族と切り離すのが可哀想だと最後まで御上に考えなおしてくれるように尽力してくれたのですよ。自分たちが人間に変化して街で育てるとまで言って。そこは滝夜叉姫と違って式神なので許されませんでしたがね』

 そんな前から自分の事を心配してくれていた存在がいることに感謝する。しかしだ。それはそれ、これはこれである。

「あのね、二人が嫌とかじゃないの。ただ、こんなに甘やかされていたら私結婚できないやん?」

『する必要があるのか?』

『我らがおるだろう。する必要があるか?』

 二人が即答したのを聞いて、弥和はとてもいい笑顔で晴明に言い放った。

「お兄様、二人をすぐに連れて帰って」


『ほほほ、やつら弥和に追い出されたぞ』

『まあ、あんな事を言われちゃあね……』

 森に残っている十二天将たちと葛の葉が、リアルタイムで下関の家の様子を鏡で鑑賞していた。弥和に「お母様」と呼んでもらえることが決定して上機嫌の葛の葉はさっそくモーリーを呼んできて先程の出来事を話している。すでに事情を聞いていたモーリーは、葛の葉の話を聞いて自分の事のように喜んでいる。この九尾はこういう所が良い、と十二天将たちは彼女を気に入っていた。

 自分の生い立ちを聞いて弥和が許してくれなかったらどうしようかと悩む葛の葉に、モーリーは言ったのだ。

『弥和さまは、呪いをかけた一族の子がどんな子だったのか聞いてくださいました。そんなお優しい方は、故郷の国にもおりませんでした。あの方のことです、葛の葉さまをお母様と呼んでくれると思います』

 結果的にモーリーの言った通りになった。十二天将たちがいくら大丈夫だ、杞憂だと言っても、一人の母親の心を晴らしてやることはできなかった。十二天将たちはモーリーに感謝していたので、また彼らのために何か手伝ってやることに決めた。

 鏡をじっと見ていた青龍は思った。仲間の反対を押し切ってまで弥和の所に押しかけた二人が帰ってきたら、盛大にからかってやろうと。

 実際は涙で顔と衣がべっしょべしょになった二人を見て、葛の葉やモーリーまでもがドン引きしてしまい、からかうどころの話ではなかったのだが。

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