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晴明は弥和の有給の日に合わせて下関を訪れることになっていた。話さなければならない、大事な話があると手紙には書かれていたので弥和は少し緊張していた。モーリー達を元に戻した時のあの力や狐耳などについても聞こうとしていたからだ。
事情を知っていそうな滝夜叉姫や騰蛇たちに聞いてみても『晴明に聞いた方がいい』と言って教えてくれそうにない。『教えないぞ』という強い意志さえ感じる。あと、ついでに信太の森に帰る時に一緒に騰蛇と朱雀も連れ帰ってもらいたい。
騰蛇の作ってくれるご飯は美味しいし、朱雀はいつもお風呂上がりにドライヤーで髪を乾かしてくれたりして感謝はしているけれど! 二人に甘えてばかりだと結婚すらできなくなりそうで困っているのだ。弥和だって、年頃なので。好きな人や恋人は、まだいないけれども……。
少し高めの和菓子と緑茶をテーブルに置いてみて準備していると、びゅうっと家の中なのに風が吹いた。思わず目を閉じると、嗅いだことのあるさわやかで甘い香りが弥和を包んだ。
目を開けると、優しく微笑んでこちらを見ている晴明がいた。単身で行くと手紙にあったように、晴明しか見当たらない。
『今日の話をする時に、母上がいると進まないので置いてきたのですよ。今はモーリー達がいますからね、彼女たちが宥めたり止めてくれるので動きやすくなっています』
お礼にお土産を買って帰るつもりです、と優雅に微笑む晴明に後でオススメのお店を教えようと弥和は密かに決意した。
「ごめんね、晴明さん。騰蛇さんたち、さっきまではいたんやけど……」
せっかく、主が来たというのに騰蛇たちの姿や気配が見えないのだ。あの日、道満と対峙して力を使ってから、弥和は騰蛇と朱雀の気配の位置が分かるようになっていた。滝夜叉姫やひかり、瑠季の気配は分からないのであるが。
『ああ、二人には席を外してくれるように頼んでいますから心配しなくても大丈夫ですよ。……私と二人きりが少しというのなら、呼び戻しましょうか?』
「いや、居らんほうがいい」
少し不安そうに聞いた晴明だったが、まさかの即答に苦笑する。どれだけ過保護に甘やかして嫌がられているんだか。一緒に過ごせなかった時間を埋めたい一心なのだろうが、そんな二人の事情は弥和にとっては、知ったことではない。家の敷地外で、隠密の気配があるのでおそらくは会話を聞いて凹んでいることだろう。
「晴明さん、こっちどうぞ」
『ありがとう、弥和』
晴明は弥和と向かい合わせで座った。少し緊張している彼女を見て、安心させるように微笑んだ。
『これは、あなたの生い立ちの話になります』
弥和の家の敷地外。隠密で普通の人間には見えないようにして、男性が二人家の中を覗いていた。隠密でなかったら、近所の住民に警察へと通報されていただろう。
『晴明は本当にあの話をするんだろうか?』
『するだろう。その為に来ると文に書いてあったではないか?』
『……姫、どう思うかな』
『それは我らの心配することではない』
朱雀にそう言いながらも、騰蛇の表情はこれからある話を聞いた後の弥和を案じていた。
『うわ?! 晴明のやつひでえな! 結界を繰り出しやがったぞ!』
『……終わるまでここで静かにしているか』
思念で簡単に彼らの会話が聞こえたのだろう、晴明は『うるさい』と言うように家全体を結界で囲んだ。これで、話が終わるまで弥和に近づけなくなってしまった。




