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弥和たちと離れて、式神もいない状態で晴明と道満は勝負していた。お互いに術を繰り出しては、避けてを繰り返している。
平安の世。そもそもの二人の出会いは、今思えば必然だったのかもしれない。時の権力者・藤原道長を呪術から、晴明が救ったのがきっかけだった。その呪術を施したのは、他の貴族から頼まれた道満だったからだ。
道満はそれまで自分の力の強さに誇りを持っていた。陰陽師・安倍晴明の噂を聞いても、自分程の力はないだろうと過信していたのだ。しかし、術は簡単に晴明によって破られてしまう。あろうことか、晴明はあの十二天将を式神として従えているではないか。道満がどれほど声を掛けても声すら返してくれなかった十二天将をいとも簡単にである。とうてい、晴明を許せるわけがない。
晴明が亡くなれば、十二天将を自分ものにできると思った事もあたが、晴明が葛の葉の子供だったために長寿であったので叶わなかったのだ。
体が寿命を迎える間際、道満は自分の魂に禁忌ともいえる術を施した。魂の復活の呪術である。不死とは違うそれは、復活するために途方もない時間と同性の人間の生気が必要不可欠だった。
道満がどうしようかと考えながら霊体のまま飛んでいる時に、たまたま晴明への恨み言と毒を吐いている石を見つけた。それが、玉藻前が封印されていた殺生石だった。道満は玉藻前がどんな妖怪だったのかは知らなかったが、自分はこんな風に国を滅亡に導いたのだと自慢する彼女の話を聞いて名案を思いついた。
この狐を囮にして、晴明をおびき出して今度こそ自分が勝利し十二天将たちを式神にしようと。
千年かかってしまったのは、御札を作るまでにそれくらい回復の時間が必要だっただけだ。殺生石は毒を吐くと言い伝えられていたので、滅多に晴明のように術が使える人間は立ち入ることがない。それを利用して、千年もの間、道満は霊体のままこの世に存在していた。
『おい、晴明。そんなにあの狐のお姫さんが気になっているのか? 俺も舐められたものだな、思念で気配を確認しながら戦うなんて』
『……あの子に何をするつもりですか』
『なに、何もしやしないさ。俺は、な?』
ああ、いい顔をするようになったなあ。千年前に戦った時は、誰かを気にしたり守るためだけに十二天将たちを使ったりしない冷酷な男だったってのに。
弥和を本気で守ろうと、騰蛇たちに思念で指示を飛ばしながら戦う晴明を道満は面白いおもちゃを見つけたように笑った。
『ん!? なんだ!?』
突然、道満の意識から一匹の九尾が抜けてしまった。意識を集中させて魅了を飛ばすが何かに阻まれているように届かない。そんなに離れていないはずなのに。
『……ふふ、あの子もやりますね』
何度試しても、あの長の九尾を操ることができない。これは一体どういうことだろうか。あの術は魅了で、解くのにはものすごく途方もない修行に耐えた一流の陰陽師くらいしか太刀打ちできまい。晴明くらいのものでないと。
しかし、晴明があちらに向けて術を使った様子はまるでなかった。それなのにどうしてだろうか。
『道満、貴方もここまでのようですよ。九尾たちはもう全てが正気を取り戻すでしょう』
『なに!?』
晴明が言うが早いか、一気に何者かが術を使った気配がした。さっき自分が弥和に放たれた気配と同じものだ。
少し見ただけだが、弥和は自分の生い立ちを知らないようだったので、でっきり修行もさせてはいないのだとばかり思っていたのに。こんな力を隠させていたのか、晴明は。
全ての九尾を操れなくなって、道満は激しく後悔していた。生気を吸い取って回復していたとはいえ、紅音たちの結界のお陰で完全には回復できていないのだ。もう少しというところで、モーリーが紅音たちに結界を頼んでしまったので。玉藻前を消滅させていなかったら、まだ向こうの足止めが出来ていたかもしれない。数刻前の自分に内心イライラした。
しかし、消滅した彼女を蘇らせられるほどの力がないので仕方まいことだった。
『このままでは埒があきませんね。終わりにしましょう』
晴明は千年前に繰り出してきたどの術よりも質の高いものを出してきた。道満から見ても、この千年間一度も修行を怠っていない証拠だった。十二天将たちを従え続けられるのも納得だ。
晴明から繰り出された、眩い光の中で道満は負けを認めていた。
『……今度こそ、静かに寝ていてくださいよ』
千年の因縁のある、唯一のライバルを本当の意味で失った陰陽師の後ろ姿だけがその場に残された。




