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『おい、九尾ども。やつらを狙え。晴明、お前は式神なしで俺と勝負しろ』
道満の一言で、モーリーたちはそれぞれに弥和たちに襲いかかってきた。瑠季は大猫又に変化して、九尾たちを手で払い除けていく。晋作はなるべく九尾たちが傷を負わないように、刀を房に収めたまま肩などを狙って叩いていく。ひかりは妖力で物を投げている。蒼葉は一番に来たモーリーと一体一で戦っている。
滝夜叉姫はがしゃどくろの頭に乗って、みんなが窮地に陥った時のために備えている。
そんなみんながそれぞれ戦っている中で、弥和は苦い思いをしていた。自分は力が湧き上がってきているにも関わらず、朱雀の背中におぶられて騰蛇が倒すのを見ているだけだ。他の十二天将たちだって、それぞれフォローしながら戦っている。
式神なしと道満が決めてしまったため、晴明は青龍なしで戦うことになり道満と場所を変えてしまった。そんな青龍は、時折別の場所を気にしながらも騰蛇のフォローをしている。
自分もみんなと同じようにとは、行かないまでも戦えたらいいのに。そんな弥和の心の中を覗いたように朱雀は言った。
『姫、もし姫さえ良ければ九尾たちが怪我をしない程度に戦うことはできるか? 俺も傍で守るから』
「え、いいん?」
後で騰蛇や晴明に怒られるのではないかと心配したが、朱雀は声を出して笑って言った。
『その怒りそうな晴明から伝言が思念で来たんだ。もし姫が九尾たちを倒すのではなく抑えるだけにできるならやらせろってさ。確かに実践が一番練習になるしな』
一体何の練習なのだろうと疑問に思ったが、朱雀の言う通りただ九尾たちを抑えるだけなら怪我をさせなくていい。
「どうやったらいいの?」
『さっきは怒りに任せて道満に繰り出したからなあ。そうじゃなく、喧嘩を止めるくらいの気持ちで繰り出してみな。姫の妖力だとそれくらいでちょうど良さそうだ』
朱雀のアドバイスの通りに、弥和は怒りの感情を抑えたまま友人たちの喧嘩を止めるイメージをしながら術を繰り出す。術は九尾に当たらず、足元に落ちて九尾はビビって動きが鈍くなる。
『おお! さすが我らが姫だ。その調子でいいぞ』
『こらあ、朱雀! 姫に何をさせておるんだあ!!』
『やっべ』
少し遠くで青龍と戦っていたはずの騰蛇が、弥和の妖力を感知して大声を上げた。その声で青龍や他の十二天将たちが一斉にこちらを振り向いてくる。みんな、なんだか朱雀を睨んでいるような。これは、もしかしてもしかするかしら?
「……ねえ、朱雀。さっきさあ」
『よし、姫! この調子で九尾たちを蹴散らすぞお!』
弥和からの疑いの視線から逃れるように、朱雀は九尾たちに術をかけるように弥和に言う。
おかしいと思ったんや。あの晴明さんが急に私に術を使って戦ってもいいって言うわけなかったんや。朱雀が戦いたかっただけなのではないか。そうだ、姫その通りだ。どこからか、弥和の脳内にその推理が正解だと低い男性の声が響いた。
蒼葉は焦っていた。自分の知っているモーリーは、こんなにも強かっただろうか。紅音も入れて、三人で戦う稽古をしていた幼い頃はいつだって蒼葉が一番だった。決して、長になってから稽古を怠っていた訳ではないが、それにしたって強すぎる。時折、するどい爪で切られそうになるのを勾陳が防いでくれている。そのお陰で、蒼葉は怪我をしないでいられていた。晴明が勾陳を付けてくれていなかったら、自分はすでにこの世のモノではないだろうと思っていた。
先代からの教えで、九尾のキツネは自分たち狸や紅音たち日本の狐よりも力が強くて、本当はとても優しい妖怪なのだと言われていた。実際にモーリーたちはいつも優しかったし、街に出た時に韓国のごラマや映画で描かれる九尾は優しくかわいい存在だった。九尾の狐
と言うと、玉藻前が有名なので誤解を受けているが実は玉藻前のような存在は珍しいのだ。
『モーリー! 弥和さまだぞ! 滝夜叉姫さまだぞ! 皆お前を助けようとしてきたんだ、目を覚ませ!』
何度そう叫んでも、モーリーの瞳は虚ろなままだった。傍で守りながら聞いている勾陳も痛ましそうにモーリーに視線を向けている。
ヒュン!
どこから来たのか、誰かさんの術がモーリーに運悪く当たってしまい彼女は後ろに倒れた。幸い、脈はあるので気絶しただけのようだ。
「うわあああ、モーリーごめええん!」
当たってしまった事を謝りながら、弥和が朱雀を伴って走ってきた。最初にけしかけた朱雀もさすがに罰が悪そうな顔をしているので、反省はしているようだ。
『ん……。あれ、弥和さま!? どうしてここに……。ここは玉藻前がいます、皆さん避難してくださっ!?』
気絶していたモーリーが目を覚ますと、元のモーリーに戻っていた。言葉を聞いて安心した弥和は、モーリーが言い終わる前に彼女に抱きついた。
「モーリー! よかった!」
『弥和さま……? え、あれ、玉藻前は?』
『玉藻前は我らと戦う間も無く消滅した。玉藻前を蘆屋道満が操っていてな、利用されただけで捨てられたのだ。お前たち九尾もやつに操られて戦っている最中だ』
操られていた時の記憶がないらしいモーリーに、状況を勾陳が伝えると玉藻前が消滅したことに驚いていた。そして、操られているとはいえ、みんなに爪や牙を立てたことに謝った。
「いいの。大変やったでしょ? もう大丈夫だよ」
弥和の言葉を聞いて、モーリーは涙をポロポロ零した。もうこれで、玉藻前に怯えなくてすむ。
『我が姫、今のモーリーさまを見て思った事があるのですが』
「なあに?」
『今、モーリーさまに繰り出した術をがしゃどくろに乗って九尾たち全員に繰り出したら戻るのではないかと』
勾陳の提案に乗ることにした。現に、偶然とは言えモーリーは元に戻ったのだ。他の九尾たちにも効くはずだ。
ならばと、勾陳ががしゃどくろと滝夜叉姫を呼んで来て弥和と朱雀も乗った。がしゃどくろは、なるべく一回で九尾たちに当たりそうな箇所を探す。探している隙に勾陳と朱雀は十二天将たちを通じて全員に計画を伝える。それとなく、みんなが避難したくらいでがしゃどくろがいいポジションを見つけた。
深呼吸をして神経を術に集中する。さっきのように優しくて、それでいて大きな術を弥和は九尾の郷全体に繰り出した。




