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 モーリー達の郷に着くと、晋作の話の通り結界で誰も入れないようになっていた。弥和には結界を視認することはできないが、郷の入口に立つと何かに弾かれる感覚になった。

『とても質のいい結界ですね。後で二人を褒めることにしましょう。……では皆さん、下がっていてください』

 晴明はそう言うとなにやら唱え始めた。すると、結界がパリンっと破れる音がした。これで入れる!  と先陣を切ろうとした弥和を騰蛇と朱雀が肩を掴んで止める。

『……我が姫?  今、何をしようとしていた?』

「え?  結界が消えたけん、中に入ろうと……」

『……晴明に先陣は任せような』

『……滝夜叉姫よ……。我が姫はいつもこんな感じなのか?』

『そうです』

 滝夜叉姫の遠い目を見て、騰蛇と朱雀は何かを察して同じく遠い目をした。しかも、滝夜叉姫だけではなく、晋作やひかり、蒼葉までもが頷いたために他の十二天将たちも遠い目をした。

 ただ一人、晴明だけが『ふふ、流石ですね』と口元を衣の裾で隠しながら微笑んでいた。

『我が姫、先陣は晴明と俺が行く。姫は二柱から離れるな』

「わかった!」

『……なぜ青龍の言うことなら素直に聞くんだ』

 守るのは自分の役目なのにと、朱雀が拗ねている。青龍が姿を見せてから、弥和はずっと青龍に話しかけていたので。

 先陣には晴明・青龍、晋作・天后、ひかり・六合、朱雀・弥和・騰蛇、瑠季・白虎、蒼葉・勾陳、そしてしんがりには滝夜叉姫・がしゃどくろになった。

 がしゃどくろはいざと言う時にだけ来るはずだったが、滝夜叉姫が心配になって、出てきてしまったのだ。自分を見たら怖がるかもしれないと思っていた弥和に「おっきーーー!!  本物や!  姫をよろしくね!」と言われ戸惑っていた。

『喜んでおきなさい、この子はこういう子ですから』

 晴明にそう言われ、がしゃどくろはニコリと微笑んで見せた。それを見た弥和はまた喜んだのだった。

 一行が郷の中に進もうとすると、モーリーを先頭にして九尾たちが待ち構えている。思わずモーリーの所へ走ろうとした弥和を騰蛇が止めに入る。

「騰蛇さん?」

『何か様子がおかしい。晴明にまかせよう』

 先程とは違い、十二天将や蒼葉、がしゃどくろまでが嫌な雰囲気を感じ取って何かを警戒するように顔を顰めている。モーリー達は、弥和達を歓迎しているようには見えなかった。むしろ、睨んでいるような感じがする。

『急に煩わしい結界が消えたと思ったら、素敵な客がこんなにも……。あら、晋作さまわらわが恋しくなられたのですか?』

 モーリー達の後ろから、滝夜叉姫とも葛の葉とも違う雰囲気の着物を着た美しい女性が現れた。彼女の目には晋作の事しか見えていないようだ。

『玉藻前。お元気そうですね』

『お前は……。あの時の陰陽師か。まだ生きておったのか、しぶといな』

『殺生石にしたはずが出てきた貴方に言われたくありませんね』

『ふん、わらわには道満からもらったこれがあるのだ。今度はお前に負けん』

 そう言って玉藻前が取り出したのは、一枚の御札のようだった。晴明は見ただけで分かった。それは、生前対峙した時に道満が使っていたモノに間違いはなかった。

 晋作がモーリーに聞いた話は本当のことのようだった。

『ふふふ、晴明よ。久しいのう』

 御札から出てきたのは、晴明とは対称的に黒くて所々が破れた衣を来た無精髭の男だった。何だか嫌な雰囲気がして、弥和は思わず騰蛇の後ろに隠れた。あの男は危険だと、体の奥の何かが忠告してくる。

『ほう……。狐の姫さんやら滝夜叉姫やら連れてきて、一体何のようだ、晴明?』

「え?  狐の姫?  誰が?」

 道満の言葉を聞いて、一体誰のことを狐の姫と呼んでいるのだろうか。そんな弥和の様子を見て、道満は気の毒そうな顔で弥和を見つめた。

『俺ですら見ただけで分かるというのに、晴明お前、まだ伝えておらんのか』

『私たちのことです。あなたには関係ないでしょう』

『まあ、それはそうだがなあ』

  ライバルと聞いていたから、てっきり対面してすぐに一触即発の戦いになるかと思いきや呑気に旧友との会話のようで弥和は驚いた。

 驚いたのは弥和だけではなく、玉藻前の方もだった。自分以外のモノが『狐の姫』と揶揄されるのも気に食わなかったのだから。

『おい、道満!  なんだその狐の姫とは!?  わらわの事ではないのか!?』

『なんだ、九尾のくせにうるさいな。滅せよ』

『ギャッ!?』

 詰め寄ってきた玉藻前に対して、道満はわずわらしそうに術を使って消してしまった。後には、彼女が身につけていた衣だけが残されてしまった。

 玉藻前は消滅したのに、モーリー達はなぜかそのまま何も言わずにこちらを睨んでいる。術を掛けていたのは、玉藻前ではなかったようだ。

『……なるほど、すべては私を倒すための囮のようなものだったわけですか。千年もよくも掛けてくれましたね』

『ふふふ、たまたま殺生石を通りかかったら、お前への恨み言を吐いておったのでな。利用させてもらっただけだ』

『その感じだと、玉藻前が人間の男性を攫ってきていたのは、貴方のためですね。どうせ、人間たちの生気を吸ってそこまで回復したのでしょう?』

『さすが陰陽師どのだなあ!  そうさ、あやつに生気が多い人間を連れて来てもらってここで回復していた。この結界は予想外だったがな。お陰さんで、またお前と勝負ができる』

 騰蛇の背中の後ろに隠れながら、弥和は玉藻前を気の毒に思っていた。いくら、自分やモーリーたちに悪さをしようとしていたとしても、騙されて捨て駒のように消滅させられた。モーリーたちだけではなく、玉藻前の分も道満に復讐したい。

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