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結果的に、一行は二手に別れることになった。葛の葉、桃音、りんがキツネの郷に行って紅音たちを助けに行くことにして、吉田さまを除く全員が玉藻前を倒すことに決定した。吉田さまは松蔭神社で、みんなの留守を守ることになったのだ。りん達が帰ってきた時、弥和たちが帰ってきた時に「おかえり」を言う人が一人でもいる方がいいと言って。
『そうですね。ではここを拠点としますからよろしくお願いします』
晴明はそう言って、出発した。キツネの郷から晋作は出発していたので、今回も同じように進むことにしたのだ。だから、途中までは葛の葉達と一緒だ。
弥和は少しこの旅で困ることが出来てしまった。
『なあ、弥和よ。人間の世界が嫌になったりしたことはないか? 嫌になったらいつでもわらわの森へ歓迎するぞ』
『母上、いい加減にしてくださいよ。弥和は貴方と違って人間です。弥和、怖いことがあれば私を呼んでくださいね』
「……う、うーん」
この機会に自分こそが弥和に好かれようとして、葛の葉と晴明の間に挟まれていた。初めて会ったにも関わらず、二人は何かと世話を焼きたがったり、甘やかしてくる。そんな二人に、若干弥和は引いていた。
郷に着くと、葛の葉が弥和と離れたくないと駄々をこねたが晴明が微笑むと固まってしまった。
母親から見てもそうとう怖いのだろう。
『弥和、今のうちに十二天将を紹介しておきます。騰蛇と朱雀です。私は玉藻前にかかりきりになってしまいます。そうなると、貴方を守れないかもしれない。しかし、必ずこの二柱が貴方を守ってくれます』
晴明がそう言うと、弥和の後ろに突然二柱が現れた。初めて会ったはずなのに、何故か各々を判別できた。
『久しいな、我が姫よ。息災であったか。我は十二天将・騰蛇』
『おい、騰蛇。あの頃姫は赤子だったろ、きっと覚えちゃいないさ。俺が十二天将・朱雀だ』
騰蛇と朱雀はそれぞれ、男性の姿をしていた。二柱とも、いかにもな武人という服装をしている。何故か「姫」と呼んでくるのか、そして以前も逢ったことがあるような口ぶりなのか。滝夜叉姫と晴明を交互に見るが二人は微笑むだけで教えてくれそうになかった。
葛の葉と晴明の攻防から免れたかと思いきや、今度は騰蛇と朱雀の攻防に巻き込まれることになった。
「ねえ、晴明さん。紅音たちの所に十二天将は誰も行ってないん?」
何かとおんぶをしたがる二柱を無視して、少し気になっていたことを晴明に聞いた。自分には守ってくれる二柱がいるが、もし郷のほうに何かが起きたらと思ったのだ。
『いいえ、太陰というモノを置いてきています。隠密といって姿を隠せますから、信太からずっと母上を守らせています』
弥和が心配するまでもなく、晴明が色々と抜け目がない人のようだった。こういう人だからこそ、朝廷でも働けていたんだろう。
『姫、ちなみに言うと瑠季には白虎、蒼葉には勾陳、晋作には天后、ひかりには六合が隠密で守りの体制を取っている。滝夜叉姫には、今だけ妖怪のがしゃどくろがいざと言うときにくるようになっている』
騰蛇が弥和を安心させるようにだろう、一柱ずつ説明していくと名を呼ばれた者が順番に姿を現した。弥和と晋作以外は、十二天将たちの気配を感じていたらしく驚いた様子はない。
『ありがとうございます。とても心強い』
晋作が側にいる天后に頭を下げると、天后はそっぽを向いてしまった。
『礼を言うのはまだ早い。それに我らは我が姫が戦うというから出向いたまでだ。勘違いするな、お前の為などではない』
「ねえ、騰蛇さん」
『なんだ、我が姫よ』
弥和に話しかけられて嬉しさを隠しきれない騰蛇に、弥和はこっそりと聞いてみた。
「晴明さんが危なくなったら私を置いてでもいいからさ、守って上げてね」
そんな事を言い始めた弥和を見て、騰蛇は朱雀と目配せをして弥和も含めて結界をかけた。弥和たちの気配が消えたら晴明は直ぐに分かる。朱雀は言い訳をしてくれるようだった。
『我らに結界を掛けている。外に声が盛れることはないし、我が誰かに話すことだってない。姫よ、どうして急にそんな事を申すのだ?』
騰蛇に優しく問いかけられて、弥和は口を開いた。
「私、昔から妖怪とか見えたり話せたりしてて。それでか分からないけど、ずっと晴明さんが気になってたの。今目の前にして思った。あの人、なんでも自分でなんとかできちゃう人やろ? 自分だって危ない目に遭うかもしれんのに私たちを守ろうとする。あの人が危なくなったら、誰が助けてくれるん?」
騰蛇は静かに話を聞いて、微笑みながら弥和の頭を撫でた。あの頃は姫を人間の世界に送り込む事を反対したが、随分と優しい心を持った子に育ったと。
『姫、安心しろ。晴明にも十二天将・青龍が隠密で一緒にいる。何かあればあやつは晴明を守ってくれるだろう。それに、一度戦った相手だ。多少強くなっていたとしても、我らが主は負けまいよ』
「護衛がいるなら言ってくれればいいのに」
要らぬ心配だったと、弥和は拗ねてしまったが騰蛇は嬉しかった。あとで晴明に教えてやろうか。
『気になるだろうから、後で青龍も紹介しようか、姫? 突然青龍が出てきたら驚くだろう?』
「助かる! ありがとう、騰蛇さん」
『おい、晴明。人が悪いぞ』
『何のことですか?』
弥和を朱雀に預けた騰蛇は、さっそく晴明の所に追いついて文句を言い始めたが晴明には責められるような事は思い当たらなかった。
『お前の言い方が悪いせいで、姫がいらない心配をしていた。他のみんなを守ろうとはするのに、晴明が危なくなったら誰がお前を助けるのかと』
『はい?』
そんな優しい心配をされてこなかった晴明は目を丸くした。なんでもそつなくこなしてしまうからと、当時から人に好かれていなかった。だからだろう、人間嫌いで有名な男だった。しかし、家族には優しく奥方が式神を怖がると一条戻り橋に式神を封印したんだから。
『私には青龍を一応付けていますが……』
『そのことは、先程我が教えた。太陰の事を説明したときにでも、青龍のことは言えただろう』
『……あまり言うと、あの子が怖がるかもしれないではないですか』
『あの子は奥方とは違うぞ、晴明』
『……ずっと黙っていたが、お前たち歩くのが早いぞ。みんな着いてきていない』
いつの間にか話に夢中になっていた騰蛇と晴明は、他のみんなを置いていってしまっている状態だった。三メートル後に必死な顔の弥和や滝夜叉姫が歩いてきている。瑠季はもうあ疲れて歩けなくなっていて、猫の姿で白虎に抱かれている。
隠密で成り行きを見守っていた青龍だったが、あまりにも晴明たちが気がついていないので声を掛けてきたのだった。青龍に言われなかったら、はぐれて居たかもしれない。危ない所だったと晴明たちは反省した。
反省しているかたわらで、青龍は弥和に自己紹介をしていた。青龍の優しげで綺麗な蒼色の瞳と髪を気に入った弥和は、彼を褒め始めた。
それを見た他の十二天将たちが、我も我もと弥和に褒めてくれと迫り睨まれたのは、また別の機会に。




