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弥和はその日、有給をとって滝夜叉姫、瑠季、ひかりと共に再び萩を訪れていた。モーリーや紅音たちに何があったのか、きちんと晋作から聞こうとしていた。戻ってきてから前後の記憶がないと聞いているが、もしかしたら覚えていることや思い出した事があるかもしれないと思ったからだった。
それに、あの手紙を読んでから魂の奥で何かが叫んでいるような、闘えと言われている気がしてならなかったのだ。やらなければならない、必ず自分が。そんな気持ちが湧き上がってくるのだ。そんな弥和の心の内を滝夜叉姫は気づいていたが、何も言わなかった。
『弥和。お久しぶりですね、お元気でしたか?』
萩・松蔭神社に着くと、吉田さまや晋作だけではなく蒼葉や桃音も来ていた。どうやら弥和たちが話をしにくるときいて、やってきたようだった。二人も関係者にかわりはないので。
「うん、あの時は馬を貸してくれてありがとう。それで、紅音たちと何があったの?」
『すみません。実は手紙にも書きましたが、転移の影響なのか前後の記憶がないのです』
「うそだ。晋作はいつも嘘をつく時、軽く手遊びする」
弥和は、人間だけではなく妖怪やそういう存在のことをよく見ていた。この事は師匠である吉田さまでさえ知らないことだったようだ。目を見開いて晋作と弥和を交互に見ている。図星だったのだろうか、晋作は小さくため息をついて真っ直ぐに弥和を見た。
『……聞いて、後悔しませんか?』
「しない。聞かない方が後悔するような気がしちょるの。お願い、何があったん?」
晋作は真っ直ぐに即答した弥和から視線を外して、蒼葉と桃音を見る。無言で二人は頷いた。二人も覚悟はしているようだった。特に桃音は、顔が少し強ばっていて、りんが肩を抱いている。
その場の全員の覚悟を確認した晋作は、何が起こったのか詳しく話した。三人の覚悟を聞いて目をつぶる者、視線を逸らす者が居る中で弥和だけは真っ直ぐに晋作の目を見て聞いていた。全て聞き終えると桃音は体の力が抜けて座り込んでしまった。
『……何かお覚悟をされて出かけられたのは、分かっていました。しかし、まさかこんな事になっていただなんて……。ずっとお傍で指導をしていただいていたのに、紅音さまのお考えをきちんと理解していませんでした。……失格ですね、私は』
静かにぽろぽろと大きな涙を零す桃音を、りんが支えながら別部屋に連れて行く。部屋を出る時に、吉田さまが暖かいお茶を渡すように指示を出した。それを見た滝夜叉姫は、りんにお菓子を手渡した。
『少し落ち着いたら、一緒に食べなさい。……綺麗ごとかもしれないが、桃音のせいではないと言ってやってくれ』
『わかりました。ありがとうございます』
二人が部屋を出ると、そこには静寂が生まれた。蒼葉は、勝手に桃音を置いて妖力を使い切った二人の事を責められなかった。もしも自分が同じような立場になったらきっと、同じことをしたと思ったからだ。そして、結界を施して欲しいと懇願したモーリーのことも。そして、そんな三人の意図を汲んで記憶喪失の演技をした晋作のことも。
「ねえ、晋作。そこって私は行けないのかな」
『は? 弥和、何言ってるか分かっておるのか?』
「何故かは分からないけど、玉藻前のことを倒せる気がしてる」
その自信は一体どこからくるのだろうか。晋作が珍しくドン引いている。吉田さまと蒼葉に限っては、揃って天を仰いでしまったので前回を思い出して何かを諦めたのだろう。遠い目をしているので……。
しかし、まだ"あの方"が到着されていない。晴明すら来ていない状態で弥和を向かわせるわけにはいかない。滝夜叉姫は何と言って出発を遅らせようかと、ぐるぐる考え込んだ。
ずっと黙って成り行きを見守る姿勢を取っていた瑠季が弥和に向き直って問いかけた。
『ねえ、弥和。一つ聞いても良い?』
「どうしたん?」
『昔、神だった時があるから忠告するんだけどね。玉藻前はそうとうな妖力を持ち合わせてるし危険な存在だ。だからこそ、モーリーは自分たちごと結界を張ってほしいとお願いしたんだ。しかも転移が成功している。……考えたくはないけど多分転移に加担した九尾たちは、もう弥和が知ってる彼らじゃないかもしれない』
瑠季が何を言いたいのか、弥和は理解していた。理解しているからこそ、今すぐにでもモーリー達を救いに行きたいのだから。
『その顔は、この可能性を考えての行動なんでしょ? ならなおさらさ、きちんと準備を整えよう』
「……作戦会議ってこと?」
『そうだよ。幸い、姫が頼った存在が今ここに向かって来てくれてる。その方々を待って改めてきちんと作戦を練ろう。相手の対策も分かってない状態で行くなんて、命知らずにも程があるよ』
『確かに瑠季くんの言う通りですね。もう大体のことは連絡していて、向こうもわかっているのでしょう?』
『ああ。……何もするなとも言われている』
『ほらね』
分かりやすく、弥和は下を向いて拗ねてしまったが瑠季の言い分は正しいものだと分かっていた。




