第92話 御しきれない!!! まさかのPART2
支部の日常は地味だ。
雑用が多く、評価も目立たない。
それでも、この場所にいるからこそ、
見えるものがある。
エリセは、軽やかにペンを動かし続けた。
そしていまだ引き出しの奥では、
がん、がん、どかん
と、金属を内側から殴るような音が続いていた。
エリセは一度、視線を机の引き出しに戻した。
「……忘れてた」
引き出しを開けようと手を伸ばした時、
「うるさいと言っておろうが」
怒号とともに、ものすごい勢いで引き出しが開き、
中から白い手が飛び出した。
(ちょ、待――)
「キシャーーーーーッッ」
次の瞬間。
人型のセラフィスが、黒蛇の首根っこを押さえつけたまま、
容赦なく拳を落としていた。
ずごん。
殴られた反射で、黒蛇の体表を雷光が走った。
ばちっ!!
次の瞬間、
机の上の金属製トレー、ペン立て、書類留めに
一斉に電気が回る。
「――っ!?」
エリセは、椅子ごとびくんと跳ねた。
「いだだだだだっ!?」
ペンを落とし、肩をすくめ、完全に感電した顔で固まる。
「ショワッ!!!」
(うわっ、ごめん!!
違うねん、今のは反射や!!)
黒蛇が叫ぶ。
「ふんっ!余は悪ぅない」
セラフィスは即答だった。
「ブシャーーーーーッッ」
(いや、殴ったやろ!!)
「そも、お前が騒がしいからぞ」
そのまま、セラフィスは指先をひねり、
短く、冷えた声で呪言を吐いた。
「――騒音よ、骨ごと沈め」
空気が、
ひやりと歪む。
「ショ……」
(ちょっ、やめ――!)
次の瞬間、
ネクレオスの体表が強く光った。
ばちっ!!
呪いを打ち払う雷撃。
「いたっ!!」
エリセの悲鳴が上がる。
「ショッ!?」
(ごめん!!ほんまにごめん!!)
「――黙れ」
セラフィスは即座に、
さらに物騒な呪言を重ねる。
「余の眠りを妨げし雷よ、
主を穿ち、尾から焼け落ちよ」
「シャーーーーーッッ!!!」
(やから、それやめぇ言うて――)
ばちばちっ!!
「――あいたっ!!」
エリセはもう、悲鳴を上げるしかなかった。
「ブショッ!!!」
黒蛇は、首根っこを掴まれたまま必死に謝る。
(エリセ!!
ほんまに違うねん!!今のも防御や!!)
セラフィスは、一切悪びれない。
そのとき。
黒蛇は、ふとエリセの椅子の背に掛かっていたものに気づいた。
黒いローブ。
稲妻の紋章の刺繍——先日がエリセに渡したローブだ。
(これや!)
黒蛇は、器用に尾でローブを引っ掛け、
そのままエリセに押し付けた。
「シュワッ!!!」
「……え?」
「シュワワッ!!
シュシャーッッ!!」
半ば押し切られる形(?)で、エリセはローブを羽織る。
次の瞬間。
セラフィスが、またも呪言を吐いた。
「ならば――」
ばちっ。
雷は走ったが、今度はエリセに届かなかった。
ローブの刺繍が、かすかに光るだけだ。
「……」
エリセは、無言で自分の袖を見下ろし、
ゆっくり顔を上げた。
「……もう、これ着たまま仕事します」
頭を上下に何度も振る黒蛇。
「初めから、そうしておればよかったものを 」
誰も反省していない。
エリセは深く息を吐き、
ローブの前を整え、
感電で少し逆立った前髪を直し、
落ちたペンを拾い、
もう一度、書類の山に向き直る。
(……明日からは、
蛇を収納する場所をちゃんと考えよう……)




