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第50話 キラめく星の回廊を渡って出勤/カオスでした

しんしんと星が降る中、ハラリと落ちてきた白金の葉をエリセは拾い、指先でそっと撫でながら溜息を吐いた。

「どうした?」

ツィグナトが懐中時計を開きながら聞いてくる。

そこからは星々の輝きを閉じ込めたような核水晶が浮かび上がり、周囲を金色の光輪が幾重にも回転しはじめる。

「ぅわっ!きれい!!!」

エリセは目を輝かせ、思わずツィグナトの傍に駆け寄ってしまった。

「……」

近すぎる距離に気づいて、居心地悪げに息を詰める。だが、胸に浮かんだ想いは言葉になって零れていた。

「――もっと見ていたいなって。この星々も、聖樹……伝承の景色を。」

ラゼルにはどうしても口にできなかった憧れが、なぜかツィグナトには素直に言えてしまう。

「……そうか」

短い相槌に、なぜか心が温かく満たされる。

光輪が解けて宙に散り、きらめく粒子が星屑の川を編み始めていた。

天穹の裂け目から光が降り、星と星とを結ぶように架けられてゆく。

「これは《星辰環せいしんかん》といって、星域とアストルネアの神殿を行き来するための魔術具なんだ。銀樹の枝とは違って回数も人数も制限なしだ。本来は旅の女神セリオス様を祭った神殿にしか出口はつくれないんだけど……ナトは器用だからさ。どこでもいける……」

ラゼルが少し身を傾け、耳元で微かに何かを受信する。

「……あ、来た来た。イリディアから安全な足場の座標が届いた。座標は……《00649385934……》あれ、最後の方が受信しづらいな。使用権限譲渡の影響か?まいったな」

ラゼルが振り返り笑う。「まぁ、大体わかれば大丈夫だろ?」

ツィグナトは小さく肩をすくめた。

「……まぁいいがな」文句は受け付けない、とでも言うように「淡々と手元の《星辰環せいしんかん》に情報を書き込むと、器具が淡く光り応えた

完成した回廊へ、ラゼルが先んじて飛び乗る。片足でダンダン!と星橋を踏んで、「さすがナト!安定の安心感だ♪」と楽しげに笑った。

振り返ったセラフィスが、じっとエリセを見据える。

「小娘、早よ来ぬか 」

「さっき『人の身で触れてよいものか』とか、『あたしがいるから枝にした』って言ってたから……これ、渡ってもいいのかな?って」

セラフィスはどこかムスッとした顔で答える。

「ナトが一緒ならば問題にならん。……庇護があるからな」

彼女の声音には、ほんのわずか棘が混じっていた。ナトが寄り添うべきは“余”であるはずなのに――小娘の言葉は、なぜかナトに届く。胸に滲んだ苛立ちを、セラフィスは押し殺すしかなかった。

(ヒゴ……とはなんぞ???)

エリセにはその言葉も、セラフィスの感情もわからない。

ただ、先生の近くにいると、不思議なくらい心踊る。

……わからないことは置いておこう。

今は、この綺麗で不思議で稀有な体験を目一杯 堪能する!

「わぁ……」

一歩踏み出すたびに、星屑がぱらぱらと舞い上がり、足元の光橋が歌うように震えた。先生が傍にいる時の安心感は、ほんとうに半端ない。

――しかし、のんびり回廊を渡り終えた瞬間、目の前に広がったのは混沌の光景だった。

エンリルの歯車の前、大勢が右往左往している。術規の支部長も、友達のユフィの姿も。 監査官ヴィステ・ゼルハイムは頭を抱えてうずくまっていた。

「わからない……わからないんだ……そもそも起動したと思ったら突然、歯車が消えてしまったんだ!起動しただけなんだ、それ以外何もしていない」

そんな騒然とした場に、エリセとラゼルだけが放り出される。ツィグナトとセラフィスは姿を見せない。

(……ぎゃっ、まさかの真っ只中!!ひどくない!?)

「ラゼル=ネイム? ……貴様一体今までどこに!?」

ヴァレクシアのスタッフがすっかり疲れ果てた声で怒鳴った。

「エリセくん!」

(術式技術規正機構――通称“術技”ルザリオ支部長ターバリ・スカルプが、寂しくなった頭を両手で抱えてアタシの帰還を喜んでくれる。……うん、やっぱり最高の上司!)

「無事でよかった……本当に、よかったな」

「エリセ!!」

ユフィも駆け寄り、雪白のローブを揺らして笑顔で手を伸ばす。透き通るような瞳、細身の体に加え、健康的なナイスバデーに思わず目がいく。

「どこも怪我してない?すごい心配したんだから!」

「エリセ!!!」

理屈屋レジットまで駆け寄ってきた。

(いや、お前は違うだろ! 駆け寄らなくていいから!)

エリセは思わずラゼルをレジットの方へ押し出した。

「ラ、ラゼル=ネイムさん!!!ご無事で何よりです」

「げ」

(エリセ、僕を餌にしただろ)

(あいつ敬虔なラゼル教の信者だからね)

二人そろって呆れ混じりの乾いた笑いしか出てこなかった。

ラゼルは苦笑いを浮かべ、レジットの言葉に小さく肩をすくめる。

「あー、僕、君達が上手くいかなかった理由、ちょっとわかった気がする」

「なっ、いきなり何!?」

「尽くしたから沿わなかったんだ。あいつ、被虐系だな」

「う、嘘ぉ……」

ラゼルは思わず苦笑し、エリセもレジットを避けつつ呆れ顔。乾いた笑いの間に、ふっと肩の力が抜けた。

だが、その余韻はほんの束の間だった。周囲からざわめきと慌ただしい足音が響き、誰かの怒声が上空に跳ねた。

「ラゼル=ネイム、貴様うちの技術員をどこへやった!」

「あっ、それそれ!まず急ぎのソレから片付けよう」

ポンと両手を打ち、レジットの接近を避けつつ展示ホール第5区画へ向かおうとしたところ――

少し疲れ気味だが相変わらずテンションの高いオルディア技術陣と、ぐったりしたヴァレクシアの技師たちを引き連れ、濃灰色 の外套、顔は髪に隠れてよく見えない——ツィグナトが現れた。



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