本来の目的
「ところでお前ら、入り口でずっと立ち話してたのか?」
一通り話し合えた入江先生が私たちに問いかける。
「こちらは宇佐美の保護者さんだろ?その方々に失礼の無いようにはしろ」
最もな指摘だった。この場にいる全員がなにも言うことができないでいると、宇佐美さんのお姉さんらしき人が声を上げた。
「こちらは全然大丈夫ですよ。それよりも夏夜さんたちは、何かやることがあったんじゃない?」
宇佐美さんとの一瞬の会話で、いつの間にか名前が覚えられていたようだ。本来の目的を思い出したと同時に、そこで初めてまだ自己紹介をしていないことに気づく。
「し、失礼しました!私は宇佐美さんと同じクラスの葉山 夏夜といいます。自己紹介が遅れてしまい、すみませんでした。」
大慌てに自己紹介を済ませる。すかさず、彼女からのフォローが入る。
「いいのよ、全然!私たちだって言っていなかったんだし。私は宇佐美 美月。他の方たちのお名前はあとでまた詳しく聞かせてね」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて見回りへ行ってきます」
冬弥先輩は礼儀正しく会釈をし、廊下へ出る。先輩へ続いて、私も廊下へ一歩踏み出した。
――部室からしばらく歩いたが、未だに人とは出会っていなかった。それもそうだろう。外は、もう薄暗くなっていた。時計を見るとちょうど6時を回るところだ。残っているのならば、まだ片付けが終わっていない生徒か職員のどちらかだろう。宇佐美さんのように保護者と一緒に行動しているのはあまり見ない例である。
「誰もいないね〜。なんか、面白いことやってよ、暁斗くん」
ついに飽きてしまった冬弥先輩が、暁斗へ無茶振りをし始める。
「やらねーよ!!つーかよ、先生もいないもんなのか?」
無茶振りをうまくかわしつつ、問いを投げる。
「いや、普通はいるんだけどね。なんでかな〜?」
例年とは違う状況ではあると理解しているようだ。しかし、その態度からは不安や焦りといったものは感じ取れない。
「…。でも、余裕そうですね?」
「まぁ、居ないだろうとは思ってたからね」
笑みを浮かべながら答える。ずいぶんと余裕のようだ。
「はぁ、正直飽きてきたなぁ。」
どうやら、自ら口にだしてしまうほどこの見回りに飽きてしまったらしい。確かに、疲れてきたところではあった。人がいない分、校舎が広く感じる。2棟に分かれている校舎を全て見回る頃には私たちは息を切らしているだろう。ここまでもめぼしい収穫は無く、無意味なことなのではとも考えるほどだ。飽きてしまうのも仕方のないことだった。口数がどんどん減り、無言で歩みを進める。
「もっと効率のいいやり方ないのかよ」
全員が歩みを止めた頃、暁斗がこの状況の打開策を求めた。ドカッとその場に座りこむ暁斗は、歩きたくないと駄々をこねる犬のようだった。
「そうだなぁ。…じゃあ、もう放送で呼びかけちゃおっか!」
なるほど、その手があったか。打開策が見つかったことで、どんよりとした暁斗の目が輝いたような気がした。
「善は急げだよ。ふたりとも、さっそく放送室に向かおう!」




