『めぐるん』こと入江環
甲高い声が聞こえる。1人、2人、…いや、3人。これは子供の声だろう。
「つかまえてみろ!」
「まって!大ちゃんがおくれてるよ!」
「ふたりとも、まってよ〜!!」
追いかけっこでもしているのだろうか?楽しそうな声。懐かしいな、なんて思いつついると低い男の人の声が聞こえた。
「よ〜し。捕まえたぞ。」
この声は聞いたことがある。いつも学校で聞いている声。だんだんと、たくさんの声がこちらに集まってくるのを感じる。
「いっちば〜ん!」
そう言って、1人の男の子が宇佐美さんたちの脇から飛び出してきた。続いて、女の子が、そして最後に他の2人よりも小さい男の子とその子を抱えた男の人がこちらへ顔を出した。
「あ、やっぱり!入江先生だったんですね!」
「お、葉山に宇佐美まで。文化祭、楽しんでるか?」
彼の名前は、入江 環。理科の教師であり、私たち1年4組の担任でもある。常にテンションは低く、表情も豊かではない。頬に火傷痕のような古傷があり、寝不足なのか、くまもできている。それを隠すようにコンシーラーを塗って、太縁の眼鏡をかけているが、あまりにもくま濃すぎて生徒全員からはバレバレである。それくらい教師という仕事は大変なのだろうと常々感じている。
(みんな、くまができるくらい大変なんだよね、きっと)
愛想はないが、頼りがいはあり、生徒からの人気は校内でもトップだろう。クラスに馴染めていない私を気にかけ、相談にも親身に乗ってくれた。絡みやすい雰囲気も相まってかあだ名がつけられ、それで呼ばれている。そのあだ名は、『めぐるん』。
「めぐる〜ん。その子供だぁれ?めぐるんの子供?」
ここに愛用者が1人。宇佐美さんだ。彼女もこのあだ名の愛用者である。
「あぁ。コイツらか。ん〜、説明しにくいんだが、まぁ保護者ではあるが俺の子供ではない。」
「意味わかんねー」
ボソッと私の横で暁斗が呟いたのが聞こえた。確かに、複雑ではある。要するに、父親ではないということなのだろう。現在独身であること、そして結婚歴はないということを本人の口から聞いたため、辻褄はあう。本当かは分からないが…。彼曰く、自己紹介では定番のネタらしい。
「名前はなんと言うんですか?」
「そうだな。おい、お前ら。挨拶しろ。」
言葉こそは乱暴だったが、先生が彼らに向ける眼差しは太陽の光のように暖かく、穏やかで優しかった。




