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狭間の唄  作者: 秋口峻砂
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弐、花、求めしは

華と楔、其の弐

 白い簪を挿した艶やかなその姿は花魁ですら裸足で逃げ出すに違いなかろう。だが女のそれから香る色香において最も強いものは、色艶よりも清廉さであろう。

 彼女が歩けば男どもが振り向く。だがその男どもを歯牙にも掛けない。むしろ存在そのものを無視すらしているようにすら見える。それがその女にとっての強さなのだろうか。

 ある隻眼の男が女をじっと見詰めている。肩に担いだ大きな槍の手入れは行き届いている。だがこの槍ではこの女は殺せはしない。一突きすることができれば無論死ぬであろう。だが隻眼には女を突くことなど決して出来ない。

 ひととしての格が違う。女は武器など必要としていない。綺麗な花は摘まれ奪われ穢されるというが、それは真に美しい花を知らぬからだ。この女のように真に美しい花は決して奪われることなどない。何故ならば、なんぴとたりとも触れることすらできぬのだから。

「もし、そこのひと」

 唐突に、その女が隻眼に声を掛けた。隻眼は驚きを隠しながら、女に「なんだ」と問い返した。

「あなたはどうして、その眼を失ったのですか」

 どうやら好奇らしい言葉に隻眼は苦笑する。女にこう返す。

「むかし、ある女を守った時に負った傷だ」

「後悔していますか」

「いや、していない」

「どうしてですか」

「男は女を守るべきだ」

「それは戯言ではありませんか」

「ははは、そうかもしれぬな」

 隻眼はさも可笑しそうに笑う。そして女をじっと見詰め、不意に女の細い顎にてのひらを当てる。

「お前、もしやあの時の」

「お探し申し上げておりました」

「綺麗になったものだな」

「ええ、綺麗になりました、あなたの為に」

「俺の為になのか」

「はい」

 女の目は幽か潤んでおり、そして触れた純白く細い顎は小さく震えていた。それはやはり隻眼にこの女には触れてはならぬと告げている。男として、この女をものにすることは大きな殊勲だろうが、そんなくだらぬものの為にこの美し過ぎる花を汚すことなど決してできぬ、できぬのだ。

「俺の傍にいろ、守ってやる」

「触れてはくれませぬか」

「ああ、だが守ってやる」

「それが、貴方の愛でございますか」

「ああ」

 女は俯いて唇を噛み締めると、視線を上げて「はい」と呟いた。

 不器用であれ、それは愛なのだと知ったのだろうか。

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