壱、狭間の唄
原稿用紙五十三枚、幻想、華と楔、其の壱
恋しいと思うことすら許されぬ間柄。
触れれば「よして」と君は言う。言葉に棘、だが棘こそ愛しさ。
宵の口にふらふらり、ここは彷徨う亡霊の街。あすこに転がる骸には、ほうら薔薇が咲いているよ。
狭間に漂う私と君は、決して交われぬ雄と雌。犬ならまだよい、されど私らは豚の類。
「貴方はどうして、私に触れるのですか」
「愛しさ故に」
「愛しさとは色欲ですか」
「色欲も愛ぞ」
「血を捨てろと仰りますか」
「私は捨てた」
押し問答に憎しみすら篭る。愛しいからこそ奪いたいのだ。それが君には汚らわしく映るのか。
ならば愛とは何ぞや。奪うことは愛ではないというのか。色欲の果てに見える涅槃が愛だとどうして思わぬのか。血の繋がり如き、獣には意味もない。君は私を思うているからこそ、そうして傍にいるのだ。それが何故分からぬ。
「私は獣ではありませぬ」
「いや獣ぞ」
「私は人です」
「人とて獣ぞ」
「愛を知る獣なんぞいましょうか」
「ここにいる」
「貴方は人です」
「君を奪う為ならば、私は獣でよい」
「どうして」
そこまで言い募り、君は小さく俯いた。ここにいるのだ、君の前に私は。
私が獣がなれば君の罪悪が和らぐのならば、私は獣でよい。ならば君は人であればよかろう。私を求めることが罪というならば、私が君を陵辱しようぞ。その果てに私の愛を知ればよい。
だが忘れずにいて欲しい。獣ではなく人だとすれば、君は最も穢れた生き物だということを。理屈屁理屈を捏ねるのは結構。それで君の罪が和らぐのならば、私はそれを咎めはすまい。
だが果てに知った愛はきっと、君に至上の愛と極上の苦悩を与えるだろう。
私は自ら穢れた。だが君は穢されることを望んだのだ。だから君は私の愛に焦がれるがいい。
「私を愛しておられますか」
「もちろん」
「私は貴方が嫌いです」
「そういう愛もまた或る」
「馬鹿」
「馬鹿で結構」
堪え切れぬように君は身を預けた。
指先で唇をなぞると、それは「愛してる」と小さく呟いた。
それが君の狭間の唄か。




