拾壱、髑髏日和
髑髏逸話、其の参
頭蓋に皹が入った髑髏は、ふらりふらりと路を歩く。右腕は半ばから落ち、左手には錆が浮いた刀を持つ。
その錆はそれが吸った夥しい血を表す。
どうして、何故と問うてはならぬ。生きていく為に斬り捨てた全てには、何の言い訳にもならぬのだ。
「待ちやがれい。兄者の仇、討たせてもらう」
木陰から姿を現したのは独りの侍。なるほど、何処ぞの家に仕える名のある者の様だ。獲物を構えるその姿には、隙らしい隙など見当たりもせぬ。
髑髏は小さく溜息を吐き、その錆の切先を侍に突き付けた。それを見た侍は、裂帛の気合を発し、もう一度刀を構え直す。
侍を見、その面影から髑髏はある男を思い出した。それは自分の好き好敵手であった男。ある事情から果し合いをせねばならなくなった男。そして己の剣で斬り捨てた相手の中で、たった一人だけ後悔させた男。
「俺は絶対に赦さぬ。兄者は貴様を心底好いていた。貴様を親友だと言っておった。それなのに貴様は」
言い訳などせぬ。例え奴が己の妻と蜜月の日々を送り、自分を裏切っていたのだとしても。それを奴の親兄弟姉妹に伝えぬのも、自分の名を貶めてでも親友であった男の名誉を守りたかったから。
交わした杯まで嘘だとは思えぬ。
不意に己の錆を見詰めた。この錆が髑髏が重ねてきた宿業、そして生の証。斬り捨ててきた全てを背負うは武士の宿命なれば、ここで奴の弟を切り捨てることもまた、武士の宿命なのか。
髑髏は錆を下段に構えた。対する侍は上段に刀を構える。ぴん、と空気が張り詰める。
侍が、裂帛の気合と共に髑髏に襲い掛かる。上段から一刀の元に斬り捨てようと、凄まじい斬戟が髑髏を襲う。
下段に構えていた髑髏は、す、と一歩だけ後ろに下がりそれを見切ると、振り下ろされた侍の両腕を肘のところから叩き落とした。
侍は悲鳴を上げて失われた己の両腕を見詰めた。そしてその場に座り込む。
「俺の腕を奪ったのはお前の兄だ。だから貴様からは両腕をもらった」
髑髏の言葉に、侍は彼を睨み付けた。これでいい。この男はきっと両腕を失ったとしても自分を追うだろう。
憎悪でも構わぬ。それでまだ生きようとするならば、それで。
言葉では伝わらぬ何かがあるのだ。
ほら、ご覧。天に髑髏が笑っている。今日はそんな髑髏日和さね。




