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狭間の唄  作者: 秋口峻砂
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拾、藍

髑髏逸話、其の弐

 転がる骸に藍色の花が咲く。より美しく咲くは眼窩より映える藍か。

「ふむ、頭に矢を受けましたか」

 骸に優しく触れ、女は優しげに笑った。

 その骸から咲く藍色の花は、その周囲に咲く藍色の花よりも美しい。ただそれが骸に咲くからなのか、それとも骸より何かを得ているからなのかは分からない。

「さて、この骸、どうしましょうか」

 女は眼窩に映える藍を一本引き抜く。すると根の張った目玉がずるりと引きずり出された。

「ふうむ、どちらにしても見付けはしましたね」

 女は懐から一冊の帳面を取り出すと、それに筆でさらさらさらりと何かを記した。そして骸の懐に手を突っ込み、身体に巻き付けられた糸通しの五文銭を引っ張り出す。そしてにっこりと微笑んだ。

 手に握られた藍色の花は、艶やかに笑んでいた。なんということだろうか、この花はひとの精を吸い艶やかに育ったというに、その姿には鮮烈さすら感じさせるのだ。

「罪深きは美しさ、かね」

「いえいえ、罪深きは人の業でございます」

 不意に花がそう応えた。女はきょとんとした表情で花を見詰めると、侮蔑を込めてこう言い切る。

「この男は既に死しておる。骸に業など残るまいか」

「違いまする。我らは風に乗り漂い、この骸に辿り着き申したのです。ここに転がることのない筈の骸が転がっていた。それは人の業以外なんと申しますや」

 成程、花の言葉にも一理。ここに転がる筈もない人の骸。そこに転がること自体が罪ならば、業を背負うて当然か。

「ふうむ、骸は焼けと言うか」

「いいえ、焼こうとも、その灰で我らは育ちます。人は人であるだけで罪でございます」

「詭弁を」

「あはは、やはりばれましたか。確かに詭弁です」

「だが真理でもありますね」

「そうでございますか」

「ええ、そうです」

 花はけたけたと笑った後、ぱったりと話さなくなった。女は花をじっと見詰め、そして小さく溜息を吐くと、骸に眼を向けて小さく呟いた。

「お帰りなさい、貴方」

 やっと探し出した想い人。

 女は骸に咲く藍色の花を一輪残らず抜き、その色を眼に焼き付けた。

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