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狭間の唄  作者: 秋口峻砂
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拾弐、鎮魂歌

髑髏逸話、其の四

 年の頃、十歳くらいの少女の目には真っ白い包帯が巻かれている。その少女はただ手を伸ばしゆっくりと歩いていた。

 路傍の様々な目は、彼女を嘲笑うかのように歪んでいた。

 目の代わりの杖は地面をこつこつと突く。少女には周囲が全く見えていない。それは当然、だが少女には周囲が見えている。この小汚い声が、少女に風景を見せてくれる。

 爪先の小石に躓き、少女がよろめくと、それを太い腕が支えた。

「ありがとうございます」

「お前はどうして歩く」

 唐突に掛けられたのは強い意志を含む低く唸るような声。その声を聞いた瞬間、少女には強烈な力を放つ黒い眼と髑髏が浮かんだ。

「歩かなければ家に帰れません」

「そうではない。歩く必要はない。お前は馬鹿ではない。周りが見えなくとも周りを解かっているだろう」

「それは買い被り過ぎです」

「そうか」

 髑髏は言葉を切り、その場でじっと少女を見ている。少女は髑髏の前で微笑んでいた。

 路傍の眼にとってそれは、あまりにも異様な光景。その髑髏は余りにも大きく、その少女はあまりにも小さかった。少女の前に佇むその髑髏の目は、悲しみに満ちていた。少女にはきっとその目の意味は分かるまい。

「俺はきっと赦されぬ」

「そうですか」

「ああ」

「それを決めるのは貴方ではないのではないはず」

「俺ではないのか」

「はい」

 ころころと小さく咽を鳴らす少女。髑髏は大きく息を吸うと頭をぼりぼりと掻いた。

「ですが、貴方様はもう赦されています、きっと」

「何故だ」

「貴方様は、病んで光を失った私を助けて下さいました。ですが貴方様は私に何も求められませぬ」

「求めるものなど在りもせぬ」

「赦されたいと申されました」

 髑髏はじっと少女を見詰めた。彼女が何を告げたいのか、それは分かる。だがこの少女に赦されたとして、一体何が変わろうか。

 無言になると、少女は小さな声で囁くように唄い始めた。その小難しい唄の中身は、男には何も分からない。だが髑髏はそれが己に対する赦しだと直感的に理解した。

「お前が赦す、そう申すのか」

 小さな歌声は髑髏にしか届かぬ。だからこそそれは髑髏の魂への鎮魂歌だった。

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