第7話 村の人気者
「んあ“ぁ〜〜、疲れた〜」
私たちはオリベル家に到着した。
明日も学校だというのにクタクタだ。
今思えば、なぜバッグをアイテムボックスに入れなかったのだろうか…。
まぁ、バッグを持っていないと不自然に思われるし、これでよかったのかもしれないが。
ジーナが寝間着姿で出てきて、私たちを出迎えた。
「おかえり。明日も学校なんだから…着替えてもう眠りなさい」
「は〜い」
「は〜い」
私たちは、自分たちの部屋に入ってすぐに着替えた。
ハンモックに横になると、沢山歩いたせいか足の裏がジンワリと暖かい。
横になってからもしばらく頭の中は、今日のことでいっぱいだった。
「トト様とまだまだもっと話がしたかったな……」
それにだ。私にもアムとピムが見えたという事は……やっぱり魔法が使えるのではないか?
……まだまだ分からないことが多いが、魔法と聞いてワクワクしないわけがない。
さっきステータスを見ても、数値は何も変わってはいなかった。
魔法のレベルも1のままだ。
今日これだけ歩いたのに筋力のレベルまでそのままだった。
一体どうやってどうなれば変わるのだろうか……。
考え事をしているうちにいつのまにか眠ってしまっていた。
異世界に転生して3日目の朝が来た。
慣れない生活のせいか、すでにもう何日も経ったように感じる。
朝食はユユの実だ。せっかく作ってもらっておいてなんだが、相変わらず味が薄いったらありゃしない…。
毎日食事を作ってくれているジーナに言うべきか言わまいか…相当迷ったが私は勇気を振り絞り、ジーナに言った。
「ジーナさん!今日の夕食私が作ってみても良い?この間の歓迎会のお礼に」
流石に味が薄すぎると言えなかった私は自分が作っておもてなしすることにした。
アンナが驚いた顔をしている。ジーナもだ。顔を見合わせ不思議そうにして呟いた。
「ポルテ…良いんだけど…男の人が台所に立つことがないから」
貨幣もないし……そんな古い考え方までこの村にはあるのか。
「いや、良いよ!料理はわりと得意だし」
「え、そおなの!?じゃあ…任せようかしら」
「うん!ゆっくりしててよ!」
そう言い残して私は学校へ行くべく、家を後にした。
道を歩きながら、今日もおめかししたアンナが聞いてきた。
「ポルテ…今晩何作ってくれるの?」
「シチューとパンでも作ろうかなって思ってさ」
「え。シチュー?何それ…大丈夫なの?」
「大丈夫だよ!」
ははーん…なるほど。アンナは美味しいのかどうか疑ってるな…。
昨日トト様の家に行く道でこっそり摘んだ食材を使って極上のシチューをお見舞いしてやるっっっ!
そして魔石をアイテムボックスへしまった時に分かったのだが、中にしまった物の事は大体の事が把握できるのだ。
つまり…食材として食べられるかどうかもだ。
私たちは学校へ到着した。
いきなり私はアッシュに絡まれた。
「おいっ新入り〜。俺様の手下にしてやっても良いぜ」
「あ。結構です〜」
「あ、ちょ!お前っ!!!」
「アーハッハッハ!」
私がアッシュを軽くあしらうとアンナが大笑いしていた。
「まぁまぁ…アッシュ…」
立ち去って様子を見ると後ろでアッシュといつも一緒にいる2人がアッシュをなだめていた。
ここまでくるとアッシュも良いキャラなんじゃないかとすら思うが…。どうもアンナは苦手らしい。
席に着くと昨日と同様に相変わらず無表情のガザム・ユーリウスのお出ましだ。
「出席を取ります……
アッシュ・バーナード」
っしゃーー
「アッシュ、返事は『はい』です」
毎日注意されてるのか?…昨日にタイムスリップしたのかと思った。
軽く咳込み、ガザムは続ける。
「オホン……続けます…アンナ・オリベル」
「はい!」
「……エナ・ロウデル……ケイ・ノーティッツ……ミア・エルレロッテ……リオ・ネスレ……」
「ルーク・ジョイス」
また同じ1人の生徒の名前だけの返事が無く、ガザムによって点呼をとられたルーク・ジョイスという言葉だけが教室に響いた。
今日は昨日と違い座学が無いようだ。
さすが子どもの身体といったところか…あれだけ昨日山頂まで歩いたのに身体が軽い。
私たち生徒は今日、農業を学んでいる。
ユユとウボの収穫を手伝ってから。何もない地面を耕し、畑を作った。
前世で子どもだった頃、祖母の家の手伝いをよくしていた私は農具の扱いに慣れていた。
「ポルテ…なんか慣れてるね」
お…アンナに褒められた。
「あ、うん。実は子どもの頃……おっと…いや、ありがと!」
「くっそーおりゃーーー」
「きゃーー」
激しく掘り返した土が女の子にかかり、アンナに怒られるアッシュなのだった。
帰り際、ガザムが村の大人たちと話している姿を見た。敬語まではいかないが、なんだか妙にガザムを持ち上るように話す感じだ。
「ガザム、エナがいつも家で先生はすごいってよぉ」
「ガザム、ケイはどうだ迷惑はかけていないか?」
あーはぁ。…どこでもこういう奴らはいるもんだなぁ。
PTAにごまをする教師も見るに耐えるが、教師にごまをする親もなんだか同じくらい気持ちが悪い。そう思った。
それに、ガザムもガザムだ。なんだか鼻につく表情で、何やら話している。
帰り道ミアがアンナに言った。
「ルーク今日も来なかったね。アンナ」
「そうね……」
寂しそうな顔のアンナに、私とミアは顔を見合わせる。
「アンナ…もう、ルークに会いに行っちゃえば?」
「え!?」
「だって同じ村なんでしょ?会って話しちゃいなよ」
「だって………お父様とルークのお父様が…行けないよ」
要するにあれだ。フランクとルークの父親が仲良くないらしい。
なんだこのシチュエーションは!織姫と彦星か!!
なんせあれだ……今日夕食の時に私がフランクに話してみよう…任せろアンナ!
オリベル家に到着した。
さあ、皆さんお待ちかねポルテズキッチンのスタートであるっ。
使うのは朝仕込んでおいたユユだが…案の定、発酵している。パン生地は完成である。
シチューはミルクうさぎのミルクにジーナさんに無理を言ってミルクウサギの肉を少し準備してもらった。
まあ、お礼の気持ちもあるし、肉を頻繁に使った事は、他のご家庭の方たちには勘弁いただきたい。
ウボは大きめに切って入れた。ジャガイモの代わりになりそうだったし少し甘みもある。…いい活躍をしそうだ。
そして……トト様の家に着くまでの道中で摘んだ素材たち!…どうしてやろうか…おっと…パンが焼き上がった。
……まあ…あとは雰囲気でちょいちょいと…ローリエっぽい葉も入れたし〜っと…完成だ!!
「おいおい。なんだこの良い匂いは」
「クッキーじゃないけど、香ばしいわね」
「お腹空いてきたー!」
おぉ、なんかみんな匂いにつられて集まってきた。
「あつまれ!…オリベルの森……なんつって」
「え?」
アンナに不思議そうな顔で見られた。
「いや、すみません。なんでもないです。どうぞ!召し上がれっ」
慣れない材料で作ったシチューとパンを並べただけだが、どうだろうか………
3人が私の料理を口へと運ぶ。
「うますぎる」
「美味しいわ」
「んんんーーーー」
良かった…いいリアクションだ。
「スゥーーーッ」
私は一口シチューを口にした。
んん……本当だ、悪くない。私にとっては普通のシチューとパンだが。
薄味が多いこの島では美味いに違いないだろう。このレベルの料理でこれだけいい顔をさせられるなら転生先のここで料理人にでもなるか…。
「良かった。喜んでもらえて…」
「ポルテ…私にも作り方教えてちょうだい!?」
「えぇ。もちろん」
ジーナは料理が向いてそうだ。あの味のないユユをクッキーにまで進化させたのだ。
教え甲斐があるだろう。
夕食をみんなに絶賛されいい気分だった。
そして、食事を終えた私はフランクに上のツリーデッキで話をしたいと言った。
扉を開けてまた上に上がって行く。
何度見ても綺麗だ。心が綺麗に洗われて空の一部になったようだ…目を閉じると風を感じる。
「お待たせ…ポルテ」
「フランクさん…早いね。ありがと…昨日トト様に手紙渡したよ」
「ああ、アンナにも聞いたよ。ポルテがいないと渡し忘れてただろうね」
「ヒヒヒ」
「フフフ」
2人で笑い、空を見上げながら私は聞いた。
「トト様の息子さんの事を聞いたよ。…島から出ようとした時のこと」
空を見上げた顔を前に向け静かにフランクは話し出す。
「ああ。そうか……もう20年も前のことだけど鮮明に覚えてるよ……私たちは親友だった…いや親友さ。 今でも呼ばれたような気がして振り返ることもあるくらいだ。…もういないのにね」
「波に飲まれるのを見た人がいるって……」
「あぁ、僕たちさ。……必死に止めたけど…あいつは聞かなかった。…お前のことだから何かあるんだろう?と聞いたけど『私はこの本があった場所へ行く』と言っていた」
「じゃあ、どこへ向かおうとしたんだろう」
「それは分からない……俺たちはあの時どうすれば……あいつを………」
フランクのその表情から悔しさと悲しみが湧き上がってきているのが伝わる。
くそ……胸が苦しい。
恩人のフランクにどうすることもできず、肩に手を置くことしか出来ない事が歯がゆい。
「悪い……ここへ来たばかりで大変なのに……つい自分の後悔まで見せてしまった……なんだか話しやすくてさ」
良かった…家族にだって話しにくい事はある。吐け口になれたと言う事だろうか……まあ、見た目は違えどそれはフランクと私がほぼ同年代だからくる包容力というやつだと思うが…。
「話くらい聞くよ…いつでも話してよ…というか定期的にここで話そう…」
「ハハハッ……ありがとう…そうしよう」
「フフフッ」
———私たちの笑い声が聞こえてジーナとアンナも部屋で笑っていた。
「あ、てゆうかさーフランクさん!ルークのお父さんとなんで仲悪いの?」
「それは、あいつが馬鹿野郎だからだ!!!」
「えぇぇーー!?」
何だその子どもみたいな語彙力は……。
これはなんだか調査が必要そうだぞ………アンナ。
翌朝になり、今日の学校生活は狩りと漁だ。
今日もいつも通りルークは来なかった。
狩りと言ってもミルクうさぎのミルクの確保だ。ミルクを絞り、無くなればまた森へと返していく。
これを繰り返す。ミルクうさぎにストレスを与えないようにするため、手で捕まえていくというなんとも原始的な捕まえ方だった。
「よっと」
私は実家でうさぎを飼っていた事があるからか、すんなり捕まえられた。
今度もまた何かをやらかしたのか……アンナに怒られるアッシュが視界の隅に見えた。
漁もそれはもう簡単なものだった。
ウイ島から見える海は3つに分かれて見える事が分かった。
浅瀬と砂浜は穏やかでご存じの通り、物を拾えるくらいだ。所々に水たまりができている。逃げられなくなった稚魚を獲ったり、わりと大きめの貝や蟹も採集できる。
ただ、浅瀬の先からは、波が不自然に、そして急に異常に高くなっている。まさに波の壁だ…漁なんてできたもんじゃない。
浜からは波が高くて分からなかったが、1キロメートルほど先だろう…山から見た遠い先の海原は落ち着いていた。
荒れているのは島の周りだけなのだ。 かなり遠くに船が横切るのも見えた。あのサイズ感の船だ……何かしらの物資を輸送し合っているだろう。確実に存在するのだ、この島に住む人以外の人が……他の島が。
島での生活にも少しずつ慣れてきて、学校とオリベル家を往復するなんとも生徒らしい生活が続いた。私がここへ来て、はや2ヶ月が過ぎようとしている。
「ステータス」
……ステータスは一向に変わらない。
日常生活に余裕も出たし、もっと真剣に『ステータス』の向上に向き合ってみようとも思うが数字の上げ方が分からないし、優秀なアイテムボックスだけでわりと満足してしまっている自分がいる。
マイペースな性格は相変わらずで助かる……焦りは無い。
今日も学校がある。みんなと会うのは楽しいが、同じ事の反復が多い。正直少しずつ慣れてきて飽きてきてしまった。そのせいで登校時間もちょっとゆっくりになって、遅れて登場するスカしたメンズ感が出ていないか心配になるくらいの有様だ。
お?なんだか今日はみんなが騒がしい……誰かが囲まれている。
ざわつくみんなの隙間からオレンジ頭の少年が見えた。私はすぐに彼がルークだということが分かった。
ざわつく中に飛び込んで話しかけに行けば良かったが、そんなキャラでも無いし、また後で軽く挨拶しようと思っていたらルークと目が合いみんなを置き去りにしたルークが勢いよく近づいてきた。
「君が噂のポルテか!よろしく!!」
「おぉ。よろしく」
有無を言わさず握手された。8歳にしてなんだかワイルドさを感じるし、他の子どもと違う雰囲気も感じる。人気者なのも頷けた。
少ししてガザムが来るなり、みんなが席に着き始め、いつもと同じようにガザムは出席を取り始めた。
「出席を取ります。アッシュ・バーナード」
「っしゃーー」
ガザムは続けた。
「………続けます…アンナ・オリベル」
「はい!」
「……エナ・ロウデル……ケイ・ノーティッツ……ミア・エルレロッテ……リオ・ネスレ……」
「ルーク・ジョイス」
「はーい」
「来たんですね」
相変わらずの仏頂面でメガネを右手で上げた。
「ご無沙汰ですね ガザム先生」
ルークは少しムッとしながら言った。
久々の再会というのにどうやら2人の仲はそんなに良く無いようだ。
今日の授業は座学だった。
春夏秋冬、季節によって島でするべきことを学んでいった。
種まきの時期から収穫の時期に至るまで、感じることは学校にいる私たちのように、大人たちも島という学校の中で生活しているようだなと私は感じた。
今日の授業も終わりかけ、みんながコソコソと帰る用意をし出したその時である。
「待てよ……待て!ガザム先生…俺言ったよな…かなり前だぜ?」
そう言ったルークが、自分のバッグを取り出し中のものを広げた。
「見ろ…!」
あ…あれは……。
ルークが広げたものは、以前、私も山肌でコッソリと採集したことのある野菜……とここで呼べるかは分からないが、それと同じものも見えた。それに、私の全く知らない植物の方がルークはたくさん持っている。
「これ全部が食べられる!俺がこの身体で試して証明もした!!…話したはずだ……ガザム先生。あなたの持つこの島での影響力は大きい!!!手伝って欲しいと言ったはずだろ」
「はぁー。ルーク・ジョイスまたその話ですか…………いい加減にしろよ…」
ガザムは面倒くさそうに呟いた。
「………ック……この島には…この島には無いものが海から流れてくる!これが答えだろうが!!」
ルークは悔しそうにしていた。まわりの生徒たちも、大人も数人集まって一部始終を見ていたが、聞いているように見えてもどこか我関せずな感じだ。
ガザムは吐き捨てるように言った。
「早く帰って畑の手伝いでもしなさい………そして明日から黙って授業を受けろ…クソガキ」
そう呟きガザムは立ち去った。みんなが心配そうにルークに駆け寄る、もちろんアンナも。
「ルーク……もうやめようよ……。明日から一緒に学校行こう?」
「アンナ……ダメだ。この島は……このままじゃ……」
少しづつみんな帰っていき、ルークだけが教室に残った。いや……今思えば、私はこのタイミングを待っていたのかも知れない。
アイテムボックスからこっそりルークがガザムに見せた野菜と同じものを持って私はルークの隣に腰掛け言った。
「これ……美味いよね」
「食ったのか?お前も」
「食べたし、オリベル家の人たちにスープにして出したよ…だからアンナも食べてる。入ってたの知らないだろうけど…」
「ハハハッ…マジかよ……変わってるなお前」
「ハハハッ……この状況だと君もじゃない?」
「ハハッ…そうだな……でも本当にだめだ、このままじゃ。
昔からこの島の人たちは『こうでないといけない』と思ってる、それも無意識のうちに。……いい加減やめないといけない『こうでないといけない』考えを。…俺が変えてやる。この島のために、島の人たちのためにだ」
なんだこいつ…やっぱかっこいいじゃん…。
私たちはその後も辺りが暗くなるまで2人で話した。




