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『エウトピア』貨幣の無い異世界で、私は円を発行する。  作者: 葡萄
1章ウイ島編

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第6話   謎の男

私たちは、ついに山頂へ到着したのだ。


まだ夏の真っ只中だというのに、深く呼吸をすると鼻から冷たい空気が入ってきて胸の辺りまで冷たくなる。


木々に囲まれた一面の草花。


研ぎ澄まされた空間に、鳥の囀りが聞こえる。


いろいろな色の葉と、花の上に乗った水滴が太陽の光に照らされ、きらきらと光り輝いている。


………まるで、絵の中に迷い込んだようだ。


私はその美しさに息を呑んだ。


「アンナ……ここ。すごいね」


「フフ……そうでしょ?…私も大好きなのここ!行きましょ!!」


感動する私をみながらアンナは早歩きで先を行く。


私も遅れを取らないよう、草花の広場の中に出来た轍をどんどん進み、アンナの後をついて行く。


美しい広場の奥に大きな樹が姿を現した。


それも横たわった樹だ。どれくらいの幹周りだろうか…高さが20メートルはある。



近づけば近づくほど、その樹の大きさが分かる。



目の前から左右に伸びる樹の樹頂と根は、遠くて霧で隠れて見えなかった。



見上げながら歩く私にアンナが呟く。



「トト様 ポルテが来たら驚きそう」


「なんで?」


「会えば分かるわ。 着いた、ここよ」



横たわった大樹の前に着き、樹の幹には小ぶりなドアが付いている。


アンナがノックした。


「コン、コン……」


反応がない。


「コン、コン……」


「あれ、トト様どこか行ってるのかな」


アンナと私は顔を見合わせた。



「ご用かなぁ?おふたりさん」


私たちのすぐ後ろから急に声をかけられる。


「わぁ」

「わぁ」


驚く私たち。


白く長い髪と髭を蓄えた、白いローブを着た背の高い老人が立っているではないか。


「ジャラッ…ジャラッ」


動くたびジャラジャラと手と首周りに着けられたアクセサリーの音がする。


老人の隣には見たことのない、白く大きな犬もいる。


「トト様!」


アンナが老人を見てすぐに口を開いた。


これだけたくさんのアクセサリーを着けているし、犬までいるのに全く気づかなかった…。


…そして、何より私たちのすぐ後ろにいる。


なんだかすごく不思議な人だなと私は思った。


「……よく来たね。さぁ、入りなさい」


「ジャラッ…ジャラッ」


腕輪同士が当たり音が鳴る。


トトは大樹の扉を開け、部屋の中へと私たちを誘った。


部屋の中にはサッカーボールほどの水の玉が何個も置かれ、その水の玉の中には何やらさまざまな植物が浮いている。


「………してくれ」


トトが聞き取れないほどの小さな声で何か呟くと、部屋にある大きな葉がゆっくりと動き、座れそうな椅子の形になった。


「おぉっ……これは?……」


驚く私にトト様は笑って言う。


「ンハッハ…どうぞ。ここに座って……君は…この前島へ来た子だね」


「どうしてそれを?ポルテットと言います」


一瞬、またアッシュが頭に思い浮かんだが、まさか…ここまでは来ていないだろう。


「村で聞いたんですか?」


「いや、俺ももう歳じゃて、下までは降りられんよ」


トトは微笑み続けて言った。


「驚いたよ…アンナの他に、迷わずここへ来られるのは2人目だ」


「ね?驚くって言ったでしょ!?私もびっくりしたわ。辿り着かないだろうから、途中で私だけトト様を呼びに行こうと思ってたのよ」


アンナは嬉しそうに言った。


「どういうこと…なんで来られないの?」


不思議に思った私は聞いた。


「さーねー。トト様に聞いても全然教えてくれないから」


トトは大きく目を見開き、そして笑って言った。


「ンハッハッハ。そうだったか?まあいいじゃないか。来られたんだから」


「トト様って何者なんですか?」


私はトトに聞いた。


「ん、俺か?俺は、トト・アルド・サンダー。ただの しがない山のじじいだよ」


「いや、そうじゃなくて!……村の木の家もトト様が作ったと聞きました」


「あぁ、あれか。あれはな?これじゃて」


そう言うと、ポケットから手のひらに水色の豆を乗せて呟いた。


「…かえる豆じゃて」


「かえるまめ?……緑色じゃないのに…」


「んむ。……昔からあるがゆえに、俺も名前の由来はしらん」


トトがそう言ったと同時にアンナは呟いた。


「ねーねー。プラッツと遊んできていい?」


「ンハッ……退屈だったか?構わんよ」


「フフッ…ちょっとだけ!やった〜」


アンナは颯爽と外へ飛び出して行ってしまった。


私は自由奔放なアンナに半分呆れつつも微笑んだ。


続けざまに私はトトに聞いた。


「プラッツって、さっき玄関で一緒にいた大きな白い犬ですか?」


トトは少し驚き、言った。


「ほぉ。プラッツまだ見えるか。あやつは犬ではない。グラスウルフじゃて。水をやれば成長して…どんどんデカくなる」


「植物みたいだ……不思議です。じゃあ……トト様が今住んでるこの立派な樹は?」


トトは自分の住まう家の天井を見ながら言った。


「んん……この樹も元は『かえる豆』だったもの。


俺も歳がゆえ、今となっては倒樹となってしもうた。じゃが…この樹も…この広場のまた一部になるじゃろて」


トトは少し寂しそうな面持ちでそう呟いた。


「ハハハハッ……… ウワォーーーーーン」


外ではアンナの笑い声ととプラッツの遠吠えが聞こえる。


「フフッ」

「ンハッハ」


私とトトは顔を見合わせて笑った。


「パシャッ…」


……トトは水の玉に手を入れ、中に入れられた植物を触りながら何やら作業を始めた。


「ジャラッ……ジャラッ」


ジャラジャラと作業をするトトの手につけられた腕輪同士が当たり音が鳴り響く。


「トト様…それは?」


「弱った子たちさ」


作業を続けるトトの手に、私は優しさと何か凄みを感じ、魅入ってしまう。


トトは私を見てニヤッとして言った。


「お前さんもやってみるか?」


「いえ、結構です……私だと枯らしてしまうと思う」


そう言うとトトは驚いた顔をしてから言った。


「……素晴らしい。賢明だ」





………本当に不思議な空間だ。


私はトトの部屋を見渡す。


いろいろなものがある。棚には沢山の小瓶が並び、大きな何かの動物の顔の骨もある。


トトが付けているアクセサリーに似た雰囲気の置物がそこら中に無数に置かれ、天井からも吊るされている。



私は興味津々で家の中の物を見回しながらトトに聞いた。



「…そういえばトト様。ここへ来る前に笑い声が聞こえたんですよね。赤ちゃんみたいな」


トトは驚き言った。


「おまえさん…もしかしてそれは……」


トトが何かを言いかけたのと同時に私はふと部屋の棚に座っている『何か』と目が合い大きな声で驚いた。



「うわぁあ!」


「フフフフフ…………アハハハハ……」



森で聞こえたあの笑い声と同じだ。


トトが驚きながら言った。


「ポルテ…おまえ……ドライアドまで見えるのか」


「この緑の小人みたいなのが…ドライアド…?」


「あぁ、そうさ。木の精霊…ドライアド…ここへ来る者は、こやつらにイタズラされるがゆえ、ここへ辿り着くことはない。 ……がゆえに…これまで普通に辿り着けたのはアンナにしろ…おまえさんにしろ、数人だけだったってことさ。 ……じゃが、アンナもドライアドまで見られることは…なかった。……思うに、ポルテよ…おまえも魔法使いなのか?」


「あ。いえ……まだ、わかりません。なぜ魔法使いだと…お思いで?」


「んん……まだ…か」


そう言ってからトトは深く息をつき続けた。


「ん……ふーー。さっき話したがここへ来られる者が、もう1人おったと言ったじゃろ?」


「…はい」


「……それは……俺の息子じゃった」


「…今、息子さんはどこへ?」


「島から出て行った。波に飲まれたらしい……優しい子さ……」


「この波の高い海を?」


「あぁ。てっきりここを継ぐと思っておったがな。……訳も言わず出て行ってしもうた」


「息子さんが魔法使いという事ですか?」


「あぁ。そうじゃて」


「それじゃあ…トト様も?」


「いやあ……俺はドライアドの力を借りてるだけ。


そんな大層な者じゃない…おまえがこの島に来たことを知ったのも、こやつらドライアドに聞いただけじゃて…」


そう言いながら。トトはドライアドに呟いた。


「アム、ピム。頼む」


そう言うと、ここへ来た時と同じように大きな葉が動き椅子の形になった。


「そういうことか。さっきもドライアドに頼んでたんですね」


「あぁ。ドライアドのアムとピムだ」


そう言うと、私とトトの周りを2人のドライアドが飛びまわった。


「信じられん…おまえにも懐いておるわ…ンハッハ…息子の時と同じだ……」


…トトは続けて言った。


「……俺は森での生活も長い。アムとピムが見えたのも30歳を超えた時が初めてだった…。


息子はおまえと同じように、物心がついた時には、もうドライアドが見える不思議な子どもじゃった。


———ある日のことじゃった、あやつが、海で本が入った箱を拾って帰って来た……。


「父さん!本を拾いました!!」


嬉しそうな少年の声。———




「……まさに魔法に関する本じゃったらしい。


それからというもの朝から晩まで、本を読み何かをしておった…… 。今思うと魔法の練習をしていたんだろうな。


月日は流れ、あやつが18の歳じゃった」



———「父さん、私はどうしてもこの本があった先へ行かねばなりません」


「なぜだ!出てはならん。島の周りはこの波じゃて!」


「大丈夫です!」———


「出ていきよった……俺は猛反対した。……最初で最後の親子喧嘩じゃった。


……あれだけ止めたがなぁ……無理じゃった……


挙げ句の果てには……村の者が、荒れた波に飲まれるのを見たという話を聞いた……」


話し終えたトトの目にはうっすら涙が浮かんでいた。


「そうでしたか……」


トトは笑って誤魔化し話を続けた。


「ンハッハ……まぁ、それももう20年も前の話じゃて。

……おまえに懐くアムとピムを見て、懐かしい気持ちになった!…………ありがとう……」


トトは微笑み、そう言い私の肩に手を置いた。


「時にポルテよ……アムとピムの事はアンナには内緒じゃ…俺らだけの秘密よ」


クシャッとした笑顔で言った。


「ええ、分かりました」


私も負けないくらいの笑顔で言った。


そうこうしているとアンナが勢いよく家に入って来て言った。


「はぁーー、疲れた。あれ、なんかニヤニヤしてない?2人とも」


私とトトは揃って言った。


「いやー?全然……」

「いやー?全然……」


「絶対、変!!!」


アンナがそう言うと…………私たちは笑った。


「ハハハハッ」

「ンハッハッハ」


「なにーーーーー!!!」


気になっているアンナ。

そしてその周りを飛び回っているアムとピムがいるのを見て、私とトトは顔を見合わせて笑ったのだった。



トトの家に来てからまだ一瞬に感じるが、かなりの時間が経ったようだ。辺りも少し薄暗くなって来た。


「あ……アンナ!フランクさんからの手紙を渡さないと!」


「あっぶない。忘れるところだった」


慌ててアンナは手紙を渡す。


「ん。おぉ…手紙か……なんだろうの。

後で読んでおこう。さあさあ、そろそろ山を降りたほうが良い。暗くなるのは早いぞ」


トトはアンナから手紙を受け取りながらそう言った。


私たちは慌てて準備した。


私は身支度を終えてからトトに聞いた。


「トト様…また、ここへ来ても良いですか?」


トトはまた目を大きく見開き、微笑みながら言った。


「あぁ。またいつでもおいで」


「ありがとう。また来ます」


私たちはトトの家を後にした。


まだまだここにいたかった……とても名残惜しかった。




 ———1人部屋に戻り、

        アムとピムに呟くトト。


  「なぁ〜。今日はええ日じゃったな〜」



 嬉しそうにトトの周りを飛び回るアムとピム。


トトは大きな葉の椅子に腰掛け、フランクからの手紙を手にとった。


「んぁ〜、腰が痛い。手紙をっと」


 3枚の手紙にゆっくりと順番に目を通す。


手紙を読み終えたトトがぼそっと呟く。


「はぁ〜〜……言わんこっちゃない……どうしたもんか…」


  トトは深くため息をつき、おでこに手をやる。


 「若ければなぁ……村へ行ってやるが……なぁ…アム、ピム」———





帰り道は山を登って来た時より、ずいぶんと早く感じるものだ。

それでも日は沈みかけ、辺りがもうずいぶんと薄暗い。


「きゃあっ」


アンナが滑りそうになり、私が支える。


「おっと、大丈夫?」


「ありがと」


「フフッ…ちょっと今、支えてくれたのがルークだったらなって思った?」


私はニヤッとして言った。


「ちょっと、なんかイジるのに味しめてない?」


アンナは目を細めながら私に言った。


私はイタズラっ子っぽく微笑み、アンナに聞いた。


「イヒヒ………ねえ、アンナ。トト様の息子さんの事どこまで知ってる?」


「あぁ。トト様に聞いたのね。よく分からないけど…お父様と同い年だからお父様ならよく、知ってるかもよ?」


「フランクさんと?そうなんだ」


帰ったら今度聞いてみよう……。


…辺りはもう真っ暗だ。


……暗闇の中に村に灯っている火がポツポツと見えて来た。






















































































































































































































































































































































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