↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『エウトピア』貨幣の無い異世界で、私は円を発行する。  作者: 葡萄
1章ウイ島編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/38

第5話   いざ、山頂へ

「あぁあー!もぉーー!!違うっ」




アンナの大きな声で目が覚めた……まだ少し早い気もするが…なんだか朝から騒がしい……。


今日は、初めて学校に行く日だ。


部屋から出ると、アンナは髪を梳かし、服を何着も取り出し、身支度を始めていた。


なんだか昨日よりずいぶんおめかししている。


フランクはもう家にはいないようだ。


「おはよ〜、そんなにおしゃれして。学校がある日はいつもそうなの?」


私がそう聞くと、ジーナがニヤニヤしながらアンナに言った。


「フフッ……今日は来てると良いわね。アンナ」


「もぉー、からかわないで、お母様!」


よく分からないが、アンナは怒ってるのか、嬉しいのかよく分からない表情だ。


私とアンナは朝食を済ませ、かなり余裕を持って家を出た。


ジーナが私たちのあとを追いかけてきて、包みを2つ持たせてから言った。


「遅くなるでしょ?これ持っていきなさい。トト様にもよろしく伝えてね。あと、これもお渡しして」


トトへの渡し物はフランクからの手紙のようだ。


「いってきまーす」

「いってきまーす」


通学なんて何年ぶりだろうか…なんだか胸が躍る。


村の朝は、自然に囲まれた場所特有の、少し湿気を含んだ、涼しい夏の匂いがする。


一つ一つの家から出される生活音や人々の声

が、朝の村に入り混じって聞こえる。


少し歩くとミアの背中が見えた。


「ミアーーー、おはよー!」


「おはよう、アンナ〜。 あ、ポルテも」



「おはよー。なんかドキドキするっ」


私がそう言うと、2人は私の顔を見て微笑んだ。



話しながら歩いていると、山麓に大きな岩が見えてきた。


アンナが指を指して言った。


「ポルテあそこよ」


「おぉ〜」


岩は自然にできたステージのような形に見える。


壁には見たことの無い字が書かれ、地面はサークル状にくり抜かれたようになっていた。


…まさに、天然の教壇といった感じか。


大阪観光の時に、たこ焼きを食べた三角公園を思い出した。


光がしっかり入り、壁が照らされている。


壁の前にある階段状になった岩に、私たちは腰掛けた。私たち以外まだ誰も来ていない。


「1番乗りだね」


ミアが微笑みながら言った。



その時……。



「っしゃー、いっちばーーーーん」


前も会った3人組が来た。アッシュ・バーナードたちだ。


「アッシュ〜。早いよ〜」


アッシュの後ろにいる2人のうち1人が、膝に手をつきながら言った。


アッシュは得意げに笑ってから私たちを見て言った。


「へへッ……。 チッ、なんだよ、もういるのかよ〜」


「うるさいわね〜、アッシュ。早く座りなさいよ」


アンナはアッシュが本当に苦手らしい。


「なんだよ、アンナ。なんもしてないだろ!?」



「……フンッ」


そっぽを向くアンナを見ながらアッシュたちも席に着いた。


その後、続々と生徒が席に着いた。



5歳〜12、3歳くらいか、歳はバラバラで、大体20人くらいいるな……。


まぁでも、これで島の子ども全員と考えると少ないような気もするが…。


少しして、字が書かれた壁の前に、眼鏡をかけている教師らしき、細身で長身の男が来た。

その男は感情の無い淡々とした声色で話し始める。


「おはようございます。  では皆さん、今日は1人生徒が増えます。エウトピアさん、前に来てもらえますか」


「あ、はい」


「では、自己紹介をお願いします」


そう言いながら、教師にチョークを手渡された。


「あ、はい……」



……チョークを渡されたものの、この世界の字が分かからない……どうしたものか…。


そう思い改めて壁の字を見ると……なぜだか分からないが読める……。


この世界の文字が……理解できるようになってるの…か……?


待てよ……今、思えば。私、普通に話してるな言葉……。



くっそー…あの神…何でもかんでも省略しやがって……。



そう思いながら、見覚えのない、でもなぜか理解できる字で壁に名前を書いて自己紹介した。


「ポルテット・エウトピアです。ポルテって呼んでね、よろしくっ」



「フフッ」

「ハハッ」

「ダハハッ」


キャピっとして言ってみたが笑ったのはアンナとミアとアッシュだけだった。


シュンとしながら私は席に着いた。


教師は軽く笑って言った。


「フッ……はい。ありがとうございます」


皆んなが私に拍手した。


その光景がなんだか前世の子どもの頃を思い出して、顔が綻ぶ。


続けて教師が口を開いた。


「僕は教師のガザム・ユーリウスと言います、よろしくお願いします。ではこのまま、出席を取ります……


アッシュ・バーナード」


「っしゃーー」


「アッシュ、返事は『はい』です」


「はい〜…」


「続けます…アンナ・オリベル」


「はい!」


「………………エナ・ロウデル……


  ケイ・ノーティッツ……


   ミア・エルレロッテ……


     リオ・ネスレ……



          ルーク・ジョイス」



スムーズにみんなの返事が続いたが、最後で止まった。



「…ルーク・ジョイス!……今日も彼は来てないですか。…………困りましたねえ」


そう呟いた。


「そうみたいです…ガザム先生」


アンナが寂しそうに言った。



あぁ、今朝ジーナがアンナをからかっていたのはルークという少年のことだったのかとすぐに分かった。




そのあとの学校での学びは、読み書きに、必要最低限の計算、農業に狩りに漁といった他、この島のしきたりと、本当に必要最低限といった感じだった。


共通言語とされるドーン語にドーン文字、ドーン数字が使われた。


島の全員が畑を持ち、自給自足の生活を送るのが基本らしい。


主食は、みなさんご存知のユユの実だ。小麦に近い存在だろう。


漂流物の物々交換もかなり昔から行われているようで、物々交換には決まった厳格なルールは無く、お互いの合意があれば交換してもいいという意外とシンプルなルール設定だった。



そして、私はやはりこの島には貨幣が本当に存在しないことを再確認した。



同時に、短剣を欲しがった必死な鍛冶師のおじさんの顔を思い出して、なるほどな…それでか…とも思った。


私は気になりガザムに質問した。


「先生!食べ物の種類は増やせないんですか?森も多いし、探せばありそうですけど」


「ありません。代々受け継がれた生活を変えるのはリスクです」


「……そうですか」


これまで、あまり表情のないガザムだったが、気に食わなかったのか一瞬、不機嫌そうな顔に見えた。


今後の授業では、狩りや漁、畑での栽培といった実習もするようで、今日は私が初めてだったからだろうか、ずっと座学で内容は楽しくはなかった。


だが、生徒の皆んなとはすぐに仲良くなれた。


ただでさえ少ない人数だ、急に1人現れたとなれば気になるのは当然のことだろう。


「どこから来たの?」


「どこに住んでるの?」…エトセトラ。


質問攻めにあった。


皆んなに囲まれる私を見て、視界の隅には不服そうな顔のアッシュが見えた。


前世では大人になると友人を作るのはかなり難しかったが、子どもに戻ってしまえば、こうも容易いものだったか……。


気づけば、学校はすぐに終わり、下校の時間になっていた。


ミアとも別れ、アンナと私はトトの家へ向かうべく山頂へと向かい歩みを進めている。





「……見て。アンナ、ガザム先生の真似」


眼鏡を上げる仕草と、島では珍しい敬語の堅苦しい話し方を真似した。


「ポルテットさん、自己紹介うぉ、お願いします。眼鏡クイッ」


アンナはケラケラ笑っていた。


「ハハハッ……おっかしい。あの人、島の人たち皆んなからすごい尊敬されてるのよ」


「へへへ……島の事なんでも知ってそうだもんね」


私は笑って言った。


「そーよ、お父様ともよく話してるわ」


「あー!そうなんだ。あの会議みたいなのにいたのか」


そして私はニヤッとしながら言った。


「ところでさぁ、アンナ。ルークって子のこと好きなの?」


8歳になってみて、躊躇なくこういうナイーブな事をずかずか聞けるのはいい所だ。


「え!?」


珍しく、アンナが女の子らしい真っ赤な顔を見せた。


「やっぱり!」


「なんで!?」


「バレバレだよ。ジーナさんもからかってたし。学校に来てなくて残念そうだったから」


「もぉ〜、内緒よ?」


「言わないよ。なんで好きなの?」


聞くとアンナは話してくれた。




「ルークと私が5歳の頃にね?」



———風景は島の北側になる。


所々に枯れた木のある荒れ果てた森。


「誰かぁあーーー。グスンッ」


泣きながら独りで歩く5歳の頃のアンナ。


「おい。どこにもいないぞ」

「アンナーーーー」

「おい、まさか西にいるんじゃないだろうな」


見つからないアンナを海の辺りや村周辺。南から東にかけて、山頂の近くまでくまなく探す島の人たち……


島中の人が探してもアンナは見つからない。


暗くなって行く空。


アンナが泣きながら蹲っている光景。

するとアンナのうずくまった姿を見つけたルークが

声をかけてる。


「へへ……やっと見つけた。アンナ…何してんだよ。こんなところで…行くぞ」


手を差し出す少年。


「ルーク……」


泣きながらその手を握るアンナ。


手を繋ぎ、もう真っ暗な村へと帰ってくる2人のうしろ姿。


「アンナ!」


「お父様…お母様!!」


村へ到着し、ジーナとフランクに抱きつくアンナの後ろ姿。———



「それから大好きなんだ」


「へぇー、そーなんだ。…すごい会ってみたいよ。ルークに…」


私は微笑んでそう言った。アンナも嬉しそうに笑っている。


「でも、なんで今日学校に来てなかったの?…もしかして、ちょっとヤンチャとか??」


「違う!ルークはなんでもできるから。学校は意味がないって、いつも言ってる」


「へぇーそう。なんか、すごいね」


「学校へは私たちに会いにくるためにたまに遊びに来てるだけだってさ。ガザム先生は手を焼いてるけどね」


アンナが話す表情を見てなんだか8歳にして、罪な男だなとも思った。


そうこう言いながら、かなり登って来たがまだ着きそうに無い。


「アンナ、ちょっと喉乾いた。水ない?」


「んーー、ウォーターハーブがあればいいんだけど」


「ウォーターハーブ?なにそれ」


「え!ウォーターハーブも知らないの?」


「ハハハ…そーなんだよね」


私は笑いながら言った。


「ポルテってほんと不思議よね〜」


辺りを見回しながら歩くとアンナが口を開いた。


「あ!あった!!」


指差す先に、たわわに膨らんだ葉の植物があった。


「ぷくぷくしてる……これ?」


「うん!ポルテその短剣で葉の先を切ってみてよ」


「うん」


私は短剣を腰から抜き、葉の先を切った。


「……サクッ…」


葉の先から透き通った水が溢れ出た。私は口いっぱいに水を含んだ。


「ハハハッ……すごいほっぺ」


アンナは私を見て笑った。


「ゴクッ…」


ウマい……少しだけミントの風味もする。


「山の上の方じゃ無いと生えてないから、あって良かったよ。トト様の所まで行けば、ウォーターツリーもあるわよ?」


そう言いながらアンナもウォーターハーブの先を噛んで飲んでいた。


本当に子どもの頃、迷子になってうずくまっていたのだろうか……ワイルドだ。


「ウォーターツリー……そんなものもあるのか」


乾いた身体に水が入り、生き返った。


山頂までの道はかなり険しかったが、ガザムには悪いが、山肌にあった気になる植物をこっそりアイテムボックスに入れた。食べ物好きの嗅覚というやつか…匂いから調味料になる気がしたからだ。


それからは、ジーナにもらった包みに入ったユユの実クッキーを食べたり、休憩しながら私たちは先を急いだ。


夏なのにだんだんと肌寒くなるほど気温が下がり視界に霧が増えだした。


山頂付近に霧が多かった事を思い出し、アンナを見るとニコッと笑い、その表情からもうすぐ山頂に着くのだろうと感じた。


山頂へ向かうほど植物の種類は増え、さっき飲んだウォーターハーブが膨らんだ葉同士がぶつかり合うほど生えているのが見える。





「フフフフフ…………アハハハハ……」




小さな笑い声が聞こえる。


まるで小さな赤ん坊のような笑い声だ。



………不気味ではない………むしろなんだか…心地のいい声だ。



見渡すが誰の姿もない。



「アンナ…きこえる?」


「ん?何が??」


「いや、なんでもない!」


どうやら聞こえていないらしい。


足を止めずさらに進むほど、植物の色は色とりどりになっていった。



そして、まるで飛行機が長い雲の中を抜けるように


私の視界は一気に開け、太陽の元へと晒された。



 「うわぁ………眩しい」———。
































































評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。