第4話 オリベル家の一員
私の頭の中はすぐに、いろいろな疑問で溢れた。
島の住人は300人……まぁ、貨幣がなくてもおかしくはないのかもしれないが、金貨の存在そのものが無いなんてことあるか!?
ユユやウボは誰が育ててる?誰が、どうやって売る?あ……物々交換ってことか。
「ポルテ……」
いや、じゃあその物同士の価値の価値の基準はどうやって決めてるんだ………。
深刻な顔をしている私に、アンナが何度も呼びかけている。
「………ポルテ!ちょっとポルテってば!!」
少ししてから、私は我に返った。
「あ!ごめん!!何?」
「何って。こっちが聞きたいわよ!急に黙って深刻な顔するから」
「アンナ。やっぱりこの世界のことまだ全然分からないよ」
深く考え込んでいる私に、アンナは少し笑って言った。
「フフッ……どうしたのよ、急に。すぐ慣れるって。明日学校でいろいろ教えてくれるよ」
ミアも、横で大きく頷きながら私を見つめる。
座っていたアンナが急に立ち上がり、口を開いた。
「さぁ、そろそろ帰ろう?家の手伝いしないと」
「手伝い?」
アンナはもっと遊びたかったのか、少し嫌そうに言った。
「うん〜。水汲みに、薪割りでしょ?それに、昼食の準備もあると思うしさ〜」
ミアもカゴに入ったカニを私に見せながら言った。
「私もだ。…これ、お母さんに渡さないと」
私は少し考えてから言った。
「アンナ……足組んでたからちょっと痺れちゃった。先帰ってて!」
アンナは少し笑って言った。
「フフッ……大丈夫?あとでね!」
「うん!ミアも!!明日学校で会うよね?」
「うん!!」
軽く手を振ったあと、2人は村の方へ帰っていった。
足が本当に痺れたのもあるが、私がここへ残った本当の理由はステータスを開いて使いたかったからだ。
「ステータス……」
前と同じように、モニターが現れる。
STATUS
______________________________
名前:ポルテット・エウトピア
年齢:8歳
レベル:1
筋力:3
魔力:1
知力:8
_______________________________
SKILL
魔法: 1
アイテムボックス:∞
発行可能金額:0円
________________________________
「アイテムボックス……」
そう呟くと腕と身体の間に黒い空間ができた。
「おぉっ」
私は思わず声を漏らした。
アイテムボックスは、その名の通り道具や荷物などの物を収納・管理することが出来るはずだ。
「これ無限って書いてるよな……いや、正直言って便利だよな……この物々交換の島の中だと。革命的に…」
私はニヤッとしながら笑った。
手始めに、さっき見つけた石の入った樽を入れてみた。
「おおぉおおお」
アイテムボックスに吸い込まれていく樽。そしてアイテムボックスのどのあたりに置いたか感覚で分かる。
モニターに表示された字を読んだ。
「えーっと【魔石50個:20kg】か。魔石だって…なんかますます異世界っぽいな〜。一応持っとこ!無限だしっ」
また、私はニヤけながら呟いた。
船の旗もアイテムボックスに入れ、私は村のオリベル家の方向へと歩き始めた。
どうやら、ステータスのモニターは他の人には見えないらしい。
朝起きたとき、寝ぼけてモニターを出したままアンナに挨拶したが何も言われなかったからだ。
「ファイアーボール!」 「出よ炎!!」
歩きながら魔法っぽいことを言ってみるが、何も起こらない。
スキルで魔法は持っているはずなのに……おかしいな……。
そして一番の謎は【発行可能金額】だ。0円だし……、そもそもこの島には貨幣自体が存在しないじゃないか……。
そうこう考えているうちに、村へ着いた。
昼食が近いからか、村では火を起こす者や水を汲む者。さっき訪れたミアの家には調理をする母のジョアの姿が見える。
「カンッカンッカンッ」
急に金属音が聞こえ、私は気になって音のする家をのぞきこんでみた。
金属を鍛えている中年のおじさんの背中が見えた。
この島、鍛冶師がいるのか…そう思い、扉のない玄関から声をかけた。
「あのー!」
「カンッカンッカンッ」
金属音に私の声が遮られる。
「カンッカンッカンッ!」
もっと大きな声で呼んだ。
「あぁーーーのぉーーーー!」
鍛冶師のおじさんは振り返って私を見るなり口を開いた。
「おぉぉぉ。何だ!見ない顔だな」
「ポルテット・エウトピアです。昨日から島に来ました」
「あーー!アッシュが言ってたやつか!!」
アッシュはこの人にまで言ってるのか…。
みんな知っていて、ある意味助かるなと思いながらも、少し呆れて笑ってしまった。
「フフッ……あ〜あの。おじさん!刀を打ってるんですか?」
「まあな〜。まぁ、もっぱら農具が多いがな」
なるほど。海に流れついた物を鍛え直しているわけか。
「そうですか〜、刀に詳しかったらこの短剣のこと聞きたかったんですけど」
私は短剣を手に持ちながら、肩を落として言った。
「んぉ?随分と綺麗なもんだな。拾ったのか!?」
そう言って、鍛冶師は身体を乗り出してまじまじと見つめた。
「ええ、まあ。じゃあ…この槍の紋章に見覚えは?」
「いやっ、ねえな〜。そんなことより、どうだ!…交換しねえか?この中にある農具に刀!なんでもいいぞ?そんな短剣、この島じゃ役に立たねえ!」
辺りを見回すと、部屋には農具とさまざまな剣がぎっしりと雑に並んでいるが、私は交換する気はさらさらなかった。
鍛治師はどんどん迫ってくる。私は身体をのけぞらせ、慌てて鍛冶師の家を出た。
「いや……結構です!!!」
鍛冶師の家を後にしてからも、背後から大きな声が聞こえてくる。
「あ、おい!待て、坊主…これならどうだ!!」
「……ふー。危なかった」
譲る気など無いのに、危うく無理矢理押し付けられるところだった…。
結局…短剣のことは何も分からなかったな。
オリベル家に着くと、また一階でフランクが数人の村人と話し合っていた。
帰ってきた私に気づいたフランクが軽く手を上げた。
私は軽く会釈して、アンナたちがいる上の階へ向かう途中、会話が少し聞こえてきた。
「水を制限すべきだと言っているのだ……」
水を制限……畑のことかな…。
上に上がると、調理中のジーナとアンナの姿があり、私は言った。
「すみません。遅くなっちゃって……手伝うことありますか?」
「おかえり…ポルテ。いいのよ?じゃあ、アンナとテーブルの上に皿を並べてくれる?」
「はーい!」
「はーい!」
少しちょけて同時に手を挙げた私とアンナを見て、ジーナはニコっと微笑んだ。
食器を並べ終わり、3人でテーブルを囲んだ。どうやら、このまま少しフランクを待つようだ。
私は口を開いた。
「あの、ジーナさん。私はいつまでここにいていいんでしょうか」
ずっと気になっていたことだ。彼らにとっても、切り出しにくいだろうと思っていた。
ジーナがすぐに応える。
「フランクとも話したのだけど、あなたが良ければだけど、うちに住む気はない?」
「え!?そんなの…いいんですか?」
思いがけない提案に私は驚いた。
子ども1人とはいえ、家族の中に迎え入れることは、家庭にとって大きな負担になることくらい分かっている。
私は孤児院で育ち、養子として引き取られた。幸いとても良い人たちで、全員血は繋がっていなかったけれど祖父母までできた。転生前に走馬灯が見えたがやはり私の家族だったのだなと実感した限りだ。
皆んな私が死んでどう思っているだろう…。
それだけが心残りだ。
まぁ、つまりこんな経験があるからこそ、家族として誰かを迎え入れることは、どれだけ大きなことなのか分かっているつもりだったのだ。
ジーナが続けて話す。
「ええ、あなた…ずいぶんと大人びてるから。フランクもポルテがそのうち、そう言い出すだろうと言ってたわ」
さすがフランクだ。上司に欲しいくらいだ。
いや、まあ。実年齢は同年代だろうが……。
「島で野宿するか、最悪、家を作った……えっと…」
アンナが口パクで言った。
「トト様」
「そう!…トト様の所へ明日行くので、家を建ててもらえないかお願いしようかとも思ってました」
驚いた顔でジーナが言った。
「明日!?山頂に行くの?アンナ!もっと早く言いなさいよ」
「あ、忘れてた…」
アンナは舌を出して微笑んだ。
ジーナは私を見て言う。
「ポルテ、山頂まではここから3時間はかかる、学校が終わってからなら、気をつけて行くのよ」
「あ、そんなに遠いと思わなかった……」
「この島、山の上は霧が多いから、海やここからは山の上を見てもどれくらい距離があるか見えづらいのよね〜」
平然とした顔で言うアンナを見て笑った。
「ハハッ……アンナって男の子みたいだな」
「ちょっとーーーー」
「お。楽しそうじゃないかー」
フランクが下から上がって来た。
「あ!フランクさん。さっきジーナさんから…」
私の言葉を遮るようにフランクが話し出す。
「あ!聞いた?いやぁ〜、嬉しいよー。じゃあ奥の部屋使ってね」
「フフッ……そんな軽い感じでいいんですか?」
フランクって名前はフランクすぎてのフランク?そういう事!?
「んんーだって部屋も空いてるし。それに僕は村長だしねっ」
そうだ。この人村長だった。朝、下の階で私のことを皆んなに話していた時に見せた、フランクの真剣な表情を思い出した。
「ありがとうございます。必ず何かの形で返せたら…」
フランクは軽く微笑んで言った。
「フフッ…… 期待してるよ?さあ、待たせたね。今日はポルテの歓迎会だ! 食べよう」
出されたのは、ユユの実のパスタと、祝い事の席で出されるというミルクうさぎの肉だった。
パスタは相変わらずの薄味だったが、美味かった。
オリベル家の人たちはとても温かい。
私の家族とも引けを取らないくらいに。
一人暮らしも長かったせいか、家の中でワイワイ食卓を囲むのは久々だった。その日のうちに私はいつの間にかすっかりオリベル家に馴染んでいた。
みんなでたくさん、たわいもない話もした。私仕様の部屋をつくるついでに家の掃除や、模様替えまでしてもらった。
そして奥の部屋は正式に私が使うことに決まったのだ。
アンナが拾ってきて部屋に置かれてあった物たちは、全てアンナの部屋へ移すことになった。
大変そうに運ぶアンナの姿を見て、みんなで笑った。
夕食の雰囲気はまさにお祝いのようだった。
祝いの席でしか出てこないと聞いていたミルクうさぎの肉が準備されていたからだ。
ミルクウサギの肉は柔らかく、前世でも食べた事がないほど美味かった。
食事を終えた後、私はフランクに呼び出された。
「ポルテ、ちょっとこっち」
「え?」
呼ばれた先には、さらに上へ続く階段があった。天井の扉を開けると、木が上に続いていて空が見えない。
「少し上に登ろう」
「うん」
少し登ると、上にはツリーデッキがあった。フランクの後に続いて、私はそこへ登った。
「へー…こんなところもあるんだ」
私がそう言うと、フランクは微笑み言った。
「上を見てみて」
「うわぁっ。すっご……」
———そこには、宝石をちりばめたような夜空が広がっていた。
空を見上げる私の透き通った緑色の瞳に、宝石のような夜空の星が鏡のように映り込む。
手で掬えそうなほど空が近くに見える———。
フランクが続けて口を開くいた。
「綺麗だろ〜?僕のお気に入りの場所さ。いつでも来てもいいよ」
そう言ったフランクの横顔の表情が、一瞬だけいつもとは違って見えた。
どこか少し影のあるような———。
すぐに我に返り、フランクは言った。
「あ。明日は学校だろ?」
「うん、トト様にも会いに行くよ」
「大変だ……あんまり遅くなるとジーナに怒られちゃうね。トト様にもよろしく言っといてね」
「分かった。伝えておくよ」
フランクが部屋に戻ったあとも、私はもう少し夜空を眺めた。
「ガコッ…ドコッドコッ」
「今日はありがと!おやすみなさい」
「あぁ」
「おやすみ」
「まあ、明日ー」
屋上から部屋に戻った私はみんなに寝る前の挨拶をした。
ジーナとフランク。アンナがそれぞれの部屋に入っていき、私も自分の部屋に入った。
部屋に入った私はハンモックで横になると、すぐに眠りについてしまった。




