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『エウトピア』貨幣の無い異世界で、私は円を発行する。  作者: 葡萄
1章ウイ島編

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3/38

第3話   マイネームイズ

ハンモックに仰向けで寝転ぶ私の目の前に、モニターが浮かんで現れた。


モニターからは木の天井が透けて見えているが、しっかりと文字が表示されていた。


     STATUS

______________________________

名前:ポルテット・エウトピア

年齢:8歳

レベル:1


筋力:3

魔力:1

知力:8

_______________________________

SKILL

魔法: 1

アイテムボックス:∞

発行可能金額:0円

________________________________



名前に年齢。


筋力、魔力、そして知力も。


さっきまで感じていた疲れと眠気はすっかり忘れ去っている。


1つずつ目を通し、最後の項目で目が止まった。


「【発行可能金額】……」


その瞬間、どこかから声が聞こえた。


「あぁ〜。も〜。やっと見た?」


聞き覚えのある声なのに、どこにも姿が見えない。


私は慌てて部屋を見渡しながら、声の主に向かって叫んだ。


「誰!?」


「はぁ〜。僕しかいないだろ」


「あ!白い所の!!」


「はぁ〜〜〜。だから神だっつってんだろ?決まりなんだっての」


やはり、聞き覚えあるわけだ。声の主はあの時の神だったのだ。


「あの!この画面のスキルとかは分かるんですけど。【発行可能金額】ってどういうことですかね?」


元銀行マンの職業病だろうか。

そこが1番気になった。


「さぁ〜。僕は転生させただけだし」


「…さぁ〜って」


相変わらずの面倒くさそうな話し方だ。


「はぁ〜、ダル〜。またなぁ〜。あ〜あっ」


「え、もう?」


肘をつきながらあくびをして寝転び、軽く手を振る神の姿が思い浮かんだ。


「おーい」


呼んでみた。


だが、もう返事は返ってこなかった。


「………一体なんだったんだ」



少しして私はまた急に強い眠気に襲われ、いつのまにか眠りに落ちていた。———







 ……転生前にいた白い空間とは全く別の空間。


        薄暗く、狭い。


その空間で、また肘をつきながら気だるそうに『何か』を見つめて操作しながら寝転ぶ神。


神は、影のある表情で鮮明な地図が映ったモニターを眺めている。


北の大陸だけが異様に大きい。


東西南にも北の大陸ほどでは無いが、大陸が見られる。



__________________________


     NORTH


 west ♢ east

   

     south

__________________________

【東西南北】◇ に4つの大陸が分布している。


  


          

 神が地図の映ったモニターを操作すると、モニターの映像が拡大され、菱形 ♢の中心にある1つの島が拡大された。


     映し出されたのは———


       

ポルテの眠っている横顔だった。


       

    神は暗い部屋で独り、呟いた。



   

「アイツ………なんかダルそうだな…」



          

          

          



……私は優雅にも鳥の囀りで目が覚めた。


外はすっかり夏だったが、木の窓からは心地の良い風が入ってくる。


ここがアンナの家だった事を思い出し、慌てて身体を起こして呟いた。


「…ステータス」


すぐに昨日見たモニターが現れた。


昨夜の神との会話と、このステータスが夢じゃない事を確かめたかったのだ。


「夢じゃなかった……」


私の部屋の扉の向こうからは、すでに足音とアンナの話し声が聞こえてきている。


ハンモックから起き上がった私は、扉を開けアンナたちに挨拶した。


「おはよぉ〜」


アンナがこちらを見て笑い、そして丸い形の果物を私に手渡した。


「おはよう!フフフッ…すごい寝癖。それに遅ーい!!待ってたわよ。はい、朝ごはん。ミルクウサギのミルクとウボよ」


渡されたウボは、熟れる前のバナナのような色合いだ。


私は皮をむいて食べてみた。


不味くはないが、甘くもない。


なんならミルクの方が濃厚で甘味があるくらいだ。


急いで食べて欲しそうなアンナに、私はウボを4口で頬張って咀嚼し飲み込んだ。


「んんっ…アンナ。今日どこかへ行くの?」


「フフッ…島を回って案内したいの!今日学校も無いし、多分、歳の近い子たちにも会えるよ」


「この島、学校があるの?」


「あるよ!早くひとり立ちしなきゃ」


「ふーん」


朝食を終え、階段で一階に降りると、フランクとジーナがいた。


フランクは私の寝癖を見て、撫でて直しながら口を開いた。


「よく眠れたみたいだね」


「ええ、ぐっすり」


私が照れくさそうに言うと、フランクはクシャッとした笑顔で笑った。


「フフッ…よかった」


ジーナは家の入口からゾロゾロと入ってくる島の住人の出迎えで忙しそうだ。


昨日は5人くらいだったが、今日は多いな。


30人はいるんじゃないだろうか。


フランクはまた少し私に微笑んだ後、私の左肩を持ち自分の身体へ寄せて近づけた。


そして、いつもと違う真剣な表情で全員に聞こえるように叫んだ。


「諸君!彼が新しい島の住人となった!僕が認めた!!よろしく頼む」


急な展開だったが、場の空気に負けじと大声で自己紹介した。


「ポルテット・エウトピアです!よろしくお願いします!!」


フランクは私にだけ聞こえるように呟いてから、私の背中を軽く押し、退席させた。


「上出来だ!さぁ、行っといで。あと、西側の方には行っちゃダメだよ」


私は入口で待つアンナの所へ小走りで急ぎ、一緒に外へ出た。


私は歩きながらアンナに質問した。


「あのさ、皆んな何しに来てるの?」


アンナが少し拗ねたような表情で言った。


「私も分からない。お父様に聞いても…いつも『大丈夫、アンナは気にしないで良い』としか言われないから」


「…あ、そうなんだ。あと西には行っちゃダメだって」


「あぁ。それは1人村から追い出された人が暮らしてるらしいよ。西の端っこの方だけどね」


「追い出された?」


「何かいつも変な事言ったり、勝手に行動してたり。自分だけ得しようとしてたって聞いたわ。ほら多分、協調性がないのよ。……ねぇ、そんな事より!ここよ

」


そう言うと、アンナは1軒の木の家の前で止まった。

中から女性が1人出てきてアンナが声をかけた。


「あ!ジョアおばさん!!ミアいる?」


「あれ?おはよう、アンナ。ミアなら海に行ったよ。アンナが先に海にいるだろうからって言って」


「あーあ。ポルテが遅いからだよ!おばさん、この子ポルテ!!昨日から島に来たの」


「ごめんごめん」


「あなたが噂の!綺麗な目ね。さっきアッシュが大騒ぎしてたから。ミアとも歳が近そうね」


「うぇ〜、アッシュ……相変わらずね」


アンナがそう言って顔を歪めていた。


「ポルテット・エウトピアです。歳は8歳です」


言ってみて気づいたことだが、34歳で8歳を名乗るのは少し照れ臭い。


「何だ!私達と同い年だったの!?」


アンナが言った。


アンナの友人のミアも8歳なようだ。


私も得意げな顔をして言ってみた。


「実はねっ」



「ハハッ」

「フフッ」

アンナとジョア2人が笑っていた。


アンナがジョアに手を振り、私は軽くお辞儀をしてから私達はミアの待つ海へと向かった。


「昨日、私達が来た道とは別の道から行こう!畑があるから」


昨日とは別の道から村を出るとすぐに畑が姿を現した。


食べることが大好きな私は、嬉しくなって畑が出てくる毎に、次々に指を差して何の畑か聞いた。


「あれは?」


「ユユの木よ」


「あれは?」


「ウボ」


「あれは?」


「ユユの木よ」


「あれは?」


「ウボ」


「え、待ってよ。2種類?しかも畑、結構少ないし!」


「え、うん」


私は絶望した。


「アンナ!他何食べれるの!?この島!」


「んんーユユの実でしょ?ウボでしょ?あとポルテが朝飲んだミルクウサギのミルクでしょ?それに小さいのが多いけど波の手前でたまに獲れる魚とかも!ミルクウサギのお肉は祝い事の時だけよ!」


「この島で痩せられそうですね、私。アンナさん…」


「もう、十分細いじゃない……」


「……」


肩を落としながら歩いていると海が見えた。



相変わらず、漂流した物を拾う者、浅瀬で何か食材を獲る者たちがいる。


海の姿も相変わらずで沖は波が高い。


「いつもこんなに波が高いの?」


「そおよ。あの波のおかげで物が流れてくるんだろうけど」


「確かにね……」


「あ!いた。ミアよ」


岩場にカゴを持った三つ編みの少女が見える。少女が立ち上がり深呼吸をする。


「ふーーーーーー」


沖まで続いた岩場だが、波が今にも飲み込もうとする勢いだ。


「ミーーーアーーーーーー」


手を振りながら叫ぶアンナ。


アンナの声に気付き、岩場の上から少女は大きく手を振ってから、慣れた様子で砂浜の方へ向かって走って来た。


目の前に来たミアのカゴには小さなカニがたくさん入っていた。


「ここで話そう」


ミアは木陰を指さしながら座るなり、恐る恐る私を見た。

アンナはミアの両肩を持ち、言った。


「ポルテ!こちら私の親友。ミア・エルレロッテ!!でミア。こちら昨日から島に来たポルテ…何だっけ」


「ポルテット・エウトピアです。よろしく!」


ミアの不安そうな顔を見て私はフランクを思い出し、フランクが私にしてくれたのと同じようにミアに微笑んだ。


私はミアが少し安心した様子を感じ、手を差し出すとミアは私と握手した。


「ポルテットさんはー…」


「あ、ポルテで良いよ」


「えっと、ポルテはどこから来たの?」


「…ごめん…思い出せなくてさ…」


ミアは申し訳なさそうに言った。


「んーん、全然!気になって…よく知らないけど島を出て行った人は聞いた事あるけど、島へ来た人は見るのも聞くのも初めてだから」


「この波を!?越えたの?誰がどこへ行ったの??」


「分からない。多分…トト様なら知っていると思うけど」


トト。またこの名だ。前にアンナが木で家を作ったのもトトという人物だと言っていた。


「そのトト様ってどこに住んでるの?」



アンナは急に思いついたようで、嬉しそうに言った。


「山の頂上にいる。あ、明日学校終わったら行きましょ!」


「行ってみたい!ミアはどうする?」


「私は遠慮しようかな。アンナほど体力がないし、それに…いや、なんでもない!」


何か言いかけたがミアは言うのをやめてしまった。


私は気づけば、島へ来てからの不安が一切無くなっていた。新しい世界での経験と新たな出会いにワクワクする気持ちが強くなっているからだろうか。

私はそれほど前世のことが好きじゃなかったのだろうかと考えさせるほどに…まったく未練が無い。



私はニヤッとしながら言った。


「あのさ、今から砂浜で何か拾おうよ!物々交換するんでしょ?」


「初めからそのつもりよ!競走ね」


アンナと私は顔を見合わせ、一斉に砂浜へ走った。


その姿を見て、ミアはカゴを抱えながら木陰で笑っていた。


壊れた時計に、ガラス瓶。


見たことのない工具に、木箱に皿といった食器類。錆びた武器も多い。


地図の切れ端まで…大きなものから小さな物まで他にもまだまだある……。


すごい漂流物の数だ。

なぜ海の水がこんなに綺麗なのか不思議なほどだ。


ありきたりな物が多いな……。


気になったものを、ミアのいる木陰の近くへと運んで行った。船の帆に、中身が不明の異様に重かった樽。


どうせなら金貨でもないかな。そう思って探していると、20メートルほど先に光っているものが見えた。


「お!?」


急いで近づくと、金具が顔を出し、本体は砂に埋まっている。


私はそれを手に取り、砂を払った。


「短剣だ……」


美しい装飾が施されている。


「シャワッ」


私は鞘から短剣を抜いてみた。


湾曲した変わった形の刃だ。何より刃の色が水色で少し変わっている印象だ。柄には、先が3つに分かれた槍のような紋章もあり、これも刃と同じ水色をしている。


「ポルテーー!」


アンナの声が聞こえた。


「今行くーー!」


呼ばれた私は短剣を鞘にしまい、2人の元へ向かった。


「おっっっっも、これ何?」


アンナが、持ち上げようとしても動かない樽を前に私は言った。


「開けてみよう!」


「ドゴッッッッッ」


樽の蓋を開けた私たちは3人で樽の中を覗き込み、口を揃えて言った。


「石?」

「石?」

「石?」


中にはぎっしりとエメラルドグリーンの石が入っている。


「何だろう……これ」

そう言ってミアが首を傾げる。


「綺麗だけどね」

アンナも石を持ちながら言った。


この世界の物は、まだよく分からない。


私はふと、ステータスにあるアイテムボックスを思い出した。


いや、だがアンナもミアもいる。


今ここでステータスを開くのは、まずい。


「今日あんま良いの無かったんだよな〜」


そう言いながらも、アンナは両手両脇に色々な物を抱えて持ち上げた。


「ハハッ…結構持ってるじゃん」

「フフッ」

私とミアは思わず笑った。


…拾った船の帆は大きく、私の背丈より2倍はあろうか。船がモチーフになった絵が描かれていた。


短剣を見たアンナが、目を輝かせながら大きな声を出した。


「えぇ!!!こんな綺麗なの初めて見た。錆びたのしか見た事ないのに」


アンナが言う通り、錆びた刀や武器はたくさんあったのだ。


アンナが短剣を見ながら言った。


「絶対、持ってた方が良いよ!」


「ね!金貨、何枚分かなぁ」


私が何気なくそう言うと、アンナとミアが不思議そうに聞いた。


「金貨って何?」

「金貨って何?」


「あ、えーっと……」


私は言葉に詰まった。


あ、この世界の『貨幣』は金貨とはまた別のものなのかな。


そう思って、私は2人に聞き直した。


「お金だよ?貨幣!これ売れるかなと思ってさ」


「どういう事?交換しちゃだめよ!」


アンナが妙に真剣に止めた。


私はアンナの反応に違和感を覚えた。


まるで、貨幣というもの自体を知らないような口ぶりだったからだ。


「あれ?…………」


これまでの何気ない違和感の点と点が繋がっていき、

そこで初めてアンナとここで会った時の光景と言葉を思い出していく。



———「アンナ、拾った物はどうするの?」


      驚いた顔のアンナ。


「本当に何も知らないのね、村で物々交換するのよ。

…見てあそこ!今まだ砂浜にいる人もそのために拾ってるのよ」


そう言っていたアンナ。


  「物々交換!?そうなんだ」


        

   私が軽く聞き流してから、ふと目をやると大人たちが漂流した物を拾っていた姿。———



   

 ———まさか、この島な人たち……貨幣そのものの存在を知らないのか………?









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