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『エウトピア』貨幣の無い異世界で、私は円を発行する。  作者: 葡萄
魔法王国編

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第37話  ノッテ魔法学校


「いや…でも食料とか他の物も貰ってるんじゃないんですか?」


私が聞くとベンが呟き、ハンドが補足してくる。

「いや…ポルテ、それがそうでも無いのさ……」


「あのなあ…それはもう人も国土も桁違いなんだよ。ヴリードはよぉ」 


「それって……じゃあ、ほぼ支配に近いですよね。交易が釣り合っていない」


「まぁ…この国もそうするしか無いのが現実だがな」


「国土はどれくらいの差があるんです?ここもかなり広いでしょ…」


「ここと大帝国か?5倍弱だ…」


「5倍弱って……ラルムールの正確な広さって……」


「んぁ〜。ベン…どれくらいだ?」


「2600万平方キロメートルだ…。


ちなみに『大帝国は1億2000万平方キロメートル』。…獣王国が3600万平方キロメートル。海洋人工国は350万平方キロメートルだ」


「はーい。ベンちゃん良くできました〜」


「誰がベンちゃんだ!」


「ハハッ…ポルテ…分かったか?」


「あ、はい。でも、ちょっと…規格外すぎてイメージが……」


ラルムールが小さいわけじゃない。だって、それは北アメリカ大陸に匹敵するほどの広さがあるってことになる……。


そう考えると、大帝国の1億2000万平方キロメートルなんて馬鹿げたデカさだ。地球上の陸地面積の大部分を占めるほどの規模になるってことだ…。


一国だけでその規模となると、それが規格外のサイズなのはもちろんのこと、その大帝国をあの皇帝が完璧に統治できているとなれば…狂気の沙汰だ。


あの皇帝…すごいのは醸し出す雰囲気だけじゃないらしい…私が思っているよりも、何万倍もバケモノなのかもしれないな……。


考え事をする私を見たベンがそっと呟いた。


「これまでの長いヴリード家の歴史を見ても、エドワードの存在は他の皇帝とは異質と言えるよ」


「まぁな〜。それがあるから、俺たちラルムールの民も他国の民も何も言えないんだろうよ……」


「…異質と言える根拠は何です?」


「シャッ」

突然カーテンが開き、メリーが呟いた。


「大帝国はずーっと。らぶあんどぴーすー。いぇい」


「メリーちゃん!いいとこ取りじゃねえかよぉ」


「にゃいにゃいにゃい〜」


「シャッ」

メリーは眠たそうな顔でハンドを見つめ、また何も言わずにカーテンを閉めて、その向こうへと消えた。


「メリーちゃんが言った通りだ。エドワードが皇帝になって以来、大帝国ヴリードでは1度も内乱が起こっちゃいねえ。一度もだぜ?あり得ねえだろ…普通…。あれだけデカけりゃ何かしらあるだろうよ…でもねえんだよな…これがよぉ」


「でも…その分。他国への負担が大きいってことですか……」


「あぁ。まぁでも、この国はかなり平和だぜ。他国にはまだ奴隷制もある……」


「奴隷……」


「確かめようがねえが、良い噂も悪い噂も多いって事だわな。ヴリードはよぉ…」


「私は帝都に何度か行ったことがあるが、それはもう華やかだったぞ〜」


「え!?ベンさん行ったことあるんですか?」


「ハハッ…実はな。まあ3回ともミッシェル・レンズの付き添いだけどな」


「ミッシェル・レンズって黒装束のベージュっぽい髪の?」


「おぉ…そうそう。国王の側近のな。ポルテが宿で会った人だ」


「商談ですか?」


「いやいや。ヴリードには『ジェム』と呼ばれる国民適正管理機関があってね。そこの魔法適正科へ行った」


「教師としてって事ですか?」


「私も対象だった事もあるが、それは違う。すでに20万人以上の紫装束がラルムールからヴリードへ渡っている」


「20万人もですか!?そんなに……」


「もちろん全員教師としてだ。20万人なんて少ない方さ。大帝国出身の教師を入れてみろ250万人くらいいるぞ」


「じゃあ…この国の街にいる装束を着ていない人たちはヴリード出身て事ですか?」


「正解だ。まあ…魔法使いじゃない者もいるがな」


「そういう事でしたか。…じゃあベンさんはヴリードの帝都へ何をしに?」


「悪いがポルテ……そこまでは言えない」


「いやいや、私こそすみません。ズカズカと聞きすぎました」


国家レベルの内容ってことか…。国王の側近であるミッシェルがいたことを教えてくれただけでも、ベンはかなり私たちを信頼してくれているということだろう。





「皆んな……ごめん。もう、落ち着いたから…」


横になっていたイヴが、ハンドがつけたマスクをつけたまま上体を起こして話しかけてきた。


「おいおい、イヴちゃん。…まだ寝てなきゃダメだぜ。メリーちゃーんバイタル見てもらえる?」


「はいはいはい〜」


またカーテンの後ろから出てきた青装束のメリーはイヴの元へ近づき、素早く手を動かし診察する。


「メリーさんて…まだ子どもですよね……」


「おい!ポルテ!!メリーちゃんは23歳のれっきとしたレディーだぞ」


「えっ!!!…すみません。てっきり……」


「にゃいにゃいにゃい〜〜。バイタル正常〜。でもあと2時間は寝かせてあげた〜い」


「よっしゃ。ありがとよ…」


「にゃいにゃいにゃい〜」




「でも、私も魔法学校行ってみたい…」


「無茶しちゃいけねえ…それにマジックフェスティバルの時、見られるじゃねえかよ」


「え、マジックフェスティバルって魔法学校でやるんですか?」


「いや。まぁ正確には横のロックスタジアムだが、前日に行けばガラすきだぜ?」


「イヴ…そうしよ?レイピアのことは私に任せてよ。戻ってきたらお土産だけ買いに行こう?」


「……じゃあ……そうしようかな……」


「ここにいてくれればハンドもいるし、私たちも安心だ」


「ハンドさん…お願いできますか?」


「おう。いいぜ!昼にちょっと用があるが、メリーちゃんもいるから安心しろ」


「ポルテ…学校へ着いたら俺も用がある。少し待たすかもしれん」


「いいですよ。その間は散歩してますから、気にせず!」


「おぉ。そうしてくれ。でも、ポルテ迷うぞ?」


「え…じゃあ大人しく待っときます」


「フフッ…ポルテも見学は私と一緒の時にしなよ」


「ハハッ…そうします…」


私はイヴと話し終えると、外で待たせているマリアがイヴを見つめていることに気づいた。


「あ!!!ハンドさん。イヴの使い魔。外で待たせてるんです」


「イヴちゃん!装束無しのくせに使い魔がいんのか!?」


「フフッ…」


「くせにって…色々ありまして…結構大きいですよ?」


「あぁ〜。まあ、大人しいなら入れても構わんぞ」



「ガチャッ…カランカランカランッ」


皆んなが見つめる中、私が扉を開けると、マリアはゆっくりと入ってきた。

周りには目もくれずイヴの元へ近づき、そのまま頬を寄せた。


「わぁっ……マリア…心配してくれたの?……」


イヴがウイ島で目を覚ましてから今日まで約7年間、発作が起きたのは初めてだった。


今まであまりにも平和に一緒に過ごしきてきたせいで完全に油断してしまっていた。


謎のベールに包まれたままのイヴの出生。

今回の発作と何か関係があるのは間違いないだろう。


カルルキン号で自分の過去を思い出したくなさそうだったのも、もしかしたら『何か』を身体が無意識のうちに受け付けなかったのかもしれない。発作が起きた時、イヴ自身も驚いてたしな……。



「アハハッ……くすぐったい」


イヴの顔を舐めているマリア。

ヴリード一家の映像を見た感想を聞きたいところだが……本人も思い出したくないとはっきり言っていたし……マリアといる今の穏やかな表情を見ていると、このままでいいかと思ってしまう。



「ダァハーーーーーッ!!!イヴちゃん……その………その使い魔…ブルームウルフだよなっ!!!」


驚いた様子のハンドが突然叫び、マリアとイヴの方へジリジリとそして恐る恐る近づいて行く。


「え?そうよ。…ブルームウルフのマリア」


「やべえ……手が震えるぜ………まさか俺の店で見られるだなんてよ……思ってもみねえ」


「フフッ…なんで?触ってもいいよ?」


「お、おい。イヴちゃん!馬鹿野郎っ!!!…………………いいのか?」


「えぇ、もちろん」


ハンドが恐る恐る、そしてそっとマリアに触れる。


「ほぉおっ…すげえ……なんて柔らかい毛並みだ……イヴちゃんの魔力をもらって瞳が同じ色になったってわけか…」


「ハンドさん、嬉しそうですね」


「当たり前さ。ブルームウルフは魔法薬学を学ぶ人間は全員1度は会ってみたいと思ってるはずだ…ありがとよイヴちゃん」


「魔法薬学……どうして??」


「今から約4000年前のドーン暦6000年頃の伝記に記されてる。内乱が終わって傷ついた民を敵味方関係なく一匹の白い狼が癒したと言われているのさ。それにちなんでブルームウルフの別名は『白き聖獣』とも呼ばれてる」


「知らなかった…マリア…私も癒されてるよ」


「あ、いやイヴちゃん。…そういう癒しじゃないと思うがな」



「じゃあ、ポルテ。イヴちゃんも落ち着いたし、先に学校へ行こうか」


「そうですね。じゃあ戻るまでイヴをお願いします。ハンドさん……メリーさんも!」


「任せろ!イヴちゃんがいてくれりゃマリアちゃん眺め放題だぜ」

「にゃいにゃいにゃい〜」

「ポルテ…行ってらっしゃい」


イヴを残し、私たちはハンドの店である魔法薬剤店メディカモルドを後にした。


私たちは来た道へ戻り再び歩き始める。


「ベンさん。少し人が減りましたね」


「あの時間は出勤ラッシュなんだよ。『魔法王国直属の魔導具製造社』があるからな。見たんだろ?魔導具工場」


「あの煙が上がってたところですよね」


「そうだ。2億3000万人いるラルムール国民の6割が働いてる」


「すごいな…だって子どももいるでしょう?」


「さすが鋭いな…15歳以下の子どもが2割いるから大人の約8割と考えていい。ラルムール国内にあの工場が全部で5つある。ポルテが見たのは1番でかい『セントラル本部』だ」


「じゃあ…ボード・ストリートでホウキに乗ってた人たちは全員?」


「全員セントラル本部の職員だ。あそこは24時間稼働してるからな。朝と夜の通勤ラッシュには気をつけた方がいい」


「覚えておきます……」


「ちなみにその『魔石式メタルスウィーパー』はホウキとしては全く使えない移動用魔導具だ」


「フフッ…全部金属ですもんね」



「よし!ポルテ着いたぞ!ここだ」


「え?」



「ゴーン、ゴーン…カチコチカチコチ…」

見上げると、ボード・ストリートの中心に、地面から宙に浮いた『大きな時計塔』が姿を現し、鐘の音を響かせている。


時計塔の音が身体の中に響いてくる。

ちょうど時計塔の真下まで来たところで、石の台が等間隔に立てられていることに気づいた。


その台を指し示しながらベンが呟いた。


「ここに魔力を流してみて」


「フッ………」


私はそっと台の上に手を置き、魔力を流し込んだ。


「おぉっ!!!」


「ここがノッテ魔法学校だ」


浮かんでいた時計塔の下からの見えていた光景は、まだずっと先まで続いていたはずのラルムール・ボード・ストリートのはずだった。しかし、全く違う空間へと変化し私を誘ったのだ。


ベンが言った。


「マジックフェスティバル前はここを解放してるんだけどね。いつもは魔力を流してここから入るのさ」


「ここが……『ノッテ魔法学校』………」


少し霧がかかったその空間の中に人のざわめきを感じる。


「うわぁあ……」


少し足を踏み入れると、左右に分かれた幅広の大階段が壮大な回廊の上へその上へと伸びて繋がっている。


その空間はどこか神聖な雰囲気を持ち、天を突くほどの柱が何重にも重なり、何列もある大階段とともに、奥の方へと続いている。


一段一段が淡い黄金色の光を放ち、何列もある階段を上り下りする生徒たちの姿は、遥か高い天井から降り注ぐ光に照らされながらも小さく動いて見える。


まるで巨大な塔の内部に迷い込んだかのような、圧倒的な光景だ。


『緑、赤、青』装束の若い魔法使いに溢れ、『紫』装束の教師であろう者の姿も見える。


鏡のように磨き上げられた床に、目の前を通る生徒たちの姿が映っている。


「さぁ、ポルテ。こっちだ」


壁に沿って、待ち構えている大きな階段。


手前の大階段を登ると、ずっと奥まで続いている回廊には、等間隔で扉が見える。


「おぉ。ベンじゃん〜…今日休みじゃないのか?」


階段の中腹部で元気そうな紫装束の女性に声をかけられた。


「まぁ、ちょっと野暮用でな。彼にここを見せたかったのもある」


「装束無し…てことは少年!…さては未来の宝だな?」


「ハハッ…そうだ。入学試験待ちさ。ポルテ!紹介しよう。彼女も私の同期のセルラ・イグニルだ」


「ポルテット・エウトピアと申します。どうぞよろしく」


「あぁ。よろしく頼む!それじゃあポルテット…ノッテ校で待っているぞ!!悪いが2人とも私は先を急ぐ…生徒たちが待ってるんでな」


「あぁ。またな…」

「失礼します!」


セルラは颯爽と階段を降りて行った。


「明るい方ですね」

「あぁ、気持ちのいいやつさ。それにロッカールームも隣でよく会う。ここだ。少し待っててくれよ…」


「ガチャッ」


ベンは扉の鍵を開けて、部屋の中へと入って行った。


ここから部屋の中が見えるが、しっかりと整頓され、ロッカールームと呼ぶには、机も置かれているし個人の書斎と呼ぶ方がしっくりくる。


「あったあった。これだ」


ベンはロッカールームで何かを探していたみたいだ。


扉の横にはネームプレートが見える。

『基礎魔法学科 ベン・グラフ』


「基礎魔法……ベンさんの担当かな…」


私の独り言を聞いていたベンが部屋から出てきた。


「そうだ…私は基礎魔法の身体強化が専門だよ。…お待たせ」


「早いですね…もういいんですか?」


「いや。実は今からこの書類をマダムノッテの所へ持っていくんだ」


「え、今からですか!?ちょっと…心の準備が……」


「ガチャッ」

ロッカールームを閉めたベンが口を開く。


「ハハッ…ずっと緊張するよりいいかと思ってね。黙ってたんだ。行こうか」


「まぁ……それはそうですけど」


私たちは扉が並ぶ回廊を歩いてどんどん校舎の奥へと進んで行く。


「ここっていつからあるんですか?」


「ドーン暦9800年!今年でちょうど創立200年だ」


「じゃあ、つかぬことを伺いますけど、今って10000年なんですか?」


「ドーン暦か?」


「……はい」


「たまに驚くほど何も知らない時があるな。どえらい魔力量もそうだが……不思議だよ…君は…」


「えへへ、すみません。ハンドさんが伝記の話をした時にも気にはなってたんですけどね……」


ベンと話しながらその後も、回廊は500メートルほど続いた。


ここから一階を見下ろすと、さっきまで生徒で溢れかえっていた一階には、生徒が1人もいなくなっている。


陶器のような大きな扉が開かれ、その奥には広い部屋が設けられそこに生徒たちの姿が見える。


もう講義が始まっているようだ。

生徒が席に着いている教室もあれば、立ちながら行われてる講義もあるようだ。


扉が閉められている教室も多いな……中が気になる………。


ようやく到着した回廊の突き当たりに、真っ赤な扉が姿を現した。


「1番奥のあの扉だ。ポルテはどうする?」


「会ってみたいです…」


「そうか。一緒に入ろう」


私たちは赤い扉の前に到着した。


ベンは黄金に輝く、太陽の形をしたドアノッカーを丁寧に、そして力強く打ち鳴らした。



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