第33話 上空から見る魔法王国
「ええのが入ってきてる?」
「ちょっと待っとれよ〜…よっと」
「ガゴッ……カラカラカラカラ」
赤い装束の男は鉄製のハンドルを回し始めた。
ハンドルの横にある大きな歯車が回り始め、氷の障壁がゆっくりと上がっていく。
錠剤のような形の魔石式移動カプセルと1人乗りと2人乗りの魔力式移動チェアーが並ぶ中、
障壁の奥のスペースに100台の卵形のシルバーのカプセルが姿を現した。
「これだっ!王国から今回のマジックフェスティバルのために用意された王都直通便の魔力式新型カプセル!!空飛ぶ未知なる卵!!Unknown Flying Oval !!!略して『U.F.O』じゃ!!!」
「ゆ………U.F.O」
いや、まんまやないかっ!!!
偶然だろうが……UFOって…………。
「見た目より中は広くなっとるらしい!最大10人は乗れる優れものじゃ。
ただ、お前さん。乗るのに魔力を注がにゃいかん。お前さんくらいの魔力じゃあ、まぁ。難しいじゃろな〜」
「じゃあ、おじさん。これで!」
「冗談きついぜ?お前さん帽子にローブコートもまだ無いじゃねえか。10代だろ??悪いことは言わねえ、出直して紫装束あたりの誰か大人と…」
「ウィーーーーン」
「って…えーーーーっ!?あ、開いた」
私がそのUFOなるものに手を触れ魔力を注ぐと扉が上に開いた。
私はニヤリと微笑んで赤装束の男に言った。
「じゃあ、これ借りますね!行こうか2人とも」
私たちは、呆然と立ち尽くす赤装束の男を横目にカプセルに乗り込んだ。
本当に中が広い。テーブルに椅子。ベッドまで設置されている。
マリアもいるのにあと4、5人は余裕で過ごせそうだ。
「これさ〜操縦席とか無いんだね」
「確かに…どうやって動かすの?」
「プシューーーーーーッ」
扉が勝手に閉まり、私たちは振り返った。
「フォーーーーン」
振動もなく傾きも感じない。
カプセルから見える景色が上へと上がって、自分たちが浮き始めたことが分かる。
「おぉ。なんかアトラクションみたい」
「アトラクションて?」
「あ、えーっと。なんかテンション上がる乗り物」
「そういうことね」
景色の流れがゆっくりと横向きになっていき次第に加速していく。
パネルに表示される到着までの残時間が載っている。
『40h』
「イヴ。あと40時間で着くみたいだ。ベンさんよりかなり早く着くかも」
「カプセルか椅子どっちで来るか賭けない?」
「フフッ。アリ寄りのアリだねっ」
イヴは魔石式移動カプセル。私は魔力式移動チェアーに賭けた。
外を眺めながらイヴが呟く。
「本当に全部氷ね…」
「あ。イヴこっち見て!コンテナだよあれ」
見下ろす地上はもうかなり遠い。イヴが眺める反対側に目をやると氷山の間に続く道や橋をコンテナが動き続けている。
コンテナを引いているのか、小さく人影のようなものも見える。
「あれ……人に運ばせているの?……」
「この極寒の中を?……まさか………」
コンテナの列は途切れ、また次の列が現れ、また途切れる。
大帝国へ貨物船で運ばれるコンテナ…王都のシュポルンからか…一体何を運んでいるんだろう…。
「まだ、ラルムールは謎が多いわ。まだ港街のことしか知らない」
「そうだね…ベンさんにいろいろ教えてもらおう。あ、イヴ。マジックフェスティバルさ勝手に行く流れになってるけど良かった?」
「えぇ。試験も受けるの?」
「そのつもりだよ。せっかくの魔力なんだ…魔法を学ばない訳にはいかないさ」
「フフッ…土が盛り上がるだけだもんね」
「そぉおお〜。氷のこの国でも試したらどうなってたんだろう…先に地上で試しておけば良かったよ」
王都直通便だけあってカプセルは順調に速度を保ち、白銀の氷の国ラルムールの領土内を飛び進んでいく。
私たちはトト特製のハーブティーでお茶を楽しみ始めた。
「ふ〜〜優雅だね〜〜〜。空の旅。揺れも少ないし、場を乱すケリーもいない…てかあの人ほんとにどこ行ったんだ」
「……彼女には気をつけるべき」
「はい……」
さすがクールシャイガール…。
返事をしながらも、私のお人好しは治りそうにないなとも思う。
あ。アイテムボックスのことだが、商会とレストランを開業したおかげで新しい使い方をマスターした。
例えばさっきのハーブティーだ。ウォーターツリーの水をアイテムボックス内の火打石で薪に火をつけ、水を沸騰させる。
ハーブティーの葉を入れたティーカップへ熱湯を注ぎ、アイテムボックスから出せば…完成だ。
つまりだ、料理も…洗い物も…洗濯も…中へポイポイ放り込んだゴミの片付けに至るまでアイテムボックスの中で全て完結させて済ませるということが出来てしまうのだ。我ながら素晴らしいことに気付いたものだ。
本が出せるくらい一流の主婦になれそうだ。
便利すぎるのも考えようで、エウトピア商会の皆んなには仕事がなくなるからやめてくれと言われる始末だった。拗ねた顔をしながらも、そんな彼らが誇らしかったし船旅をしながらも何度もみんなの顔が浮かんだ。そんな時にバルトと出会ったのだ、ウイ島での生活を提案する思考に至るのは至極当然の流れだったのだ。
島には皆んながいるからそれほど心配はしていないが、バルトたちは島での生活に慣れただろうか…。
相変わらず私は眠らずに起きている訳だが、この快適なカプセルのおかげで40時間の空の旅は残り5時間…何事もなく無事に終わりそうだ。
昨晩はイヴもベッドで、そのそばでマリアもぐっすりと眠っていた。
心配していればいるほど事件は起こらないもので、何も考えていない時ほど何か急に起こるものだ。
まぁ、バルトたちによるカルルキン号の襲撃は結果、私たちにとっていい出会いとなったが……
「ポルテ!見て外!!」
「ん?」
迷路のように入り組んだ氷河の中に少しずつだが街が見え始める。
『4h』
表示される残時間。
「残りまだ4時間なのに…もう街が…」
私たちの故郷、ラルムールの規模とは程遠いことを改めて実感してしまう……。
「ポルテ、あっちも」
「次はそっちね……なになに」
イヴはあっちへこっちへ観覧車に乗った子どもみたいになっている。
「なんだここ……」
ちらほら見えていた街が消え、現れる大きな氷の谷底。その中のあちこちから煙が立ち込めている。
谷底の横には四角柱のグレーのビルが氷河に包み込まれて支えられているように何棟も聳え立っている。
建物の中腹部をカプセルで通過していく私たち。
ホテルと比べるのもどうかと思うが、99階まであったHOTELフェルメールの壮大さが霞んでしまう…
「見て……あそこ」
「コンテナだ…」
目の前に現れた工業地帯。建物の中から、次々と荷台に乗せられたコンテナが出ていく。
谷底は私たちが飛んでいる2時間ほどの間ずっと続き、その間ずっと煙が上がっていた。
太陽も落ち、すっかり暗くなった。
工場地帯を抜け、暗くなった地上に灯りがポツポツとまた見え始めた。
『……』
表示されていた残時間が消えた。
「フォーーーーン」
カプセルの高度が少しずつ下がっていく。
「イヴ。王都に着いたみたいだ」
「暗くてよく見えないね」
「プシューーーーーーッ」
カプセルの扉が開いた。
「ドサッ…トスッ…スタッ」
地上へ降り立ったが見覚えのある景色が広がっている。
「あれ……ここって」
「同じだね」
「いや…でも乗った時とは氷の断崖の向きが逆だ。王都の降り場で間違いないよ」
張り出した大きな氷の断崖の下に、魔石式移動カプセルと魔力式移動チェアーがずらっと並んでいる。
私たちは、港街にあった乗り場と瓜二つの王都の降り場へ到着したのだ。
降り立った私たちはまた、乗り場と同じように端の方にある建物を見つけた。
「多分あそこにも…管理人がいるんじゃないかな」
「行きましょ」
「おいおい、嘘だろ……」
中を覗き込んだ私は驚いた。
港町の乗り場にいたはずの赤装束の中年が三角帽を脱ぎ捨て、テーブルに足を乗せながら、うたた寝をしている。
いや、あれはうたた寝というより、完全に眠っている。
「ガゴンッ……ギィーー」
また乗り場と同じように木の扉を開けるが、ここも思っていたより音を立てながら開いた。
「あの〜」
「ガァーーーーーゴーーーーー。ンン……ムナァアムナァアム
…ほっ…ほっぷすてっ…プーーーー」
それでもまだ居眠りを続け、寝言を言いながら放屁する中年。
「うわぁっ……こいつっ、また」
私はまたまた指で鼻をおさえ、イヴとマリアも外へ逃げた。
「スゥーーーーーー」
私は扉の外で息を吸い、中に顔を戻して大声で叫んだ。
「ワァアアアアアアアアーーー!!!!!」
「どァアアアアアアアアあああーーーーーーーーーー!!!!!!!」
中年が驚き、羽ばたいても飛べない鳥のようになりながらテーブルから崩れ落ち、テーブルの下へ消えて見えなくなった。
「あの!乗り物!!返したいんですけど!!」
「よっくらしょっと。へーー……びっくらこいた」
起き上がってきた赤装束の中年に、私はまた鼻をつまみながら言った。
「あーもー。オナラも、こいてましたよ!!!…てゆうか!何でもういるんですか降り場に」
「ダハッハッハッハ。そうかぁ…すまんすまん。で、何の話だ?」
「40時間前に乗った時、話したでしょ?私たちと!ほら!外に!! U.F.O!!」
「んん〜。あらよっと」
赤装束の中年は外へ出てきて、少し考えてからまた口を開いた。
「あぁ〜.港街のネルにいたやつか?それはおめえ.俺の弟だな」
「弟!?」
「ダハッハッハッハ。おう。双子の弟だぜ」
「ふ……双子……」
「おっ…さっそく最新式じゃねえかよ!よく乗れたなあ。かなり魔力が必要だったはずだ」
「まあ…何とか……」
「返却はこれで仕舞いだ」
「じゃあ、ここら辺に宿はありますかね」
「HOTELフェルメールほどでけえのは無いが出たとこの建物はほぼ全部宿だぜ」
「あとは〜じゃあ、マジックフェスティバルの会場は?」
「ここは王都の端の端だ。城やら学校があるのはもっと北の方だぜ。U.F.Oはここまでだが旧式の二つはまだ先まで飛べるぜ」
「わかりました。じゃあ明日また来ます.ありがと」
「おぉおぉ、ちょっと待て。ここに名前を。あと誰かに伝言はねえか」
「いいんですか?助かります。紫装束のベン・グラフと青装束のセア・サインに…じゃあ〜…ここを出て一番近い宿にいるとお伝えください」
差し出された台帳に名前を書き、伝言を伝えた。
「よっしゃ。かしこまり!」
双子の兄がいる降り場を後にした私たち。
街へ出るとあたり一面の氷河の景観を損なわない、真っ白の建物が姿を現す。
これが全部宿か…何だか白い建物を見て私はロックパレスとボットの言葉を思い出す。「ロックパレスは木っぽさを消したくてね。それで、全部白く仕上げたんだ」出発する前の言葉だ。
「…なんかロックパレスっぽいね」
「ハハッ…私も同じこと考えてたよ」
「ガチャッ」
白い建物のうち一番近い宿の扉を開けた。
こじんまりとはしているが、何だか落ち着く雰囲気だと思った。
「いらっしゃ〜い」
5、6歳くらいだろうか。ターコイズブルーの髪の少年が受付のカウンターで退屈そうに挨拶してきた。
「2人と、あと外に彼女のブルームウルフを待たせてるんだけど入って大丈夫かな」
「精霊!?」
退屈そうにしていた少年の目が輝き出す。
「…坊や。精霊が好き?」
イヴが聞くと少年が嬉しそうに口を開く。
「お、ぉお。精霊は滅多に人には懐かねえ。魔法使いでも使い魔がいる奴は数えられるほどなんだ」
「詳しいね。どうりで…この国へ来た時、みんなが見ていたわけだ」
「おい、姉ちゃん。あんたのか?その精霊って」
少年に姉ちゃんと呼ばれたからか、イヴは少し驚きながら応えた。
「そうよ。ブルームウルフのマリア」
「色の装束もねえのに!?すっげえ……てゆうか何でノーブルアクトに精霊しまってないの?」
「ノーブルアクトにしまう?精霊を??」
「なんだ。知らねえのか。つっても俺もサラで知ったけどな」
「サラって…サラ・フェルメール?」
「おう。俺の姉ちゃんだ!」
「姉ちゃん!?」
「……あ、ヤッベ。これあんま言ったらダメなんだった。内緒な」
「弟さん!?私、あなたのお姉さんに会ってみたい。HOTELフェルメールとても良かった」
珍しく積極的なイヴに私は少し驚いた。
「俺ももう半年くらい会ってないよ…忙しいからな姉ちゃん」
「そう……」
「まあ、マジックフェスティバルで会えるんだけどな」
嬉しそうに少年は微笑んだ。
「そっか…。でも、どうりで精霊に詳しいいと思ったよ」
「あ、わりい。使い魔は人数に関係無いから2人扱いだよ。なあなあ、はやく見せてくれよ!ブルームウルフ」
「ガチャッ」
「そお。じゃあ入ってもらうね。 おいで…マリア」
扉を開けると、雪が降ってきたみたいだ、背中の雪を払い落としながらゆっくりと入ってくるマリア。
宿の明かりに照らされ、美しい毛並みの艶が際立つ。その堂々たる狼の佇まいに慣れ親しんだ私も時折、息を呑むことがある。
「すげえ……綺麗だな……」
「ごめん。マリア…寒かった?」
イヴに顔を寄せるマリア。
「精霊が……懐いてる……」
「何だか懐いてたら変みたいな言い方だね」
「いや、姉ちゃんは……」
「おい、マルグ。店番頼んだろ?」
「父さん。ちゃんとやってるよ〜」
私たちの話を遮るように少年に声をかけ、その声の主であろう茶色い髪の男が階段から降りてくる。
特に目立った印象はない。ターコイズブルーの髪の少年とは違って、この世界へ転生してよく見る髪色だ。
「リストと申します。すみません、早く休みたいだろうに」
「あ、いえ。私たちは全然。彼と話したかっただけですから」
「だったらいいのですが」
「……すみません。色々と聞いてしまいました…」
「あ、いや。そんなつもりでは……いや…変に誤魔化す方が失礼ですね。……さっきサラの話をしているのが少し聞こえてしまいました。息子のマルグから聞いた通り。サラは私の娘です。この世は良い人たちばかりでは無い。サラの親族と知られると彼女に、サラに迷惑がかかりますから……」
「どこへ行ってもそんな奴らがいるもんですね〜本当に」
「え?」
「あ、いえ。こっちの話です。一昨日までHOTELフェルメールに泊まったので気になって」
「そうでしたか。サラのホテルへ…」
隙のなかったリストの顔が少し綻ぶのが分かった。
「じゃあリストさんの影響なんですね?サラさんがホテルをつくったのは」
「どうでしょうこんな小さな宿……彼女は私とは違いますから」
「ケトですか?」
「ハハッ…バレてしまいましたか。そう、私には器も無ければ、ケトすら感じないのです。
私は降りてきた時からその違和感にすぐ気づいた。
ここはウイ島ではない。すれ違う人々ほぼ全員が多少なりともケトを吸収する中、彼の身体には、まったくケトを感じなかったのだ。
「ガチャッ」
私たちの後にお客が入ってきた。
「さぁさぁそれでは2人ですかね?魔力か魔石いかがいたしましょう」
リストは私たちと当たり障りない会話をして素早く手続きを進める。
「あ、父さん。精霊もいるよ」
「精霊……。それでは少し広めのお部屋でご用意します」
マグルにそう言われ、リストはあまり表情を変えないが、少し驚いていることが分かった。
「ありがとうございます。それじゃあ、えっと魔力で」
この国へ入ってから何回目だろうか、石板へ手のひらを置くとウンターの後ろにある見覚えのあるタンクへ私の魔力が流れて行った。
「ありがとうございます。2階のお部屋です」
リストに、ドーン数字で201と書かれた鍵を渡された。
鍵を渡し終えたリストはもう私たちの後ろにいる次のお客へ意識を向けているようには見えるが…本当の所どうだろうか、「少し警戒されてしまっていないだろうか」少しそう思わせる。…気のせいだと良いのだが……。
何気なく私はカウンターにいるリストとマルグを眺めながら宿の二階へと上がっていった。
「ガチャッ…ギィーー」
扉を開けるとグレーで統一された落ち着いた一室だ。
「シンプルだけど良い部屋だね。私この宿が何だか落ち着くよ」
「カルルキン号の書斎みたい」
「あ……私の船室。確かに…んんっーーーあーーーー」
「コンコンコン」
私がベッドで背伸びしたのと同時に部屋の扉がノックされる。




