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『エウトピア』貨幣の無い異世界で、私は円を発行する。  作者: 葡萄
魔法王国編

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第31話  魔法使いの装束と6色の等級

私たちは人気が少ないところまで進み、張り出た氷の影でカルルキン号を停めた。


周りの人が見ていないか確認して、アイテムボックスへカルルキン号をこっそりしまった。

ここのことをよく知らない間は目立つことをしない方がいいだろうと思ったからだ。


「長旅もカルルキン号のおかげで耐えられたよ。ボットに感謝だね。おぉ…寒っ。降り立つと更に寒いね」


「手が冷たいわ……」


「どこかへ入ろうか」


「あぁーーーさむっ。あそこへ入りましょ!」


「あ、ケリー!もー……まったくあの人は……」


ケリーは一目散に建物の方へ走って行ってしまった。




「バシッバシッバシッ……おい!早く歩け!!!」


貨物船の中から痛々しい音と怒鳴り声が聞こえる。


何気なく貨物船を眺めてみるが、流石に背が高くてここからは中が見えない。


私たちは先に行ってしまったケリーの後を追った。


「あれ〜?ケリーどこへ行ったんだ…」


「もう違うところへ入ろ?ポルテ」


ケリーを探していると、街行く人々がこちらを見ている。


「お、おい。見ろ……ブルームウルフだぞ」

「まぁ。あの子。まだ帽子とローブも無いのに……使い魔を…」


そうか……みんなが魔法使いなんだ。マリアが見えて当たり前ってことか。


「お、お嬢さん。そのブルームウルフ。魔石15個で譲ってくれんか」


「何言ってる。魔石15個なんかで譲るわけないだろ。どうだお嬢さん魔石30…いや40個だ」


青い帽子とローブコートを纏った老人と同じく青に身を包んだ中年の男が小競り合いを始めた。


「ゆ、譲りません」


イヴの言葉を無視して、2人は詰め寄って来る。


「あの!彼女の使い魔なのです。諦めていただきたい」


「何を!?小僧!ワシはこの女と話しておる!!!」


「ほら、お嬢さん。このような野蛮な老害ではなく。私にぜひ!」


一向に諦める気配のない2人の前に、紫の帽子とローブコートを纏った男が現れた。


「みっともないぞ!いい歳の大人が……諦めたまえ」


急に2人は大人しくなり、悔しそうに去っていった。


「災難だったね〜君たち」


「ありがとうございます。ここへ来たばかりで…」


「そうだったか。珍しいこともあるものだな……その歳で旅人なんて。私はベン・グラフだ」


「ポルテット・エウトピアです。彼女はイヴ」


「ありがと。ベンさん」


「いやいや、当然のことをしたまで。それにしても美しいブルームウルフだ…イヴはもう使い魔にしているんだね…大事にしてやりなさい。では、私はこれで…」


「あ、ちょっと。ベンさん」


私は立ち去ろうとするベンを引き止めた。


「お時間ございましたら、お礼をさせてください」


「いや……私は…」


私は遠慮するベンを半ば強引にレストランへ連れ込んだ。


「あ!やっと来た!!ここよ」


奥のテーブルでケリーが手を振っている。


「彼女は?」


「私たちの知り合いです」


「知り合い〜?あんなことまでしておいて〜??」


「おい…ケリー」


「もー、冗談よ。ケリー・ヨートよ」


「ベン・グラフだ」


テーブルへ到着したわけだが、椅子はなく、丸いテーブルは空中に浮いている。


マリアがテーブルの下で丸くなった。本当にできた使い魔で感心する。


それにテーブルだけではない。


皿に盛り付けられた料理や飲み物がお客の頭上を飛び交う。


目を輝かせている私とイヴを見てベンが笑って言った。


「ハハッ…そうか来たばかりなんだもんなぁ。最近できた人気の店だ。空いててラッキーだよ」


「私のおかげじゃないっ」


ケリーが得意げに言った。


「ポルテ…本当に良いのかい?」


「もちろん!遠慮なく食べてください」


「それじゃあ。……えーっとヴリード酒とシルバーホエールの肉にするよ」


「酒!?お酒があるの!?!?」


「あ、あぁ」


「じゃあ、私もベンさんと同じものを!!!」


「待て待て。ポルテ。君いくつだ?」


「あれ…えーっと。34と7だから41歳だよ」


「おい、悪い冗談はよせよ。酒は17歳からだ」


「えーん。やっぱりだめか〜……あと2年も飲めないなんて……」


4人ともシルバーホエールの肉を頼み、仕方なくベンとケリーだけがヴリード酒を追加で頼んだ。


メニューが決まるとメニュー表が蝶のように舞い、厨房へと吸い込まれて行った。


「お酒。飲みたかったな〜」


「フフッ。まだ言ってる」


「てか、イヴは良かったの?」


「大丈夫。多分、私も17にはなってないわ」


「多分てどういう意味だい?」


不思議そうに聞いてきたベンにイヴは答えた。


「7年前以降の記憶がないの」


「……そう…でも、君はなんだか大丈夫そうだ」


優しくそう言ったベンに、イヴは嬉しそうに微笑んだ。


ケリーは横でその話を退屈そうに聞いていた。


「ベンさん!…聞きたいことがたくさんあるんだ!!」


「ハハッ…君は清々しくていいな。それでレストランへ連れてきてくれたんだね?」


「フフッ…すみません」


「いやいや、そんなつもりじゃないさ。君が気に入ったよ…何だって答えるさ」


「ウイ島という島をご存知ですか?」


「ウイ島……私は教師をしているが、そんな島は聞いたことがない…」


「そうですか…先生でしたか…」


私は教師と聞いてまたガザムを思い浮かべたが、ベンはガザムと正反対でまったく違うなとも思った。


「ゴトッ…ゴトッゴトッゴトッ……コトッコトッ」


テーブルの上に料理と酒が降りてきた。


店内の中も冷えている。料理と酒から立ち込める湯気が食欲を掻き立てる。


「でっか」

「大きい…」


シルバーホエールの肉は白身魚のシンプルなソテーといったところか。淡白で脂のノリもいいのに、味付けはしっかりめの塩胡椒って感じだ。まぁ、悪くない。


「うめぇ〜〜」


ベンは豪快に頬張っている。ヴリード酒もホットのようだ。

シルバーホエールとよく合うだろう。


「っはぁああ〜〜。温まる〜〜」


美味そうに酒を飲むケリーを私は羨ましそうに眺めた。


ベンはテーブルをなぞりながら丁寧に説明してくれた。


「この世界は4つの大陸が『◇』このように、菱形の東西南北に位置しているのは知っているかい?」


私とイヴは覗き込んでベンの話を聞いている。


「いいえ……」


「そうか…君たちが今いる、ここ魔法王国は東にある」


「はい。それは分かります」


「よし。そして西側には獣人が住む『獣王国』。南には流通のために造られた『海洋連邦人工国』。そして最後に…北側には全ての国を凌駕する『大帝国』が存在しているってわけだ」


「じゃあ!!!港の貨物船は?」


「良い質問だ。あれは全て大帝国へ向かう」


「大帝国と魔法王国は交易関係にあるってことですね!?」


「いいぞ。そういうことだ」


「そうかぁあ。そういうことかぁ」


「ハハッ。嬉しいなあ〜みんな君たちくらい熱心に授業を受けてくれればいいのだけど」


「ベンさんはどこの教師なんですか?」


ベンはヴリード酒を一口飲んでから答えた。


「ん?私かい??私は『ノッテ魔法学校』の教師だよ。この国に学舎はそこだけさ」


私はそっと呟いた。


「ノッテ・マザー……」


「お、何だ。マダムノッテを知ってるのか。まぁ有名人だからなぁ〜」


「ベンさん。街の人たち。魔法使いの装束の色の違いって何?」


「あぁ。あれは、等級を表しているのさ」


「等級……」


「そう。おっと、酔いが回ってきたな」


「ベンさん!頑張って!!」


「あっはーーー、あなた酒弱いんじゃないの」


酔っているベンを見てケリーが爆笑している。


そんな事は気に留めず、ベンは話し続ける。


「んふん〜。6等級に分かれていてね?『緑の魔法使い』。次に『赤の魔法使い』。そのまた次に『青の魔法使い』。見ての通り私のような『紫の魔法使い』。がいる。そしてっ!!!この世界でっ8人しかいない『黒の魔法使い』!!更にっっっ!!!その上には滅多にお目にかかれない6人の『白の魔法使い』がいるんだァアアア!!!!』


「ドサッッッ」


「アッハハーーーーー」


話し終えたベンはロボットの電源がオフになったように、そのままテーブルに上半身を乗せて直角になって倒れ込んだ。


それを見て、笑い上戸のケリーは最後まで笑っていた。


「さぁ、そろそろ出ようか」


「あ、私…もう行くわね〜。ポルテじゃっあね〜〜〜」


「あぁ。ケリー!支払い!!」


手のひらを身体の近くで振りながら、ケリーはレストランを出て行った。


そして私は『支払い』という言葉を口に出したことで我に返った。


「まずい……この国の貨幣持ってない……」


何も考えず、前世での奢り癖が出てしまったのだ。


私は近くにいる若い男性のウエイトレスに話しかけた。


「あの。支払いは…」


「支払い???あぁ、もう出られますか?交換ですね。ヌイ!お願い」


「あ、はーい。こちらどうぞ〜」


男性ウエイトレスは出口付近の女性のウエイトレスへ私を引き継いだようだ。

私はヌイと呼ばれた少女の前に立ち、申し訳なさそうに呟いた。


「あの…この国の貨幣を持ってなくて……」


「はぁ……かへー?ですか…」


「え?」


「えっと……どうされます?魔石か魔力との交換になりますが……」


「魔石か……魔力…………」


私の後ろにはもう、すでに列ができていて、列から怒号が飛んできた。


「おい!にいちゃん!!早くしろや!!!」


「あ……すみません。じゃあ、魔力で…」


「かしこまりました。それでは手をこちらへかざしていただけますか?」


ウエイトレスのヌイが手のひらを上に向け、差し出した先には四角い石板が壁に埋め込まれている。

私は恐る恐る、石板に手をかざした。


「フォオンッ………」


私から魔力を吸収した石板は、壁に流れる水のような光を作り出し、左に置かれている大きなタンクに流れ込んでいった。


「はいっ、大丈夫ですよっ。ありがとうございました〜」


「えっ。これだけ?」


「はい、そうですけど。まだ何か?」


これじゃあ、物々交換じゃないか…。

そんなバカな………この国にも貨幣が存在しないってことか!?

呆然と立ち尽くす私に、また後から怒号が飛んだ。


「おい、にーちゃん。いい加減にしてくれよー」


私はふらつきながらイヴたちが待つテーブルへ戻り、深刻な面持ちで言った。


「イヴ…私…この国でのサービス全部タダになるかもしれない………」


「フフッ…良かったわね」


無限の魔力を持つ私は、異国の地で空腹により、道端で野垂れ死ぬようなことは無くなったのだった。


レストランを出た私たちは、賑わう港へ歩みを戻した。


「ケリーはいったいどこへ行ったんだ…」


「自由にもほどがあるわ…」


「まあ、2人の方が動きやすいよ」


「そうね」


酔って気持ちよさそうなベンは、マリアが背中に乗せて運んでくれている。

外はまだ明るい。


やはりマリアがいるからか、すれ違う街の人々が私たちを見て振り返る。


「やっぱり緑と赤と青の装束が多いね」


「んん〜〜〜。ンフフッ…ンフッ」


紫の装束のベンが間抜けな顔で嬉しそうに眠っている。


「フフッ…」


「ハハッ…きっとすごい人だろうに、間抜けな顔だな〜ベンさん。でも、ベンさん…どこなんだろ家」


「どこかに宿ないかな…」


「そうだね。そこで寝かせようか」


「ガバッッッ」


ベンが急に飛び起きた。


「ダハッッッッッ。まっすぐ行ってぇ〜。二つめの角を右!!!ンフッ…ンン〜」


寝言を言ってから、またマリアの背中の上で眠りについた。


私たちは不意な出来事に思わず吹き出した。


「アッハ……ハハッ……」


「ハハッ…ちょっとベンさん。本当は起きてるんじゃないの?」


私たちはベンの寝言の言うとおり、港を抜け、路地から2番目の角を右へ曲がった。


突き当たりのすぐ正面に大きな建物が現れる。

氷河の断崖を上に突き抜けるように、氷のホテルが天高く聳え立っているのだ。


洒落たドーン文字で入口上部の氷河に『HOTEL フェルメール』と鉄素材で埋め込まれている。


「……すっご……HOTEL フェルメールだって」


「綺麗ね…」


おぉ。イヴの綺麗な物大好きメーターにも引っかかったようだ。


氷の回転扉を抜けると、中も一面氷でできたロビーに赤い絨毯が敷き詰められていてその空間に高級感を演出する。


天井が高い……奥にある20列の氷のエレベーターが、あちこちで上下に動いている。


それに、ロビーは賑わっていた路地よりもさらに賑わっているではないか。


魔法使いはもちろん、色の付いた装束を着ていない普通の身なりの者。そして、貴族のような身なりの者までいる。


「ここ…何でだろう…氷なのに……」


「暑いわ…」


私たちは不思議に思いながらも毛皮のコートを脱いだ。


目を輝かせて景観を楽しんでいると、突然、青の装束の魔女が声をかけてきた。

ローブコートにホテルのバッジが付いている。

私たちより少しだけ年上だろうか……。

どうやら…ベルガールのようだ。


「ようこそ、お越しくださいました。よろしければ…お召し物をお預かりいたします」


「あ、ありがとうございます」


「ありがと」


「ギュオッッ」

ベルガールはローブをまくり、腰につけた小さな巾着袋で私たちのコートを中に吸い込んだ。


「おぉ」


「フフッ」

ベルガールは少し微笑み、歩きながら続けた。


「本日はご宿泊でよろしゅうございますか?」


「はい。3人とブルームウルフが一匹」


「ブ、ブルーム……ウル…フ。はっ……失礼致しました。チェックインはフロントの方で承ります。こちらでどうぞ」


私たちはチェックインするため、氷のカウンターにあるフロントへと案内された。

紫の装束のベテランっぽい魔女が口を開いた。


「こちらで承ります。ようこそ、お越し下さいました」


「あ、あの。3人と、ブルームウルフ一匹なんですけど」


「承知いたしました。大変申し上げにくいのですが…1ヶ月後にマジックフェスティバルがございまして、空き部屋が大変少なくなってございます」


「それじゃあ、空いてる部屋をお願いします!」


ブルームウルフを見ても落ち着いていたフロントの魔女が少しだけ驚いた表情になったが、すぐに元の穏やかな表情になって続けた。


「かしこまりました。最上階の部屋でございますが……よろしいですね?」


「えぇええ!?!?」


私たちの後ろで、さっきのベルガールが驚いて声を上げた。


周りのスタッフも手が止まり、チェックインの手続き中の他の客も私たちを、覗き見ている。


すかさずフロントの女性が口を開いた。


「お客様…申し訳ございません。スタッフには後で注意致します」


「あ、いえ。全然構いません」


「ありがとうございます。それでは、魔石1000個か魔力…いかがいたしましょう」


「魔石は樽に50個しか無いので魔力で!」




「ま、魔力だと!?バカな…」

「冗談に決まっているわ」

「えええぇええ!?!?……」


ロビーがどよめき、また私たちの後ろで驚いたベルガールは、自分の口を両手で塞いだ。


フロントの氷のカウンターには、さっきもレストランで手をかざした四角い石板がある。


「それでは、こちらに手を」


「フォオオオンッ………」


私が手をかざすと、フロントの後ろにあるタンクに魔力が流れ込んでいくのが分かる。


「ふぅーーー。久々に放出した感じだ」


「フフッ…ロックバレスに川が流れた時以来?」


「そうだね。まだロックパレスに名前がなかった時だ」


物思いに耽りそうになる私にフロントの魔女が言った。


「ありがとうございます。それでは、ベルガールがお部屋までご案内させていただきますね」


「こちらでございます…ご案内させていただきますね」


私は我に返り、ベルガールに着いていく。


「チンッ」


私たちは周りの人たちに見られながら、ロビー階に到着した氷のエレベーターへと乗り込んだ。

ボタンがたくさんある…。


「えっと……99階の03号室。99…03のお部屋でございます」


「そんなに緊張しないで……最上階ってそんなに珍しいんですか?」


「は、はい。私が聞く限り、国王様か帝国の方しか泊られた事は無いかと……」


「へ、へえ……そうなんですね」


しまった……やってしまった。ただでさえマリアで目立つのに。

ロビーで皆んなが見てくるわけだ。


「チンッ」


「どうぞ。足元、お気をつけ下さいませ」


「おぉ…」

ロビーにあった赤い絨毯は無くなり、視界の全てが氷でできた渡り廊下が現れた。


「ザッザッザッ」


滑らない…氷の絨毯だ……。




何も無い氷の廊下の正面。その奥に現れた大きな扉の前に私たちは到着した。


シンプルな氷の廊下とは対照的に、美しい装飾が施され、職人が手を加えたアイスカービングのように仕上げられている。


「こちらでございます」


「ガチャッ」


ベルガールが扉に透明のカードをかざすと鍵の開く音がし、扉は一人でに開いていく。










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