第27話 age 15
3年前にロックパレスが全て完成し、村との二拠点生活をする村人も多い。
私が島に転生して早くも7回目の冬を迎えた。
冬といっても島はもう水のバリアのおかげでそれほど寒くはない。
私、ポルテット・エウトピアは15歳になった。
「シャワッ……ガッ…ガインッ」
砂浜の砂が宙に舞う。短剣と長剣が激しくぶつかりあって火花が散る。
「シャワッ」
私は短剣を鞘にしまって言った。
「ふーーー。ルーク。そろそろ準備を始めよう」
「おぉ!今日の献立は?」
「今日はウイ鮭のムニエルだよ。イクラたっぷり」
「おぉ〜もうそんな時期かよ」
私たちはロックパレスの方へ向かいながら話す。
「ムニエル…アンナの大好物だ。そういえば、どうするの?アンナのこと」
「おぉ。ちゃんと考えてらあ。お前こそどうなんだよ…」
「え?何が…」
「まったく……あんまり鈍感だと愛想尽かされちまうぜ?」
何年か前にもこんな会話を誰かとしたな…。
エウトピア商会も、今では村人全員が働き手となり、ロックパレスを支える大きな仕組みになっている。
「あれ? 店に誰もいない…レストランの方かな…」
「ヘヘッ」
微笑むルーク。
「パンッパンパンパンッ」
クラッカー草の音がレストラン内に鳴り響く。
「ポルテ!ハッピーバースデー!!」
イヴ、アンナ、ミアにボット、ロイ、ウル。フランクにジーナにジャンにダリア、ジョアにゴーシュまでいる。
「おぉ!…皆んないる。ここに隠れてたのか!!なんか…すごいいるな。全員総出だね…」
何を隠そう、本日は12月24日。私は15歳になったばかりなのだ。
「まさか朝イチでサプライズしてもらえるとは思わなかったよ」
アンナが口を開く。
「フフッ。驚いたでしょ?」
「皆んながいると思わなかったから。…嬉しいけど、早く支度しないと…」
「あ!今日はあなたは休みよ!」
「へ?」
「プレゼント何にしようって話になって、休みにしたの!だから!はいはいはい、出た出た」
「あ、ちょっと…」
私はみんなに見送られて外へ追い出された。
「休みなんだから自由に過ごして!」
「キィー、バタンッ」
早々と外へ閉め出されてしまった。
「あ!お母様それ取って…あ,やっぱイヴでもいい」
「これ?」
「違うわよ」
「おい、これだろ?」
「ジャンおじさんわざとでしょ、それ!」
「アハハハハッ」
みんなの笑い声が聞こえる。良いな〜。なんだか店の中の方が楽しそうだ。
せっかくのプレゼントなのに寂しい気もする。
まあでも、確かにずっと休んでいなかったな…せっかくもらった休みなのだ、お言葉に甘えてゆっくりしよう。
そう思ったものの、いざ何かすると言っても何をすればいいかわからない。剣術を鍛錬しようにもちょっと違う気もするし。
うたた寝しようにも、ここ2、3年私は眠っていない。いや、もう眠たくならない身体になったというのが正しい。
相変わらず全身を流れる無限の魔力。
今となっては魔力に興味がない。
なぜなら…
魔力を集中させ、前に手をかざす。
「はっっっっっ」
「モゴッッッ」
見ての通り……魔法は未だに使えぬまま、相変わらず地面の土がこんもりと盛り上がるだけだからだ。
魔力はこの島の水を維持していると考えれば無駄には感じていないそれくらいの存在だ。
「ステータス!」
STATUS
______________________________
名前:ポルテット・エウトピア
年齢:15歳
筋力:47
魔力:∞
知力:28
_______________________________
SKILL
魔法: 1
アイテムボックス:∞
発行可能金額:370,569円
________________________________
15歳になった私のステータスである。
筋力、知力ともに34→47、12→28へ無事上昇!
スキルの魔法は1のまま。いつまで経っても土が盛り上がるだけだ…。
発行可能金額は少しづつ増え続け、見ての通り。今、現在370,569円ある。
島の中での貨幣の流通量は7年前の50,000円の倍100,000円になっている。
どんどん流通量を増やしたい所かもしれないが、そういうわけにはいかない。
今も自給自足が中心のこの島では、試行錯誤した結果、村人の生活バランスを取れるいい塩梅の流通量なのだ。
発行する必要が無いから、発行可能金額がずっと上がり続ける。
なんだか嬉しい気持ちになれるのだ。
『¥1札/¥10札/¥100札/¥1,000札/¥10,000札』
あとは、このように発行できる貨幣は全てで5種類。
まだ¥1札と¥10札しか発行した事が無い私は、他の貨幣のデザインを見たい衝動と発行可能金額が増えていく優越感の間で迷って迷って結局発行せずにそのまま今日に至る。
とまあ。突然のお休みをもらってしまった私はとりあえず、山を見上げながら、とぼとぼ歩いているわけだが……。
ずっと忙しくしてたからな…こんなふうにまったり景色を見るのもいつぶりだろうか。
「フフッ…」
突然の休みを楽しみ始めた自分もいる。
バリアのおかげで寒く無いから快適だけど、昔の雪の積もってた山も名残惜しいな…。
吹雪の森の中を、ルークとイヴと3人でここまで来た時の事を思い出す。…懐かしい……。
いろいろな思い出を振り返りながら私はゆっくりと船を川へ押し、そのまま木の船に乗り込んだ。
行く当てもなく、川の流れに身を任せて景色を楽しむ。
ボットの家の近くを通り、村の周辺へ、そして重力に逆らって山頂へ向かって行く。
心が安らぐ。
透き通った川の水の中に手を入れてみる、アムとピムのおかげで相変わらず水温が冷たい。
船に並走してウイ鮭が泳いでいる。
この島の変貌っぷりに自分でも驚いてハッとなる日がある。
山を登りながら海の方を眺めた。相変わらず波でできた壁が聳え立っている。
この景色を見ると、私はいつも思い出してしまう。あの日、崖で消える前のガザムが言った言葉を……
———「あなたたちが見ている世界はここだけ。あまりにも狭く、ちっぽけなのですよ」———
これだけ島が変わっても、まだその言葉が言えるか?ガザム・ユーリウス……
消えた人間に、この気持ちはぶつけられまい。
海を見ていた視界が霧で隠れた。
山頂が近い。
会いたくなってトトの家に向かっているのだ。
「ガガガッッッ」
船が川から離れ、地面を擦る。
「あ”ぁっ!!!つめたいっっ…」
全身がびしょ濡れだ。
これは、ドライアドのイタズラでは無い。
ウォーターツリーの川と山のちょうど境目に船で私が突っ込んだからだ。
まったく…おっちょこちょいなのは前世から健在だ。
広場を歩いて進んで行く。
花園が水影で揺れている。ここは相変わらずいつ来ても美しい。
「バフッッッッ」
「プラッツ。壁にぶつかったかと思ったよ」
よそ見をしながら歩いていたらモフモフのプラッツにぶつかった。
「お前とももう7年近い付き合いか〜。早いもんだな〜」
「グフンッッッ」
「ハハッ」
「ジャラッ…ジャラッ……」
アクセサリーの音がかすかに聞こえて私は振り返った。
「ポルテ…珍しいな。今日は非番か」
「トト様。さすがに私も24時間は働いてないよ」
「ンハッハ……そうか」
「休みをもらってさ。特に要は無いんだけど…来ちゃった」
「んん。そーかそーか。ハーブティーを入れよう。入りなさい」
「うん」
ウォーターツリーへ続く轍をゆっくりと歩き進む。
「ところでお前さん。びしょ濡れじゃな」
「トト様。なんか部屋着、貸して」
「あぁ、構わんよ」
相変わらずハーブティーの香りが部屋に漂っている。
「あ、天井にいろいろ付けたんだやっと」
「あぁ、やっと成長が止まってな。そろそろかと思うてな。ほんとついこの前じゃて」
トトは嬉しそうに呟いた。
天井から吊るされた装飾品が、私たちが部屋に入って来たことでゆらゆらと揺れている。
「コトッ」
私の前に置かれたティーカップからふわっと湯気が立つ。
「トト様。この島のことどう思ってる?」
「おぉ。何か深刻な話か?」
「いや、ここへ来る時ガザムの言葉を思い出してさ。『あなたたちが見ている世界はここだけ。あまりにも狭く、ちっぽけなのですよ』てさ…」
「そうか…そんな事を…」
「うん」
「お前さんたちのおかげで、この島は目まぐるしく変わった」
「……でも。所詮はこの島の中だけの話だ。ガザムが言うように、今だに南の海の漂流物はここには無い物が多いよ」
「村の者は皆、快適に自由に暮らしておる。それでええんじゃ無いか?」
「うん…そうなんだけどね…」
「あやつが言うた事が気になるか……お前さん………この島を出てみたいんじゃないのか……」
「……………え?」
私はこの衝動にずっと蓋をしていたのかもしれない。
トトにそう言われて「そんな事、考えていない」と「全然出たくないよ」と言えない自分に驚いた。
「悪い事は言わない。そんな事を考えるのはやめなさい。波があるんじゃ、無理じゃて。それにあんな想いはもう……二度とあんな想いはさせんでくれ……ポルテ……」
———私は船に乗り込んだ。
北側の山陵への帰り道。
夕焼け空を眺めながら、さっきのトトの顔を何度も思い出してしまう。
「あんなに怒ってるトト様……初めて見たな………」
テンダーを失ったトトの心は、今もまだ癒えていないのだと改めて悟った。
誕生日だというのに、なんだか悪い事をしてしまった気分だな〜。
トボトボゆっくり歩いたけど結局早くロックパレスへ戻って来てしまったな…。
「たっだいまーー」
「あっ。ポルテ!もう帰って来たのかよ」
「あぁああ!!!見ないで」
ざわつくレストラン。どうやら私のバースデーパーティーの準備中だったみたいだ。
飾り付けまで施されかけている。途中でも私は嬉しかった。
「なんか、ごめん皆んな。疲れてるだろうに…忙しかった?」
「ポルテ…仕事人間…」
「本当よ…せっかく驚かせようと思ったのに」
「まあ、でもなんか嬉しそうな顔してるし良いんじゃねえか?」
私のバースデーパーティーは結局のところ私にネタバレしたわけだが、その後、盛大にもてなされた。
アンナとジーナ。ジョアも助っ人に加わり次々に料理が運び込まれてくる。ジャンとフランクが肩を組み歌い出し、ゴーシュはそれを見て笑っている。
皆んなが楽しそうにしている姿を見て、さっきまで島を出てみたいと思った自分が、間違ったことを考えてしまったとすら思える。
「ん?ロイ、どうした。あんまり食べてないじゃん」
ロイも12歳になり、かわいいかわいい金髪くるくる頭の男の子が、すでに美少年へと変貌を遂げようとしている。
「あ、いや。そんな事ないよ。胸がいっぱいでさ」
「おいおいおい、そんなこと言えるようになったのか〜?昔みたいにほっぺを〜〜と」
腕をガシッとキャッチされて、ロイに止められる私。
「フフッ。もうさせないよ」
「あ〜止められちゃった…」
しかし私はニヤッとした。ロイの背後から近づくルークとボットに気づいていたからだ。
「おりゃ〜〜〜〜〜〜〜」
「ワァア〜アッハッハ。やめて」
くすぐられるロイ。押し合いへしあって戯れる私たちを見て、ぼそっとダリアが呟く。
「良いわね〜。男の子って」
「おい、ダリア。前にもなんかそんなこと言ってたな」
「そお?あなたの気のせいじゃない??」
「ポルテ…かわいい…」
「あ!イヴがなんか言ってる!!」
「アンナ!!」
「フフッ…イヴ。ぽろっと口から出ちゃったのね…」
「ミアまで……」
最後の最後まであちこちで会話が派生し続け、終始わっちゃわちゃのバースデーパーティーは日を跨ぐ前まで続き閉幕となった。
皆んながレストランから出て、その日はロックパレスへ帰っていく中、ロイが海の方へ1人トボトボ歩いていくのが見えた。
私はロイの後を追った。
イヴとマリアも気づいたみたいだが、さほど気には留めていない様子だ。
「ザァーーーーーーーーーーーー」
飛沫がかかることはなくとも、波の音は当然のように聞こえる。
「ロイ。どうしたの?こんな所で…やっぱり体調が悪かったんじゃない?」
振り返ったロイの表情が妙に大人っぽく、見たことがない表情に感じる。
「……ロイ…どうなの…大丈夫?」
「嬉しそうだったから、言いづらかったんだ…」
「なんだ、やっぱりか。早く言わないと〜そういうのはさ…」
「違うんだ…ポルテ……君は、ラルムールへ行かなければならない。来る日のために…」
「え?ロイ…一体、何を言って……」
幼い頃から知っているロイが口にしたその名前は、ずっと思い出すことのなかった名前だった。
ただ、それは私の頭の中の片隅でずっと眠り、残っていたものだった。
何も言わず、ロイはじっと私の方を見つめている。
「ロイ。なんだよ……なんとか言ってよ」
「ダメだよポルテ…このまま島にいるだけじゃ」
「ラルムールなんて名前。トト様と私しか知らないはずだ……なんで知ってるの…」
「言えない…でもお願いだ…ラルムールへ向かって欲しい」
そう言って真っ直ぐ見つめてくる。
「来る日ってなんだよ。そんなこと言ったって……じゃあこの波はどうしろっていうんだよ!」
「もうそれを使えるはずだよ…ポセイドンの短剣を…」
「…ポセイドンの……短剣………ロイ…君はいったい…誰なの…」
ルークが叫ぶ声が聞こえる。
「お〜〜〜い、何やってんだよお前ら。明日起きれねえぞ」
ロイはいつものかわいい笑顔に戻って呟いた。
「ポルテ。きっとまた会えるはず」
「え、ちょっと!ロイ…」
またニコッと私を見つめたロイはルークが見えるロックパレスの方へ向かって走り去って行った。
あっけに取られた私は、少し遅れてロックパレスへ戻ったが、そこにルークとロイの姿はもう無かった。
眠ることをしなくなった私はまた1人、浜の方へ戻った。
高く聳え立つ波の壁が暗闇の空に消えて余計に高く感じる。
「今更……この短剣がラルムールが何だって言うんだよ……」
翌朝、聞きたいことが山ほど頭に溢れた私はロイを探してロックパレスを歩き回った。
「あ、ルーク。ロイ見なかった?」
「いや、昨日寝る前に別れたっきりだぜ?」
「そお。あ!おはようアンナ。ロイ見てない?」
「知らないわ。ミアは?」
「見てないよ?」
「イヴも知らない?」
「…いないの?」
どこを探してもロイの姿は見つからず、結局そのまま12月25日のエウトピア商会は営業終了時間を迎えた。
日が暮れかけたレストランでルークが呟く。
「おい、ロイは今日サボりか?」
「リオとエナとケイにも聞いたけど、村では見てないそうだよ」
「どこ行っちまったんだよ」
「ガザムの時と同じだ…」
「おい、あんな奴と一緒にすんなよ…」
「そういう意味じゃないだろ」
「ちょっとちょっと。喧嘩してもしょうがないだろ?2人とも」
ボットが仲裁に入る。
少し考えたイヴが口を開く。
「ロイの親、見たことない」
「言われてみれば…」
ルークにボット、その場の全員が姿を見たことがなかった。
もちろん私も…。
それ以来1週間経っても2週間経っても、ロイ・テスタは姿を消したまま、存在が謎のヴェールに包まれた。
トトの家にいる。
イヴと私とトトでテーブルの上に置いた3つの美しい装飾品と睨めっこしている。
「短剣に首飾りに箱……」
「私のペンダントも…」
「んん…さっぱりじゃて…」
「ロイはポセイドンの短剣て言ってた。ポセイドンの首飾りにポセイドンの箱って事になるのかな」
「ごめんなさい。何も思い出せないわ」
「イヴ焦る必要は無いんじゃて…」
「そうそう!」
「いずれにせよ、この短剣であの波をなんとかできるかもしれないんだ」
「耳を疑う話じゃが、ロイが消えた事を考えると嘘とも思えんな」
ここ数日、何度も私は聳え立つ波へ向かって短剣を振ってみたり、立ててみたり、いろいろ試してみたが結局何も起こらなかった。
それでも気づけは私の気持ちは、また前に進んでいた。




