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『エウトピア』貨幣の無い異世界で、私は円を発行する。  作者: 葡萄
1章ウイ島編

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第20話  希望

「くぁ〜。くぁ〜。ンガッ。まだ食うんだよ。コノヤロ」


「スーー。スーー。スーー。スーー」


ルークは林檎の木を囲っているサークル状の椅子の上で、ひっくり返って寝ている。


大胆な寝方のルークとは対照的に、イヴは木を編んで作られた大きなロッキングチェアーのような椅子で丸くなり、すっぽりと収まってすやすや眠っている。


アイテムボックスから毛布を取り出し、眠っている2人にかけてから、私は暖炉の前の椅子に腰掛けた。

相変わらず、全然眠たくない。


「まったく、ルークは夢の中でも食べてるよ。ボットは眠くないの?」


「ハハッ……2人ともよく眠ってる。あぁ、食事が楽しくて余韻に浸ってるのさ。やっぱりみんなで食べる夕食はいい」


「またこれからも来るよ」


少し驚いた表情になってから、ボットが呟いた。


「優しいな。君は…。僕にとっては君に前世で死んでもらってよかったのかも」


「ハハッ…なんて事言うんだ。いや、光栄ですよ?先輩」


「フフッ…ごめん、冗談がすぎるね」


「いやいや」


火打石を持って暖炉の中に入り、火をつけるボット。


「カッカッカ…パチッパチッ」


暖炉は木の家が燃えないように広めに場所が取られ、石でできている。暖炉の奥の方の石の上で薪が燃える。


こんな暖炉が備え付けられた家がどこかに売られていてもおかしくない。それはそれは丁寧に石を研ぎ木を削り取ったんだろう。


これを全部、ボットが作った事を考えると改めてその集中力と年月の重さを感じる。


「ありがと、ボット。それにしてもすごい家だね。どれくらいかかった?」


「この辺りの木は枯れて見えるけど、中がまだ生きてるものもある。真水をかければ生き返るしね。それを削り出すのが大変でさ。5年はかかったかな」


やっぱり。水をこぼした時に双葉が生えたんじゃなくて、復活したんだ…。


「5年で!?…すごいよ…本当に」


ボットは私が蔵を前にした時と同じように、また眉毛を上げて、嬉しそうに微笑んだ。


「ねぇ。あの林檎は?」


「生まれ変わる時に、何か1つ持たせてくれるって話になってさ」


「もしかして。赤い目で、黒髪で長髪の神?」


「いや…僕は生まれ変わる前は天使に会ったけど…」


「え、いーなー。私が転生する時、その神すごい気だるそうでさ〜」


「ハハッ。そんな神様いるの?」


「いたんです。それが…。それで林檎を持ってきたってこと?」


「うん。前世で妻と初めに植えた林檎の木の枝をお願いしたんだ」


この人はっ…なんて欲のない人なんだっ……。



「ポルテ?」


「あ、ごめん。続けて?」


「村を追い出される時に、こっそりトト様が水色の豆をくれてさ」



……かえる豆だ…。


「ボット。それ、この豆でしょ」


私はトトにもらった◇形のネックレスのペンダントトップを開け、中のかえる豆を見せた。


「これだよ!これ。君ももらったんだね」


「うん」


「渡された時は、何の意味があるかよく分からなかったけど。僕が西端に連れて行かれる時にその豆を僕に渡して、トト様が耳元で呟いたんだ『君にはケトが見えるらしい。きっと役に立つはずだ』ってね。ケトっていうのは今だに何か分からないけど」


微弱だけどボットのケトが見えたから、アムとピムが言ったんだろうな。

それでトトが、かえる豆を渡したわけだ。


「なんだかよくは分からないけど、ケトは神とか精霊の世界にある成分らしいよ」


ボットは驚き、呟いた。


「…すごいな…それが見えるのかい?ポルテには」


「見える。少しだけど、ボットの中に入っていってるよ」


「そうか。じゃあケトのおかげなんだね。豆をもらえたのは。まぁ、その豆も、ここを建築中にひょんなことで地面に落としちゃってさ、雨が降ってそこから木が生えちゃったってわけ」


ボットは林檎の木があるところを見ながら言った。


「じゃあ林檎は?」


「その木に接ぎ木したんだ。

枝は思い出のために取っておきたかっただけだったから、もう古くなってたけど。

ここに果実ができたときは本当に嬉しかったなぁ〜。すごい生命力の木だよ。実がなっても落ちないんだ。すごいでしょ」


「じゃあ、いつでも食べ放題だね」


「ハハッ。うん。それもそうだけど、僕はずっと眺められるのが好きなんだ」


「そっか…」




ここへ帰ってきてからも、あれだけ私たちが食べて少なくなった林檎の果実は、すでにここへ来た時と同じくらいの数の林檎がすでに真っ赤に実り、部屋の中には、ほんのりとその林檎の芳醇な香りが漂う。


「ボット…ミラさんのことなんだけど…」


「パチッパチッパチッ」


ルークとイヴも深い眠りにつき、静かな部屋に暖炉で燃え続ける薪の音だけが聞こえる。



静かにボットは口を開いた。


「母さんの最後を僕は知らないんだ。トト様の手紙で知った。村を変えようとした僕のせいだ」


「違うよ。ボットは間違ってない。全部ガザムが悪いんだよ」


ボットが哀愁と微笑みの混じったなんとも言えない表情で呟く。


「ここでは生まれ落ちた時から前世の記憶があったからね。母さんとは5年間しか一緒にはいなかったけど、濃い時間だった、たくさんの愛をもらったよ。今でも母さんが驚いてる顔を思い出す」



『———僕が1歳くらいの時だった。



「母さん。そろそろお腹が空いてきたんだけど」


「ボット!?あなたが話したの!?」


「僕が火を起こすよ」


「ボット!危ないからやめて!!」——— 』



「いや、それは驚くよ。1歳でそんなにペラペラ話したら」


「フフッ。黙ってるの我慢できなかったんだよね。続けるよ?」




『———母さんは驚いてたけど、その後も穏やかな日常は続いた。


一緒に畑を耕し、もちろん海へも行った。


2歳からは母さんと一緒だったけど、学校へも行ってた。


でも、すぐに気づいたよ。ガザムの支配と、この村の止められた文明にね。


母さんには止められたけど。せっかく生まれ変わったんだ。村を変えたくなってしまった。


できることはなんでもしたよ。気づけば僕はガザムの学校へ行かなくなった。


植物採集のために森にこもり、村人に呼びかけ、家に帰る。そんな日が続いた。


そして僕は5歳になった。村を変えていけそうな手応えを感じ始めた矢先だった。僕のよくない噂が流


れ、西端の地に僕を幽閉することが決まった。


連れて行かれる僕を見て、泣き崩れる母さんが見えたよ。


そしてとうとう、僕を疎ましく思ったガザムは、西端のこの地に僕を幽閉することに成功した。———』



「母さんがすぐにここへ会いに来てくれて、喜んだ僕がバカだったよ。あれが最後になるなんてね…二度目の人生だ。もういいか、とも思ったこともあるけど、母さんの分まで生きると誓ったよ」


「そっか…フランクさんが話していたことと、大まかには合ってるよ…」


「そう……あ、そうだ。カルム村長は元気?」


「カルムさんは3年前に亡くなったそうだよ…」


「……」


ボットは眉間に皺を寄せ、瞳を閉じた。


「カルムさんはガザムの言いなりだったみたい」


「それは違う!!!」


ボットは私の言葉を強く否定し、続けた。


「カルム村長は操られているように見えて、僕に賭けてくれたんだ。あの村の未来を」


「それで思い詰めて…自ら……」


「もしかして…自死か……」


「……うん」


ボットは涙を流した。私も人が悪い。わざわざ言うはずではなかったけど、敢えて言った。

今日一緒にいて、やっぱり彼の協力が必要だと思ったからだ。


「君に優しいと言った言葉は撤回するよ。僕だって人間だ。殺意は持つ」


「ごめん。でも君の協力がやっぱり必要だ。一緒に来てほしい」


「分かってる。でも僕は派手に動けないよ」


「協力してくれるの?」


「だめだと言っても動くんだろ?僕の二の舞にはなるなよ」


「ボット、ありがとう。恩に着るよ」


「そろそろ眠ろうか。明日も何かするんだろ」


「あ、一緒に鍛錬しようよ!素振り!!」


「うわ、変わってないな。ジャンさんの稽古。重いの持たされて、僕が始めたの3歳だよ?」


「ハハッ、ジャンさん…てゆーかさ、なんか…ボット全部が早いね」


「もともと職人気質だからね」


そう言ってボットは奥にある自分の部屋へ戻って眠り、私はルークの隣で眠りについた。



———まだ薄暗さが残った、ひんやりとした空気が包み込む。


またこんな時間に起きてしまった。やっぱりだ。どんどん眠っている時間が短くなっている。


眠りながら瞑想もしている自分に気づいた。


眠っているのか瞑想しているのか、どっちか分からなくなる時がよくある。


食べていないのに満腹感を覚えるような変な気分に襲われる。


魔力の器に何か変化があるのかと期待して、その都度ステータスを見てみるが魔力の数値は1のまま。


ボットが起きてきたら手合わせしてみたいし、先に日課の素振りを済ませようと外へ出た。



改めてここから見ると本当にすごい家だ。釘とかそんな便利なものも無いし、持ってる刃物も幽閉された時に母が持ってきてくれた剣だけらしい。全て木だけで作ったそうだ。蔵の中の物はボットが積み重ねてきた努力の賜物だろうが、ボットは本当は魔法が使えるんじゃないのか。そうとさえ思わせる。


剣術より先に喉が渇いた私はウォーターミントが飲みたくなり、蔵へ向かった。


おぉ、さむっ。やっぱり日がちゃんと昇ってから始めようかな…。


蔵へ近づくにつれて、鼻歌が聞こえてくる。


だんだんと大きくなっていく。


『

   んん〜……♪


  ふ〜ふん〜……♪

  ん〜ん〜ん〜……♪

  ふ〜んふ〜ふ〜ん……♪


  ん〜んん〜……♪

  ふ〜ふ〜ん〜……♪

  ん〜……んん〜……♪

  ふ〜……ふん〜……♪ 』



まただ。この鼻歌だ。


「カッカッカッ」


「ギィー」


階段を登り、鼻歌が聞こえてくる左側の蔵をそっと開けた。中から漏れる温かい空気が身体に当たり、心地いい。ずっと聞こえてくる鼻歌。


なんだか心地いい鼻歌だ。茂った野菜と果物からケトが漂い、聞こえる鼻歌は奥へ進むにつれ少しずつ大きくなっていく。


途切れる事なく、ずっと聞こえ続ける鼻歌。


「ザックザックザック」


私はボットが育ててきた植物を、また掻き分けながら精霊の姿を探した。


「はっ」


また私と目が合う妖精。また逃げようとするのが分かった。


「あ!待って、逃げないで」


昨日見た精霊だ。

目が合うとまた姿が消えてしまった。


「もしかして、話せるんじゃない?」


精霊は姿を現してくれない。


「危害は加えないし…話をさせて欲しい…」


精霊は、上の方まで伸びた葉の裏からこちらを見つめている。


少し待ったけど、精霊は姿を現さなかった。


私は隣の蔵のウォーターミントの葉をもいでから、短剣で切り目を入れて口に含み飲み込んだ。

精霊はなんで逃げたんだろう。私のケトだって見えているはずだろうに。


ボットの栽培を手助けしているのはおそらくあの精霊だろう。


「あ!お前。抜け駆けか?」


私が蔵にいるのを嗅ぎつけたのか、起きてきたルークが蔵の外から入ってきた。


「喉が渇いたんだよ。ルーク、食いしん坊に拍車がかかってない?」


「そーか?俺はいつもこんなもんだ」


そう言いながら、果物をもいで嬉しそうに頬張っていた。


その後、私とルークはアイテムボックスにしまって持ってきた重たい剣で素振りをした。

昨日も一緒に鍛錬をしたが、驚いた。私も大概、振るのが早くなったが、ルークもそれは同じだった。

自分の成長よりも人の成長を見る方が実感するものだ。


「ルーク。ジャンさんには内緒でちょっと打ち合いしてみない?」


「お、いいぜ?」


架空の相手ではあるがずっと見えない相手と戦ってきたんだ。同じ短剣を持った相手。ルークのような、そしてジャンのような長剣の剣士も想像した。飽き飽きしていた頃だった。いや、早く試したかったというのが正しい。


「ガインッッ」


私の短剣とルークの長剣が重なる音。

私とルークはニヤッと微笑む。


「ガインッ………シャワッ」


ルークが長剣を振り、私は短剣を長剣の剣身にそわせスライドしてかわして懐へ潜ろうとするが、ルークは後ろにかわし、間合いをとる。


「やるな…お前」


「ルークだって」


短剣は長剣に比べてパワーでは負ける。素早さと身のこなしが必要だ。それに、相手の懐まで近づかないと身体には当たらない。


「ガインッ…ガインッ…ガインッ…ガインッ」


お互いの剣に合わせるようにゆっくりと打ち合っていた剣の動きがどんどん早くなっていく。


「ハッハッハッハー」


「アッハッハッハー」


楽しい。剣の動きにあわせてどんどん早くなっていく私たちの身体の動き。


ルークの長剣を避ける私の身体が空中を半回転し、その下をルークの長剣が空を切る。

ルークの懐に入った私の突きを長剣で塞ぐルーク。頭で考えるよりも先に身体が動いていくのが分かる。


「おいおい、すごいな」


「ガインッ…ガインッ…ガインッ…ガインッ」


ボットとイヴが家から出てきて私たちを見ている。

手合わせしていない外側から見たら、私たちはどう見えるのだろう。多分だけどルークも同じだ。動いてる剣がスローモーションで動いてるように見える。これじゃ全然危険じゃない。まだまだスピードを上げられる。


「はいストップ。そこまで。朝食にしよう」


手を叩いてボットが止めた。

家に帰った私たちは朝食を食べることにした。ボットがリンゴを食べながら言った。


「ポルテ、あんなの見せられたら怖くて手合わせできないよ。怪我なんてしたら、手伝うなんて言ってられない」


「おぇ!?ボット。協力してくれんのかよ」


「フフッ。うん。あまり派手には動けないけどね」


「ありがてえ」


「ボット、この後、一緒に昨日会ったところに行って欲しいんだ」


「あ、うん。いいけど」


食事を終えた私たちは昨日会った所まで戻ってきた。


「ここだ…」


張り出た岩の、ここだ。天然の高架下!上に何も通ってないけど…。


「あぁ。なんとなく分かったかも」


「派手には動けないって言ってたけど。この高架下に建物を建てて欲しいんだ、ボット」


「やっぱり…」


「マジかよっ…なんだ高架下って…」


あ…ボットがいると、ここには無いものをなんでも言ってしまうな。気をつけないと。


「どう?できそう??」


「やりたいね。腕がなる…でもポルテ。流石に道具と材料がいるなこれは…」


「道具は大丈夫!」


アイテムボックスから準備しておいた使えそうなものを全部、岩の下に出した。


「もう驚くことはないと思ったけど、すごいな…家づくりの時にも君の力が欲しかったよ」


「便利でしょ〜。材料なんだけど、私を信じてもう少し待っててもらいたいんだ」


「おい、ポルテ、帰るのか?」


「僕はいつでも大丈夫だよ。準備して待ってる」


「一度村へ戻らないと…村にいない事がガザムの連中に気づかれると厄介そうだしね」


「まあ、そうだな」


ボットは私を見つめて言った。


「待ってるよ」


「うん。必ず」


私たちはボットとそこで分かれた。


「よぉーーーーし」


歩き出して少し離れた時、岩場の方からボットが気合を入れる声がした。


今日は雪も少ない。帰るには絶好の気候だ。


「ルーク。帰ったらボットが生きてたことジャンさんにこっそり伝えておいてね」


「当たり前だ!」


「私もフランクさんと話さないと…」


ボットのおかげでやることが山積みだ。

気がかりなのは魔力の器を開花させるだけなのに一向に変わる気配がないことだ。


便利なのはあまり眠らなくても元気なくらいだ。できることはなんだってやってやる。


食事を取り、休みながらも、来た道を順調に戻り、日が暮れる前に、私たち3人は無事村へ到着できた。


行きは雪のせいで、少し長く時間がかかってしまった。


遅れたおかげでボットに会ったというラッキーもあったが…。


ようやく村へ到着し、ルークと別れ、私はイヴと勢いよくオリベル家へ入った。


ボットが生きていたことを、早くフランクに伝えたい。



その一心で……。



一番会いたくない、ガザムが家に来ている事も知らずに。


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