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『エウトピア』貨幣の無い異世界で、私は円を発行する。  作者: 葡萄
1章ウイ島編

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第18話  喧嘩するほど仲がいい

アイテムボックスに日頃から貯めてきた薪を取り出し、火打石で火を着けた。


「カンッカンッ……パチッパチッ」


「よし、着いた」


「パチッ…パチチッ」


一本一本、薪をくべるごとに大きくなっていく焚き火。


「くそっ、厚着して来たのに。まだ寒いな」


「どんどん、吹雪が強くなってるね…」


少しすれば収まると思った吹雪はすぐに過ぎ去ることは無く、それどころか、時間が経つにつれ勢いを増していき、洞窟の外は風の音が唸り声を上げている。


イヴも震えこそ止まったものの、不安そうにしている。


朝から村を出たのに、もうすでに日も沈みかかっている。


「今日はここで一泊しよう」


「まあ、それが賢明だろーな」


「さあ、そろそろ食事にしようか」


「お、待ってましたっ!!!腹ペコだぜ〜」


イヴも嬉しそうに首を振っている。

アイテムボックスから鍋や植物を次々に取り出す私を見て、イヴは不思議そうに首を傾げ、その隣のルークはまだかまだかと前のめりになっている。


「今日のポルテズキッチンのメインディッシュはこちらっ」


私はアイテムボックスから仕留めた海鳥を取り出した。


海辺の岩場にいる海鳥が前から気になっていた私は、ユユの実を囮に罠を作り、見事に仕留めていたのだ。


「おい、こっれ海鳥じゃねえか。食えるのか…」


「鶏肉は美味しいんだよ…ちょっと待ってて」


ルークとイヴには食事ができるまで、指スマやら手遊びをしながら待ってもらった。


メニューは前にオリベル家で振る舞った事があるシチューだ。


前はミルクうさぎの肉でシチューを作ったが、今日は海鳥の肉を使って作れる。ルークの植物の知識のおかげもあって、私が使えるシチューの具材も豊富になっている。前よりもさらに美味しいはずだ。また今度オリベル家のみんなにも振る舞ってあげたいな…。


残った海鳥は塩で味付けして、あっさりと焼き鳥にした。


洞窟の中に煮込まれたシチューの香りと、焼き鳥の香ばしい匂いが混じり漂う。


「おい、なんだこの爆裂に美味そうな匂いは…早く食わせろ…指スマ飽きた」


振り返ると、シチューと焼き鳥の匂いにつられた2人の猛獣がすでに涎を垂らしながら待ち構えていた。


「できたよ、食べようか」


器によそわれたシチューと、焚き火で焼かれている焼き鳥をルークとイヴは交互に見ている。


「どうぞ、召し上がって」


ルークは焼き鳥にかぶりつき、イヴはシチューを口にした。


「……なんだこれ。俺は今までこんな美味いものを見落としてたのか……」


「○!※□◇#△!」


「ハハハッ…イヴも美味しいんだね。作り甲斐があるよ。まだ明日の分も食料はあるから遠慮なく食べて」


夢中で勢いよく食べるルークとイヴ。


私もシチューを飲み、焼き鳥も口にした。本当だ…我ながらとても美味い…冷えた身体も温まる。


これだけ食べても、アイテムボックスにまだ食料はかなりある。


余ればそのままアイテムボックスにしまっておけるし、食料不足の心配は無い。

ここへ来てアイテムボックスのありがたみを実感している。


最近気づいた事だが、アイテムボックスに入れたものは、入れたその時の状態で出てくる事が分かった。


昨日、かなり前に入れたはずの、すっかり存在を忘れていたウボの実が腐らずに、そのままの状態で出てきて発覚した新事実だった。


だからシチューもアイテムボックスへ入れておけば食べられる状態がずっと維持できるので、それはもう便利なものなのだ。


ただ、そんな心配をする必要はなかった。


鍋にあったシチューと焼き鳥はその日のうちに全て無くなった。


「だー、ご馳走さん。うまかったぜポルテ」


イヴも満足したようだ。



外はすっかり日も沈み、夜になった。

雪は降り止んだものの、積もった雪が洞窟の穴を塞ぎ、そこにできた隙間が、入ってくる強い風で音を出す。


「ビューーーー」


アイテムボックスに人を入れても老けないのだろうか…。


そんな事はしないけど、なんとか応用して前世で商業化したらバカ売れしそうだな、これは…。


余った時間に叶わぬ妄想をしてみたりもしたが吹雪は弱まりそうにない。


お腹が満たされたイヴの首が、あっちへこっちへ動き始める。初めて意識が戻った時と同じだな。


私は微笑み、アイテムボックスから毛布を出してかけてやると安心したように眠りについた。


「コロン、コロンッ……パチッ…パチッ…」


薪を足された焚き火が燃え続ける。…暖かい。雪が積もって入り口を塞いだおかげだろう。そこまで冷えない。私は横になり、ルークは火に手を当てながら呟いた。


「なあ、ポルテ。島の北側へ着いたら、まずどうする」


「住処を作れそうな場所と畑を耕せる場所は確保したいけど…この雪だからね…」


「だろうな…あそこは土はあるけど枯れた木も多い。耕すにしてもこれから木を抜くのも大変だぜ…」


「何年もかかるだろうね……」


「かなり広いからな、どれだけ拡げるかにもよる……ポルテ…お前」


「ん?」


「ボットって奴のこと知ってるか?」


寝転びながら暖をとっていた私は、その名前を聞いて上半身を起こした。


「ボットって。ボット・カルルキンのことか?」


「あぁ、知ってたか」


「うん。フランクさんに聞いたよ。ルークはジャンおじさんに?」


「あぁ、この前ちょっと島の西側に入ったらよ、森で人影が見えた」


「ボットか?」


「あぁ、多分な。フードを被ってた、俺を見つけて逃げるようにどっか行っちまったけどな。帰って親父に話したらボットの話をされて知った」


「まだ生きてたんだ……西端から少しこっちへ来てたのか…」


それにしても、森でルークを撒くなんて。相当森を熟知していないと出来ない芸当だ。


「北側へ着いた後、一度西へ行ってみないか?」


「ボットに会うつもり?」


「あぁ、俺たちより歳上だしぜってー使える男だぜ?あれは」


「イヴもいるし、危険だよ」


「この吹雪だぜ?ガザムのパシリどもも着いて来てやしねえよ。そのための剣術だろ?」


ルークも、ジャンが私たちに剣術を教えた想いに気づいていた。


ガザムに敵対する私たちの味方になってくれれば、確かに心強いし、フランクの話を聞く限り、可能性の方が大きい。


だが相手は15歳の少年だ。フランクはボットを買っていたが、どんなやつかはわからない。



こっちには3人いるとはいえ私たちより6歳も歳上だ。それに、ガザムが危険視するほどの人物だ。得体は知れないが……吉と出るか凶と出るか。


「ビビっていられないね……行こうか!」


「よっしゃぁあ、さすがだぜ!相棒!!」


思わず大きな声になった私たちは眠っているイヴを思い出して2人で顔を見合わせ静かに口を閉じた。


オリベル家の人とジョイス家の人たちには「念のため数日は北側にいるかも」…と伝えた。


迷子になったと分かれば、昔の迷子になったアンナの話を聞いていたおかげで、大騒ぎになるのを知っていたからだ。そう言っておいて良かったと思った。


朝を迎えた。


雲ひとつない空の太陽が、山肌に降り積もった雪を照らし、その光が反射する。


「眩しい…」


洞窟の穴を半分以上塞いでいた雪をかき分けて、外へ飛び出した。


狭い洞窟から一気に白銀の世界へ飛び出したからだろう、顔に当たる冷たい風が心地いい。すごい開放感を感じる。


「おぉ〜、長かった〜」


ルークとイヴも後から続いて外へ脱出した。

昨日の吹雪が嘘だったかのような快晴である。


「ポスッ」


突然、私の頭に雪の玉が当たった。


飛んできた先を見ると少し意地悪な顔をしたイヴが私を見ている。


「ポスッ」


私を見ているイヴの身体に雪の玉が当たった。ルークが雪を投げたからだ。


「ポスッ」


「ポスッ」


「ポスッ」


雪の玉が次々と飛び交い、白銀の景色の中を交差していく。


「ハッハッハッハッハ」


「アッハッハッハッハ」


イヴも満面の笑みで雪の玉を投げる。


「ブワッハーーーーーー」


「ドサッッッ」


私が投げた雪の玉と、イヴの投げた雪の玉が同時にルークの顔に当たった。


その勢いのまま積もった雪の中に倒れたルークが、雪に埋もれてその場からいなくなった。


「ハッハッハ…ごめんルーク。大丈夫?」


ルークの身体が作った穴を、イヴと私は恐る恐る覗き込んだ。


「うわっ」


「ドサッ………ドサッ………」


倒れ込んだルークの手が雪の中から伸び、私とイヴの手を掴んだ。


「あっ」


そのまま引っ張られた私たちは雪の中にルークと同じように仰向けに倒れ込んだ。


楽しい…。


「ハッハッハッハッハー、みたかー、道連れだー」


「アッハッハッハ、すぐ出てこないのが頭いいよ」


私たちは大笑いした。


しばらくして雪の中から起き上がったルークが口を開いた。


「行くか」


「そうだね……おぉ、びっくりした。雪の中に埋もれてるイヴ綺麗だね」


真っ白な雪の中にいるイヴは、白い髪と肌が雪に溶け込み、余計に美しく、神々しいとさえ思わせる。


「はぁー、お前はまた無意識にそういうことを…」


「え?何を??ほら行くよ!2人とも!!」


真っ赤になったイヴの肩をルークはポンと叩き、先に行った私の後を追いかけるのだった。


岩場の道を抜けると荒れた森が姿を現し始めた。


島全体で見れば、ほぼ山麓に沿うようにここまで歩いてきたが、村の周りの自然とは雰囲気が全く違う。木は枯れ果て、見渡す限り緑がない。同じ島なのかここは…そう思わせるほどに違っている。


「本当に緑がないんだね…ここ」


「あぁ、言っただろ。いい土なんだけどな。」


「じゃあ何でこんなに…あれ、なんかもうすごい海の香りがするね」


「あぁ、北側の海までまだ30分はあるのにだ」


「そんなに!?じゃあ植物が枯れてるのって」


「そういうことだ、ここは潮風が半端ねえからな」


想定外だ。島の北側で村には無い植物を大量に栽培する予定だったのに。くそっ…これじゃ計画の大部分が消える。変にサプライズ好きな性格が裏目に出てしまった…。ルークにもっと早く相談していれば対策を練れたかもしれないのに…。


緩やかな峠を抜けて、ようやく砂浜が姿を現し、私は目を疑った。



「ザァアアアアアーーーーーーー」


「冷たいっ…ルーク…これは……」


「昨日見ればわかるって言ったろ?」


南の砂浜から見える海の波より10倍以上ある波が立ちはだかり、飛沫が顔に当たる。


これは波と言えるのか…もうこれは…壁じゃないか。

このままこっちへ来たら砂浜が飲み込まれてしまうぞ……そう思ってしまうほどの迫力だ。


「そんな……これじゃ…」


「あぁ、オヤジがガキの頃に歩いて波の形を見て回ったらしいけどよ。南から北にだんだん波が高くなっていってるらしい…南の海からじゃ全然分かんねえけどな…この島は斜めに切られた木みてえに『楕円形の波の壁』で覆われてるんだってよ」


「何で教えてくれなかったんだよ…」


「言ってもしょうがねえだろ?…言っても変わんねえよ。この波はよ」


「何か対策が打てたかもしれない!」


喧嘩になりそうな私たちの間に入って止めるイヴ。イヴの困った顔を見て私は我に返った。


「…悪い。ルーク取り乱した」


「いや、俺も濁さずに言ってれば良かった。でも、何でそんなに焦ってる…ポルテ」


「村の人たちをボットの母親のようにはしたくない……アンナもジーナさんもフランクさんも。もちろん君の家族だってそうだ……。今更だけど私たちの行動は村の人にとって危険因子でしかない。先になればなるほど危機に晒すわけだ。一刻も早く……」


「分かった分かった…ポルテ…もう大丈夫だ…」


まずい……やってしまった。大人気ない……。


「ごめん…」


「いや、そうじゃない。どうする…ボットに会いに行くのはやめておくか?」


真剣な顔で話すルークに私は圧倒された。

若干9歳の少年が中身30そこそこの人間と対等に話していることに。

そして、どこかで私は今までルークを子供扱いしてしまっていたことに気づいた。

私はそんな未熟な自分をこの日、恥じることになり、そして改めてルークとは心から親友だと思えた日だった。


待てよ……私前世でも他人と喧嘩したことがないな。喧嘩するほど仲が良いとはこのことか…。


「おい……どうする?」


また、考え事をしてしまって慌てて我に返った。


「あぁ、えっと。ルークはどうしたい?」


ルークはニヤッとして言った。


「お前の考えは分かっちゃいるが、行きてえ!」


「私もそうした方がいい気がしてる!!」


何だかとても馬鹿らしい喧嘩だったように思えてきて、照れ臭さが混じりながらの変なテンションになってしまった。


「ッハッハー、そうと決まれば。さっさとここら辺、調査して向かうぞっ」


すぐに仲直りした私たちに嬉しそうに、でもどこか呆れたような顔でイヴが微笑んでいた。


飛沫がかからない砂浜と森のちょうど境目くらいをどんどん歩いて行く。森といっても枯れた木ばかりの荒地と言った方がよさそうだ。荒地の土を触り、ルークは呟く。


「やっぱりだ。土はかなり良い」


「じゃあ、やっぱり。あの波の壁が……」


何度見てもやっぱり波の壁は普通では無い。重力を無視しているとしか思えない。

一体どういう原理なんだ……。


島の北側といっても範囲はかなり広い。まだ最北端には到着していないだろう。それに浜には物が何一つない。あれだけ南側に集まっているのに…て事はだ、この波が押しのけて南側に全部物を運んでいるってことだ…それで、あれだけの物がたくさんあるのか…それがわかっただけでも満足するべきか…。


「この島に何で誰も来ないのか分かったよ。ここが他からどう見えてるかわからないけど、これじゃそもそもここへ来られないよ」


「だろーな。来られねえし、俺たちは全員閉じ込められてんのさ。この島にな!」


そう言いながら、ルークは高く聳え立つ波の壁に石を投げつけた。


「届いてないよ?」


「ウルセェーー!!!」


ルークに追いかけられる私を見てイヴがクスクスと笑っていた。


あまり変わり映えのしない景色を横目に私たちは黙々と歩いた。

高く感じた大迫力の波の壁も、あまりにも変わり映えしないと波の音が騒がしいだけの、ただの壁だ。


「もう1時間は歩いたんじゃない?」


「そうだなぁ。土地は広くていいが、住処にできそうな場所が見つかんねえなあ〜」


場所にももちろんこだわりたいが、欲を言えば川ができた時のことも考えたい。

良いアイデアが浮かぶようないい場所が出てきてくれれば良いのだけど…。


「おい、ポルテここらで一回休もう」


「あ、うん」


少し荒地の方へ進み、枯れた木の大きな切り株の周りに座ることにした。


「フーーーーーーー」


「アッハッハッハ」

「ハッハッハッハ」


一目散に切り株にもたれ掛かって大きなため息をしたイヴが妙に面白かった私たちは顔を見合わせて笑った。何で笑っているのか不思議そうにイヴもにっこりと笑っていた。


「カンッ…カンッ…カンッ…カンッ…カンッ…カンッ」


「ダメだ。着かないや」


火打石を打つが、拾った枯れ木はしっかりと潮を吸って火がつかない。アイテムボックスからまた薪を取り出し、火をつけて私たちはまた暖をとった。ルークがふと呟いた。


「ちょっと行ってくるわ」


「どこに?」


「小便だ!」


「フフッ、あぁ。行ってらっしゃい」


イヴも眉間に皺を寄せて笑っている。下品だと言わんばかりの顔だ。

ルークは荒地の奥の方へ歩いて行った。


私の腕をつついて、イヴが口パクで『み ず』と言った。


「飲みたいの?」


首を縦に振るイヴ。


「待ってね〜」


私は容器を取り出し、アイテムボックスに収納した川の水をイヴが持つ容器に流し入れた。


「トクットクットクッ…ドバッ」


「おっと、ちょっとこぼれちゃった」


こぼれた水はイヴにかからず切り株の根にかかった。美味しそうに水を飲むイヴ。


「美味しいでしょ〜汲みたてだからね」


満足そうに水を飲み干したイヴ。


「……あれ?……」


さっきこぼして水のかかった切り株の根から、小さな緑の双葉が生えていることに気づいた。



「ちょ……こっち来てくれ!」



双葉を見つけたのと同時に、荒地の奥からルークの呼ぶ声が聞こえた———


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