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『エウトピア』貨幣の無い異世界で、私は円を発行する。  作者: 葡萄
1章ウイ島編

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第17話  いざ、島の北側へ


私はこの首飾りの装飾と、そしてその首飾りの真ん中にある紋章を知っている。


短剣にあるそれと、そしてトトのかえる豆が入っていた箱のそれが全く同じだったからだ。


一体、この『槍の紋章』は何の紋章なのだろうか…。


まじまじ見つめていると、首飾りの質感とはまた違う、水色のペンダントトップが別に付けられていることに気付いた。そこに刻まれているドーン文字。


「『比類なき証をここに dearイヴ』……dear…イヴ…君の名前はイヴみたいだよ…」


イヴはきょとんとした顔をしている。身に覚えがないみたいだ。名前を聞いても何も思い出せないか…一過性の記憶喪失ではなさそうだな。


それにしても、この槍の紋章と…比類なき証って…一体なんなんだこの槍の紋章。この島にいるだけじゃ、何も分かりっこないが…。


あ………。


串焼きとウボの実を食べてお腹が満たされたのだろう。ソファーの前で、膝を抱えて座っていたイヴの首があっちへこっちへ揺れている。眠たそうにしている。


「そろそろ、眠ろう。また横になった方がいいよ」


そう言うと、イヴは半分、眠ったように暖炉の前に敷かれた布団の中へ吸い込まれていった。


今日は身体があまり疲れていない…今日というより最近ずっとだ…。眠っている時間もどんどん短くなっている気がする。


夜更かしして早起きする生活がずっと続いているのに健康そのものなのだ。

気にする必要もないだろう。心配にならないくらい通常運転なのだから。


変わったことといえばステータスだ。


「ステータス」



     STATUS

______________________________

名前:ポルテット・エウトピア

年齢:9歳


筋力:10

魔力:1

知力:10

_______________________________

SKILL

魔法: 1

アイテムボックス:∞

発行可能金額:0円            

________________________________


誕生日で9歳を迎え、私のステータスは年齢通り9歳に変わり、筋力は3→10に、知力も8→10に上がっていた。


年齢が上がればステータスが上がるというわけではないらしい。魔法の数値が変わっていないからだ。自分の努力次第といったところか…。


筋力は、毎日の私の鍛錬の苦労を考えれば妥当な上昇といったところだ。


知力はよく分からない。前世の頃から考え事は多い性格だったと思うが、ここへ来てから考え事をする量と時間が3倍くらいになった気がする。焦る気持ちが日に日に私に焦燥感を与えてくる。若白髪が生えないようにしないと。まあ……転生した時から灰色の髪だから気にならないか。


魔力の数値を改めて見てほしい。全く変わらない…。1は元々あるんだけどなぁ…。1は溜まっているということなのか…可能性の範疇なのか否か。ということは魔法もだし…。とんとん拍子とはいかない、なかなかシビアな仕組みである。


いやいや、贅沢を言ってはいけないな…無限のアイテムボックスで十分じゃないか。まったく…人間というやつは欲深い。



「スーーー、スーーーー」


イヴがすやすや眠っている。起こさないように暖炉の薪をそっと足してから、布団にくるまり私はソファーにもたれ、また瞑想をし、いつの間にか眠りについた。




朝の光が窓の隙間から差し込み、私の顔を照らす。


———「朝か…ちょっと…なんか…苦しいし動けない、暑い……」


布団で眠っていたはずのイヴが私に抱きついて寝ている。

ちょっと……これはまずいんじゃ……。


「ガチャッッ」


「おはよ〜、え。ちょっと!何してるのポルテ」


「あ、いや…これは…」


いやそうなるよね…誤解なんです。


「ガチャッッ」


「あら、もう起きてたの…まぁ、ポルテ…」


「ポルテも隅におけないねえ…」


「いや、誤解だって」


ジーナにフランクも起きてきた。


眠り続けていたイヴが眠そうに目を覚まし、人が増えていることに気づき寝転びながら私の後ろへ、しがみつき隠れている。


「ここの家の人たちだよ。アンナにフランクさん、ジーナさんさ」


「よろしくねっ」


「初めまして」


「よかったわ〜、目が覚めて」


「大丈夫。みんな良い人たちだ。意識のない君を心配してたんだよ」


少しお辞儀をするイヴ。


「昨日の夜中に目を覚ましたんだよ。布団で寝てたはずなんだけど…あ、ジーナさん。余ってた干し肉この子にあげたんだ」


「そう、よかったわ。食べられたのね」


隠れているイヴの目の前に素早くアンナは近づいてまじまじと見て言った。


「やっぱり、かわいいぃい〜〜。どこから来たの?名前は??」


私が初めてこの島に来た時のアンナのことを思い出した。笑える…こういう時の

アンナはグイグイ来てくれるから、そのうちすぐ仲良くなれるだろう。

勢いに圧倒されるイヴ。


「アンナ聞こえるけど、話せないみたいなんだ…名前はイヴ」


「何で名前がわかったの?」


「首飾りを見たから」


何も言わずにそっと首飾りを服の中から出し、みんなに見せるイヴ。


「わぁ〜。あれ、この綺麗な装飾って…」


「いや、そうなんだよ」


私は短剣をホルダーから外してイヴの首飾りと比べた。

フランクとジーナも興味を示している。


「本当だね…。同じ紋章もついてる」


「着替えさせた時に見たわ。外そうか迷ったんだけど、大事そうだったからやめたのよ

。明るいところで見ると綺麗ね〜イヴ…よく似合うわ」


照れくさそうにしているイヴ。

アンナが首飾りの水色のペンダントトップに気づいたみたいだ。


「『比類なき証をここに dearイヴ』…?」


「うん…何が証かよく意味はわからないけどね」


「イヴか〜。名前までかわいいなんて…」


「ハハッ……アンナ、私がここへ来た時もずっとそんな感じだったよね」


「え、そぉ?」


ジーナとフランクも頷いている。


「えぇ、そうだった」


「ハハッ…確かにな。ついこの前なのに随分前のことのように感じるよ」


「え〜?そうかなあ〜そんなに変だった??」


「ハハハッ…変じゃないよ、勢いがさ〜」


不思議そうに見つめるイヴに気づいた。


「あ、実は私もこの島に来て、まだ半年くらいなんだよ」


イヴは何も反応せずじーっと私を見つめている。


「え、何?」


「あらあら…」


ジーナがそう言うとフランクとアンナもみんなでニヤニヤしながら顔を見合わせていた。

なんだ?変な人たちだ…。


その日も私はトンズから奪い去った重い短剣を振った。

ジャンにもらったアドバイスのおかげか、だいぶ様になっている気がする。


なぜなら動いている自分の影がなんか、ちょっとかっこいい気がするからだ。

フフフ…あ……しまった、イヴが見ているのを忘れていた。恥ずかしい…。


「ブンッ…ブンッ」


私をじっと見つめていたイヴが何か思いついたように辺りを見渡して細い棒を見つけて振り始めた。


「ブンッ…ブンッ」


「イヴ…剣術してみたいの?」


また、こくりと頷くイヴ。


私はイヴを連れてジョイス家へ向かうことにした。

私の後ろをついてくるイヴ。昨日の私の料理がよっぽど美味かったんだろうか…餌付けして懐いた鳥の雛みたいだ。それにしても、元々話せないのかな…それも記憶喪失だし分からないか…。



「ブウォッ…ブウォッ」


「ブゥンッ…ブゥンッ」


ジャンとルークが剣を振っている。


「おはよー!」


「ドスッッッ……ドサッッッ」


2人が剣から手を離し地面に剣が横たわる。


「おー、ポルテ。あ、昨日の…目覚したのか」


「おぉー、その子が!昨日ルークが話してた子か!すげーべっぴんさん連れ回してこの色男!」


「やめてよジャンさん。この子も剣術を教えてあげて欲しいんだ」


「この子がか!?…へーーー」


ジャンに覗き込まれて、また私の後ろに隠れるイヴ。


「おっと、悪い。悪気はねえんだお嬢さん。許してくれ」


膝をついて謝るジャン。こういうところがこの男は格好がいい。

大丈夫だと分かったのか顔を出し微笑むイヴ。


「ルーク・ジョイスだ。よろしく。お前、名前は?」


出された手に恐る恐る手を出し、ルークと握手するイヴ。


「ルーク。この子話せないんだ。名前はイヴ」


「おお、そうか。悪い、イヴ」


頷くイヴ。

口調は荒いが、深く聞かないところがルークの優しさだと私は知っている。


「ポルテにイヴ。続々と新キャラが増えるな。最近よお。どうなってんだこの島は」


「フフ…ジャンさん新キャラって…」


ハハハッ…この人、アニメもゲームも知らないだろ。なんで知ってるんだ、新キャラって。


「ダーッハッハッハー。そうと決まれば行くぞっ」


「どこにだよ」

「どこへ?」

不思議そうな顔をするイヴ。


「決まってんだろ〜〜?」



到着した。トンズ・カーチスの鍛冶場だ。



「ドゴッ」


勢いよく扉を開ける音。


「邪魔すんで〜」


「邪魔すんねやったら帰って〜」


「あいよ〜。おい、トンズのおっさん来たところだろ?」


「お前も、前のことがあるのに、よくもまあ気にせず来れるもんだよ。なんだあ今度は女がもう1人増えてらぁ」


自分のことだと気づき、また私の後ろへ隠れるイヴ。


「まぁ、そう言うなよ。今日はこの嬢ちゃんに頼む」


「ドスッ」


ジャンはそう言いながら干し肉をテーブルの上に置いた。

干し肉をもらって嬉しそうにトンズは言った。


「おっほ〜、好きなの持ってけー」


「フッッ…よし、嬢ちゃん。好きなの選べ」


イヴは鍛冶場にかけられたたくさんの剣を見渡し、少し悩んでから指差した。

届かない高い位置にある一本の剣をジャンが取り、イヴに手渡した。


「これか?」


頷くイヴ。


「ほぉ〜、レイピアか。華奢な嬢ちゃんにピッタリか。おい、おっさん。もらってくぞ」


「おぉ〜」


トンズは鍛冶場で干し肉を炙りながらこっちを見向きもしない。

トンズの家を出たルークが言った。


「けっ…嫌なやろーだぜ」


「クスクスッ」


イヴが笑っている。良かった…だいぶルークとジャンにも慣れたみたいだ。


「オヤジ、イヴは重いのいらねえのか?」


「女の子にそんなことさせるか!…てのもあるが、幸い選んだのが細い剣のレイピアだ。攻撃力が低い分、この剣の使い手はスピードを鍛錬しねえとな」


「俺もレイピアにしようかな」


「ゴスッ」


ジャンに頭を拳骨されるルーク。


「いって〜な〜、冗談だっつーの」


「クスクスッ」


笑っているイヴを見て、微笑み顔を見合わせるルークとジャン。

私はその姿を見て、つくづく良い友を持ったと思った。



———そんな穏やかな時間は終わり、ついでということでジャンによる強制の剣術素振りをしている。


「だっ…はー、ふっ…はー」


「んっ…ふー。はっ…ふー」


意識が飛びそうだ。もう一万回くらい振っているんじゃないか。日も暮れかかってる。

心配そうにイヴも私たちを見つめている。


「ッフーーー、よーしお前らもそこまで!きっもちいーー」


私たちと一緒に剣を振っていたジャンは全く息が切れていない。この人…バケノモだ…。


「…死ぬ…鬼か…」


「…み…水…」


「ダーッハッハー、よし、まあ上出来だ。ちょっと早いが、次から俺様が稽古つけてやる」


「お…まじ?」


「ジャンさん…まだ1年全然経ってないけど」


「うるせー!俺は気まぐれなんだよ。その代わり!!毎日、素振りは続けろよ」


「えぇーーー」

「えぇーーー」


夕焼けの空に、拳骨の音が二回響いたのだった。


この日から数日後ジャン自身が稽古をつけるのは、北側に基地を作る私たちを早く強くするため。


つまりは、ジャンなりに私たちを守る方法なんだなと稽古をする中で気づいたのだった。



オリベル家では私に続き、イヴも増えたことで一気に5人での生活が始まった。


アンナの気さくな性格はイヴの心のガードをいつのまにか粉砕し、2人で笑っている姿をよく見かける。そんな姿を見ているとイヴが話せないことを忘れる時があるほどだ。


いつの間にかアンナの部屋にはフランクのベッドが運び込まれ、アンナとイヴの2人部屋になった。


「ねえ、僕の椅子は?」


「そこよ……」


4人がけのテーブルには背もたれのない椅子が足された。


フランクさんは、度々生贄になってもらって申し訳ないが、女性が強い家庭というのはこんなもんだ。

ふー、私は子供でよかった。神に転生のことを口止めされていて良かったのかもしれない。なんて……。



———今日は待ちに待った島の北側の探検である。


ルークと私……そしてイヴもいる。


アンナに何度も学校へ誘われていたが、イヴは首を縦に振らなかった。


ずっと私のそばから離れようとしなかったからだ。


フランクとジーナも無理強いはしたくないと言って、私に任せるとのことだった。

なんだか前世ぶりに教育係に任命された気分だったが、心配する必要は全くなかった。


イヴは教えれば教えるほど、物事をスポンジのように吸収していった。


ルークほどではないが、物覚えがかなりいい。

できる部下を抱えたポンコツ上司にならないようにしなければ……私も頑張ろう。


「よーーし、良いか?冬の森でも食えるものは多い!イヴ…これは食える、これは食えねえ」



北側へ向かうべく森の中を進んでいるわけだが、ルークがイヴに森の中の植物を教えていっている。頷きながらルークと一緒に先へ先へと進んで行く。


真冬でも森の中にいるルークはいつもイキイキしている。


最近ジーナさんに聞いた話では、たまにアンナと一緒にトト様の元へ行き、植物について学んでいるらしい。すごい向上心で感心する。


それにアンナとデートまでできて、さぞ楽しいことでしょうなぁ…。ヒヒヒ…私に隠れてコソコソと……私にはジーナ・オリベルという最強の切り札がいるのですよ?全部筒抜けである。


いつもの森を抜け、ちょうど島の北半分へ差し掛かると木はだんだんと減っていき、雪の積もった岩場だけの山道になっていった。


「うわ、雪も積もってるし、結構険しいんだねここ」


「北側に入ると植物が無くなってくしな。楽しくねえから俺もほぼ来ねえよ」


「フランクさんが言ってたけど海はあるんでしょ?」


「あることはあるぜ、まあ見てみればわかるよ」


なんだか含みのある言い方だった。

イヴが少し疲れているみたいだ、歩き出してもう1時間ちょいだろうか…。

岩場に窪みを見つけた。


「少しあそこで休もう。もう半分は超えてるだろうけど、向こうでの作業もあるし」


イヴもほっとしたみたいだ。


「イヴ、無理しないでちゃんと言うんだよ」


気付かれたことが想定外だったのか?イヴの頬が少し赤くなっているような気がした。


「おい、いちゃついてんなよ。行くぞ」


「ハハッ…してないよ」


私がそう言うとイヴは私を睨みながら岩の窪みへと向かって行った。

え、なんで睨まれたんだろうか…いや、疲れたんだろう…。


窪みは思っていたよりも広く、小さい洞窟みたいになっていた。


「ここ、懐かしいぜ」


「この穴?」


「あぁ、3年前のちょうど今頃にアンナが島で迷子になりやがってよ〜」


「へ〜、でどうなったの?」


私は知っていたが知らないふりをした。


「まあ、あいつは覚えてないだろうけど、森を探していなかったからなここしかないと思った。なんとなくだけどな」


かっこよすぎだろ。なんだその理由は!!!アンナにそしてジーナさんと共有したいっ。


「す、すごいじゃん、それアンナと話した方がいいよ」


「いいんだよ!貸しだぞって言ってる感じがするだろーが」


「ふーーん」


たまに繊細だよな〜ルークって。


イヴも楽しそうに話を聞いている。


少し休むつもりだったが、冬の山の天候は急に変わった。


洞窟の中にも、雪の混じった風が入り込んでくる。


外を見ると、吹雪になっている。


「うわ……これ、しばらく動けないね」


「だな…下手に出たら、道が分からなくなるぜ」


ルークが外を見ながら答えた。


振り返って見るとイヴが身体を震わせている。


「みんなでくっついて暖をとろう」


吹雪が去るまで、私たちはぎゅっと近づいて暖をとった。


私に挟まれ、まだ寒いはずのイヴの頬が赤くなっている。そのことには気づかず、吹雪いた外を眺める私。その光景にこっそりと気づくルークなのだった———。

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