今度は家で
今度は家で
朝。
ネカフェを出る。
昨日の夜とは違って、東京はもう明るい。
駅へ向かう人たちが大量に歩いている。
スーツの人。
学生。
コンビニの袋を持った人。
みんな、どこかへ向かっている。
僕たちは、どこにも向かっていない。
「……眠い」
「寝れなかった?」
「二時間しか寝てない」
「私は結構寝たよ」
「知ってる」
「いびきうるさかった?」
「隣がね」
「うそ、気づかなかった」
駅前のベンチに座る。
「……で」
「うん」
「これからどうする?」
「……」
「昨日は考えなくてよかったけど」
「今日は考えないとね」
「うん」
苑乃が財布を開く。
「いくらある?」
「……」
二人でそれぞれの財布を確認する。
「これくらい」
「……」
「昨日使ったしね」
「ラーメン食べたし」
「それは必要だったでしょ」
「そう?」
「お腹空いてたじゃん」
「……そうだった」
少しだけ笑う。
でも、すぐに二人とも財布を見る。
「ネカフェも今日までだよね」
「うん」
「じゃあ……」
「バイト?」
「日雇いとか」
「かずみくんバイトしたことある?」
「ない」
「じゃあ私の方が先輩なんだ…」
「…うん」
「…」
「ねぇ…」
「なに?」
「帰ろうか」
「私もおんなじこと考えてた」
「そっか」
「東京って思ってたより普通だった」
「うん」
「もっと何かあると思ってた」
「うん」
「行ったら何か変わると思ってた」
「うん」
少しの沈黙のあと、僕は言った。
「でも、これでよかった」
「帰りの電車、何時かな」
「調べるね」
「うん」
スマホを覗き込む苑乃の隣で、僕も画面を見る。
東京に来るときは、何時間もかかるように感じた。
帰ることは、思っていたよりずっと簡単だった。
*
電車を降りる。
見慣れた駅。
「……帰ってきたね」
「うん」
「なんか、変な感じ」
「何が?」
「昨日まで東京にいたのに」
「そうだね」
駅から二人で歩く。
見慣れた道。
見慣れた店。
見慣れた景色。
東京とは違って、人も少ない。
「……戻ってきちゃったね」
「うん」
「どうする?」
「……明日学校だよ」
「そうだった」
「ちゃんと行く?」
「行くよ」
「えらい」
「当たり前でしょ」
少し歩く。
「苑乃…」
「ん?」
「…大丈夫?」
「…わかんない」
また少し歩く。
「…またご飯食べようね」
「うん」
「今度は家で」
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