普通だったよ
東京から帰ってきた。
学校に行った。
一日無断欠席をしただけで、特に家族からも学校からも咎めはなかった。
いつもの授業。
いつもの昼休み。
いつもの帰り道。
苑乃とも普通に会う。
でも、以前とはほんの少しだけ違う。
「東京どうだった?」
「普通だったよ」
「それだけ?」
「ラーメン食べた」
「東京まで行ってラーメン?」
「うん」
「もったいな」
「そうかな」
そんな話をして。
笑って。
いつも通り帰る。
東京へ行ったことは、少しずつ日常の中に埋もれていった。
*
それから、何日か経った。
気づけば、もう夏休みだった。
終業式の日。
教室はいつもより少しだけ騒がしい。
「明日から休みだー!」
「宿題やばい」
「夏休み何する?」
そんな声が飛び交っている。
僕は机の上を片付けながら、窓の外を見る。
蝉が鳴いている。
空が、いつもより高く見えた。
「かずみくん」
「ん?」
「そっちも夏休み?」
「うん」
「そっか」
「苑乃は?」
「バイト」
「夏休みも?」
「うん」
「大変だね」
「そうでもないよ」
「そっか」
「かずみくんは?」
「特に何もない」
「暇じゃん」
「うん」
「じゃあ、暇な時呼んで」
「……いいの?」
「何が?」
「いや……」
「暇なんでしょ?」
「うん」
「じゃあいいじゃん」
「……そっか」
あの時から変わらず、苑乃はバイトをしている。
家のことは、あれから一度も話題に出なかった。
聞いた方がいいのかもしれない。でも、苑乃が話したくなったら話すだろう。
そう思うことにした。
「今日もうち来る?」
「そうしようかな」
*
家に帰る。
鞄を置く。
冷蔵庫を開ける。
「何か食べる?」
「うん」
「何がいい?」
「何でも」
「またそれ?」
「……ごめん」
「もういいって」
「ねぇ、かずみくん」
「なに?」
「8月12日って暇?」
「花火大会の日?」
「うん」
「なんも予定ないよ」
「じゃあ、一緒に行かない?」
「……」
「嫌?」
「いや」
「じゃあ行こ」
「うん」
「浴衣着る?」
「苑乃が?」
「うん」
「……見てみたい」
「なにそれ」
「だめ?」
「別にいいけど」
「じゃあ着てきて」
「かずみくんもね」
「僕も?」
「一人だけ私が浴衣なの嫌じゃん」
「……確かに」
「でしょ?」
「じゃあ、着てみる」
「約束ね」
「うん」
「そういえば」
「ん?」
「バイト先のお客さんが言ってたんだけど」
「今年で最後らしいよ」
「何が?」
「花火大会」
「え?」
「来年からなくなるんだって」
「……なんで?」
「人が少ないのと、花火も高くなったからとか」
「そっか」
「だから最後」
「……じゃあ、行かないとね」
「うん」
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