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君を見ていたい、僕を見てほしい


友達欄に一人追加された。


……最初になんて送ればいいんだろう。


『今日はありがとう』


いや、さっき言った。


『またご飯食べよう』


それも言った。


画面を開いて、閉じる。


暗い部屋の中で、スマホの光だけが浮かんでいた。


たった一言なのに、送れない。


ピコン

『今からバイト〜』


『頑張って』


……冷たかったかな。


ピコン

『ありがとう!』


 ピコン

『今日暑いね』


『バイトじゃないの?』


『お客さん来ないから暇〜』


『そうなの』


『プール楽しみ』


『うん』


『かずみくん返信短いね笑』


『ごめん』


『なんで謝るの?』


『じゃあ練習ね』


『え?』


『今日あったこと送ってみて』


『……』


『難しい?笑』


『朝ごはん食べた』


『もっとあるでしょ』


『プール掃除した』


『昨日の?』


『うん』


『怪我したやつ?』


『やめて、忘れて』


『そりゃ覚えてるよ笑』


『でも、もう大丈夫』


『あ、お客さん来た、またね』


『うん』


最後の「またね」が残っている。

たった二文字なのに、何度も見返してしまう。

話しているだけで楽しい。

……また一緒にご飯食べたいな。


*


…あれ…今何時だ…

寝てたのかな…


スマホの画面が眩しい…

22:24…あれ…なんかメッセージが来てる…


『起きてる?』


『ごめん、こんな時間に』


『ちょっとだけ話したくなって』


20分前に来てる…


『ごめん、寝てた』


『起こしちゃったかな…』


『大丈夫?』


『……言いたくなかったら言わなくていいけど』

『何かあったなら聞くよ』


『…直接話したい…』


時計を見る。


22時を過ぎている。


普通なら、明日にする時間だ。


でも――


『分かった』


『今から行く』


 家を出てから気づいた。


僕は、何をしに行くんだろう。


夜の道は、昼間よりずっと静かだった。


街灯の下を歩きながら思う。


僕は、何をしに行くんだろう。


答えを聞きに行くのか。


助けに行くのか。


それとも――ただ、隣にいるためなのか。


ピコン

『公園でいい?』


ベンチに座っていた彼女は、僕を見ると少し驚いた顔をした。


まさか、本当に来るとは思っていなかったみたいだった。


「来てくれたんだ…」

 

「寒くない?」


「うん、大丈夫」

 

「…」

 

「ごめん、こんな時間に…」

 

「うん」

 

「寝てたのにごめん」

 

「うん」


「…怒ってる?」

 

「違う」

「なんて声かけていいかわかんない」


 苑乃は少し笑った

 

「なんか、かずみくんらしい」


「…私ね」

 

「うん」

 

「ずっと勘違いしてたみたい」


「お母さん、借金返すために頑張ってると思ってた」

 

「だから私も頑張らなきゃって」

 

「でも……」


彼女は俯いた。


握った手が、小さく震えている。

 

「そんなことなくて…」

 

「借金なんかなくて…」


「……」

 

「私が働いて貯めてたお金」

 

「全部……」

 

「お母さんがホストに使ってた」


「全部嘘だったんだって」


「…うん」


「私…どうすればいいんだろ…」


隣で泣く彼女に、正解なんて分からなかった。


いつもみたいに「大丈夫」と言っても、きっと何も変わらない。

それが何の意味もないことは分かっていた。


「…僕もさ」


「常に人の望む自分になって」


「相手の重荷を全部代わりに背負って」


「……」


「気づいたら」


「誰も、僕のこと知らないんだよね」


「こんな時でもさ」


「君が欲しい言葉を探してる」


「正しい答えを言わなきゃって思ってる」


「でも……」


「苑乃には、それじゃなくて」


「僕を見てほしい」


苑乃はゆっくり顔を上げて、僕を見た。

 

何か言おうとして、でも言葉にならないみたいだった。

 

しばらく、誰も何も言わなかった。

 

「どうしていいのかわかんないんだったらさ」


「……」


「一旦、全部捨てて」


「どこかに行こうよ」


苑乃が顔を上げる。


「……東京とか?」


「うん」


「……」


「いいね」


「僕、そういう遠い場所に行ったことないから」


「ちょっと楽しみ」

毎週木曜日更新予定です

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