メアド
6月某日。かずみくんの通う学校で、また偶然が重なります。
毎週木曜更新予定です。
「プール楽しみだね」
「泳ぐの好きなの?」
「泳ぐのっていうか…浮かんでるのが好き」
「浮かぶ?」
「うん」
「あの…」
声をかけられて振り向く。
そこにいたのは、さっきプール掃除をしていた男子だった。
何度も言葉を探すように口を開いては閉じている。
「ごめん!俺、お前にブラシぶつけちゃって…」
「あー…うん、大丈夫だよ」
「本当にごめん」
「いや、大丈夫」
「でも頭……」
「もう痛くないしさ、ほら」
「……」
「気にしないで」
「…うん…」
「サッカー頑張ってね」
「ありがとう…」
少しこっちを気にしながら、グラウンドに行った。
「……かずみくん」
「本当に怒ってないの?」
「怒ってないよ?」
「痛かったんでしょ?」
「でも、わざとじゃないから」
「……」
「それに、あの子ずっと気にしてたし」
「……かずみくんってさ」
「自分が痛い時も、そう言うんだね」
「え?」
「……ごめん、なんでもない」
「…謝らなくてもいいよ」
なんで謝るんだろう。
僕は何もされていないのに。
「あ!バイトの時間だ!」
「ちょっとだけだったけど話せて楽しかった!」
「うん」
「ありがとね!」
「うん」
「あ!」
「はいこれ」
紙切れを握らされる。
「メアド!」
「また一緒にご飯食べたいからさ!」
「うん」
*
あの時彼女は何を伝えたかったのかな…
確かに痛かった。
でも、罪悪感を抱えている人に怒ることもない。
それに、彼は僕を気にするより大切なことに気を向けてほしい。
彼はサッカー部の次期キャプテンと言われるくらい期待されている。
きっと、僕なんかより大切にしなきゃいけないものがある。
そう思った。
だから、これでいい。
もう、帰らないとな……。
ポケットの中の紙切れに触れる。
苑乃のメアド。
……。
家に帰ってもどうせ一人だ。
そういえば、もうテレビの電池がなくなるな。
毎週木曜更新予定です。




