第56話「揺れる想い」
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「やっぱり、やめたほうがいいのかな……」
未来はスマホの画面を見つめながら、深いため息をついた。画面には、コスプレイベントのエントリー完了通知が映し出されている。ずっと憧れていたイベント。Lunaのコスプレで参加することを決めたのに、日が近づくにつれ、不安が押し寄せてきていた。
「ため息ついてどうしたの?」
ふいに声をかけられ、未来は驚いて顔を上げた。目の前には藤川愛瑠が立っていた。昼休みの屋上で、未来がひとり考え込んでいるのを見つけたのだろう。
「あ……えっと、コスプレイベントのことなんだけど……」
「イベント? 参加するの?」
未来は少し恥ずかしそうに頷いた。
「でも、なんか怖くなっちゃって……。私なんかがLunaのコスプレしていいのかなって」
愛瑠は少し驚いたような顔をした後、くすっと笑った。
「好きなことなら、胸を張っていいんじゃない?」
「……好きなことなら、胸を張る?」
未来は、愛瑠の言葉を噛みしめるように繰り返した。
「そう。未来ちゃんはLunaのことが大好きでしょ? だったら、その気持ちに自信を持っていいと思うよ」
愛瑠は、どこか遠くを見つめながら続けた。
「私も、前はLunaのことが大好きだった。でも今は違う推しがいる」
未来は小さく頷いた。愛瑠がEchoの配信をよく見ていることは、すでに知っていた。だが、その気持ちを改めて口にする愛瑠の姿に、未来は静かに耳を傾けた。
「誰かを好きな気持ちは、その人だけのものだし、きっと変わることもある。でも、大切なのは、その気持ちを大事にできるかどうかだと思う」
未来は、愛瑠の言葉を聞きながら、少しだけ目を伏せた。彼女の言葉が、すっと胸に入ってくる。
「未来ちゃんがLunaを好きな気持ち、それはすごく素敵なことだよ」
「……ありがとう」
「うん!」
愛瑠は笑顔で頷いた。
未来は深呼吸をして、もう一度スマホの画面を見た。コスプレイベントのエントリー通知は、変わらずそこに表示されている。
未来は静かにスマホを握りしめ、心の中で小さく呟いた。
「大丈夫……私はLunaが好き。それでいいんだよね」
愛瑠のエールが、未来に勇気を与えた。でも、それが本当の意味で未来の心を軽くしたのか——それはまだ、未来自身にもわからなかった。
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