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ジョブホッパーの魔導譚 〜幾多の職を越えて紡ぐ、魔眼使いの英雄譚~  作者: フェアリーP
乳児編

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第6.5話 魔法検証と、失敗が楽しい理由

人生初の魔法。


【クリーン】の発動に成功した後も、自分の興奮はなかなか収まらなかった。


当然である。だって魔法だ。前世で何十年生きても絶対に触れることのなかった超常の力。それを今、自分は当たり前のように使っている。


(すごい……本当に魔法なんだな……)


改めてそう思う。


つい数ヶ月前まで、現場で工程表と睨めっこしていた人間である。雨で工期が遅れるだの、職人が足りないだの、資材が届かないだの。そんな現実的な問題に囲まれていた。


それが今では魔法だ。


人生とは、本当に分からないものである。





しかし感動しているだけでは終わらない。むしろここからが本番だった。


(まずは検証だな)


せっかく魔法を覚えたのだ。使って終わりでは勿体ない。性能を調べる必要がある。どれくらい使えるのか。何回使えるのか。制限はあるのか。


知らなければ危険だ。前世でも重機や工具を扱う前には必ず仕様を確認していた。魔法だって同じである。道具の特性を把握しないまま現場に持ち込めば、思わぬ事故に繋がる。あの頃の教訓は、どうやらこの世界でも生きているらしい。


自分は再び魔力へ意識を向けた。


心臓付近。そこに存在する暖かな流れ。以前よりもはっきり感じられる。【魔力感知】のおかげだろう。


(あれ?)


そこで気付いた。少し減っている。ほんの少しだが、確実に減少している。


(やっぱり消費するのか)


当然といえば当然だった。何の代償もなく魔法が使えるとは思っていない。問題はどれくらい消費するかだ。


そこで再び【クリーン】を発動する。掌へ魔力を集める。イメージする。発動。淡い光が身体を包む。成功。


魔力を確認する。さらに少し減った。


(なるほど)


どうやら魔法には魔力を消費するらしい。予想通りだ。しかし思ったほど減らない。体感では数パーセント程度。ゲームで言うならMP消費1とか2くらいの感覚だった。


(生活魔法だからかな?)


戦闘用ではない。掃除魔法である。燃費が良いのかもしれない。ならば攻撃魔法はもっと消費するのだろうか。そう考えると早く試してみたくなる。





それからしばらく観察していると、さらに面白い発見があった。


減った魔力が少しずつ戻っているのだ。


(おっ?)


最初は気のせいかと思った。だが違う。確実に回復している。非常にゆっくりだが、暖かな流れが少しずつ増えていく。


(自然回復か)


思わずテンションが上がる。


ゲーム知識がある人間なら誰でも知っている仕様だ。MP自然回復。もしこれが正しいなら、魔法を使い続けても時間経過で回復するということだ。かなり重要な発見だった。


(よし、もっと試そう)


研究者魂が疼く。元々、自分は何かを検証するのが嫌いではなかった。施工管理時代もそうだ。問題が起きれば原因を探した。改善方法を考えた。試した。結果を確認した。その繰り返しだった。


今やっていることも本質的には同じだった。対象が魔法になっただけである。





三回。五回。十回。


何度も【クリーン】を発動する。その度に身体が綺麗になる。実際に汚れているかは分からない。赤ん坊なので土遊びもしていない。しかし確かに魔法は発動している。魔力も減る。そして回復する。


(失敗しないな)


それも重要な発見だった。習得した魔法はかなり安定している。集中さえ出来れば失敗しない。これは大きい。実戦になれば信頼性は重要だ。


まあ今の自分は赤ん坊なので実戦など無いのだが。


(いや、将来的にはあるかもしれないな)


冒険者。魔導師。騎士。異世界らしい職業が頭をよぎる。少しワクワクした。どんな道に進むにしても、魔法の安定性は間違いなく武器になる。





そして本日の本命がやってくる。


(さて……)


未習得魔法の検証だ。これが最大の関心事だった。


【クリーン】を覚えた時、自分はある仮説を立てていた。魔法というのはスキルだけではないのではないか。イメージさえ出来れば使えるのではないか。そんな予感があった。


もちろん根拠は薄い。ただの勘だ。だが異世界に来てから、自分の勘は意外と当たっている。


(まずは定番だよな)


火だ。ファンタジーの王道である。異世界転生主人公なら最初に試すべき魔法ランキング、文句なしの第一位だろう。


自分は掌へ魔力を集めた。そして想像する。小さな火種。ロウソク程度の炎。指先に灯る小さな火。アニメ、漫画、ゲーム。前世で見た火魔法の記憶を総動員する。


(ファイア)


心の中で呟く。


すると――魔力が震えた。


(おっ!?)


思わず期待する。だが次の瞬間、集めた魔力は霧のように崩れた。


終了。火は出ない。煙も出ない。何も起こらない。


(失敗か)


しかし落胆は無かった。むしろ驚いていた。


(今、反応したよな?)


完全な無反応ではなかった。魔力が確かに揺れた。何かが足りない。そんな感覚だけが残っている。


つまり可能性はゼロではない。





今度は水を試す。失敗。風。失敗。雷。失敗。回復魔法。失敗。強化魔法。失敗。


全部失敗だった。


だが面白い。とにかく面白い。失敗しているのに楽しい。


前世なら考えられなかった感覚だった。


失敗は怒られるものだった。工程ミス、発注ミス、計算ミス。失敗すれば誰かに迷惑が掛かる。責任が発生する。取引先への謝罪。上司への報告。再発防止策の提出。失敗一つで夜が潰れた。


だから失敗は怖かった。


だが今は違う。


失敗が知識になる。経験になる。次の成功へ繋がる。それがどうしようもなく楽しかった。誰にも迷惑が掛からない失敗というのは、こんなにも清々しいのか。


(異世界って最高だな)


自然と笑みが浮かぶ。赤ん坊なので表情は大して変わらないかもしれない。それでも心の中は笑っていた。


毎日が発見だ。毎日が冒険だ。





やがて魔力もかなり消費してきた。さすがに少し疲れてくる。眠気も近付いていた。


(今日はこのくらいか)


無理は禁物だ。赤ん坊の身体はまだ弱い。倒れても困る。前世で無理し続けた結果がどうなったか、自分は身をもって知っている。


だが収穫は大きかった。


魔法は魔力を消費する。魔力は自然回復する。習得魔法は安定して使える。未習得魔法は失敗する。ただし反応はある。


そして何より。


魔法研究が楽しい。それが最大の収穫だった。


(よし)


(もっと色々試そう)


火、水、風、雷、回復、強化、結界、転移。前世で知る限りの魔法を片っ端から試してみよう。いつか成功するかもしれない。属性は雷だ。もしかしたら雷だけは成功する可能性もある。


そんな期待が胸を満たす。


こうしてレイの魔法研究は――誰にも知られることなく、静かに、しかし確実に始まったのだった。

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