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ジョブホッパーの魔導譚 〜幾多の職を越えて紡ぐ、魔眼使いの英雄譚~  作者: フェアリーP
学園編 低学年

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第55話 魔導科学と、錬金術と、量産ポーションの恐怖

 最近の自分は、完全に発明漬けの毎日を送っていた。


 授業へ出る。訓練する。ご飯を食べる。寝る。そして空いた時間は全て【魔導具】開発へ注ぎ込む。もはや趣味というより生活習慣だった。気付けば休日の予定表も発明だらけになっている。前世なら確実にブラック企業認定されていただろう。


 しかし不思議と苦ではなかった。むしろ楽しい。新しいアイデアが浮かぶたびに胸が高鳴る。完成した瞬間はもっと楽しい。そして売れると最高に楽しい。


 そんな生活を続けていた結果だった。


【魔導技師の練度が3.1になりました】


【魔導科学を取得しました】


【魔導工房が拡張されました】


「おっ?」


 机の上でアクセサリーを加工していた自分は思わず顔を上げた。久しぶりの新スキルだ。しかも【魔導工房】まで拡張されたらしい。これは期待していいやつだ。


 さっそく詳細を確認する。


【魔導科学】 魔石と各種素材を合成する。合成作業効率上昇。合成系スキル取得率上昇。


「……」


 しばらく固まる。


「これ錬金術じゃない?」


 どう見てもそうだった。名称だけ変えているが内容は完全に錬金術である。


 しかも取得と同時に大量の知識が頭へ流れ込んできた。薬草の調合法。魔石の抽出方法。ポーションの製法。素材同士の相性。触媒の使い方。濃度調整。保存方法。危険な組み合わせ。まるで専門学校を一気に卒業したような情報量だった。


「うわっ……」


 頭を押さえる。だが知識そのものは面白い。特にポーション関係は興味深かった。この世界の回復薬は前世の薬品とは全く別物だ。薬草だけではない。魔力。魔石。生命力。そういった概念が混ざっている。


「これは面白そうだな」


 気付けば口元が緩んでいた。そして当然のように、次の瞬間には【魔導工房】へ飛び込んでいた。


★



「増えてる」


 工房へ入った瞬間に気付いた。また部屋が増えている。最近の魔導工房は増築速度がおかしい。下手をすると実家より広い。


「今回は何だろう」


 期待しながら扉を開く。そして。


「……え?」


 固まった。


 そこに広がっていたのは実験室だった。完全に実験室だった。誰がどう見ても実験室だった。棚には無数の薬品瓶。透明な管。謎のフラスコ。金属製の作業台。測定器具。分析装置。そして中央には巨大な機械。


「ファンタジーどこ行った」


 思わず呟いた。


 鍛冶エリアも十分おかしかった。旋盤。フライス盤。研削機。町工場そのものだった。しかし今回はもっと酷い。完全に研究施設である。


「魔法世界だよね?」


 誰に確認するわけでもなく呟く。もちろん返事はない。



★



 中央へ近付く。すると液晶画面らしきものが光った。


【タッチしてください】


「うん?」


 試しに押してみる。画面が切り替わる。説明が表示された。


 左側:素材投入。中央:合成装置。右側:完成品排出口。


「……」


 読めば読むほど。


「スマホゲームじゃん」


 完全にそれだった。作りたい物を選ぶ。素材を投入する。決定する。完成する。しかも低確率で高品質品ができるらしい。完全にゲームのクラフトシステムである。


(魔導王の工房ってこんな感じだったのかもしれない)


 あの本に書かれていた伝説の設備が、今ここに再現されているとしたら。そう考えると少し背筋が寒くなった。


 作成可能リストを開く。


【回復ポーション小】【強化ポーション小】【解毒ポーション小】【安眠ポーション小】【鎮静化ポーション小】


「おお」


 思ったより多い。派手ではない。爆発もしない。巨大ロボも作れない。だが確実に売れる。



★



 特に回復ポーションは需要が高い。冒険者。兵士。商人。採取者。誰でも使う。しかも消耗品だ。つまりリピーターが発生する。


「強いな……」


 前世の営業マン脳が働く。利益率。回転率。需要。供給。市場規模。頭の中で勝手に計算が始まる。


 すると一つの未来図が浮かんだ。


 町外れの小さな店舗。表向きは普通の雑貨屋。実際には魔導具、アクセサリー、スイーツ、ポーション。様々な商品を扱う人気店。店主の正体は不明。実際には変装した自分。


「……面白そう」


 かなり面白そうだった。


 変装ペンダントもある。身元は隠せる。商品も増えている。資金も少しずつ貯まっている。あと数年すれば本当に可能かもしれない。


「将来は商会を作るのもありだな」


 そんなことまで考え始める。


(のんびり暮らすのが目標だったはずなのに、気付けばかなりアクティブな計画になってるな……)


 自分でも少しおかしいとは思う。だが楽しいのだから仕方ない。



★



 その後。試しに回復ポーションを作ってみた。


 薬草を投入。低級魔石を投入。決定。


 数秒後。排出口から完成品が出てきた。


「早っ!?」


 思わず声が出た。職人泣かせである。普通なら数時間かかる工程だろう。それを数秒で終わらせている。魔導工房の性能がおかしい。


 完成したポーションを鑑定する。


【回復ポーション小(高品質)】


「……当たりか」


 高品質まで出た。初回で。しかも低確率のはずなのに。


(素材の極みが乗ったか)


 またか。このスキルはどこまで範囲が広いのか。ポーション作成まで対応しているとは思わなかった。


「これ量産したらまずいかもしれないな……」


 便利すぎる。便利すぎて怖い。最近はそんな発明ばかりだ。虹結晶。変装ペンダント。魔力低下ネックレス。そして今回のポーション量産。


「そのうち本当に捕まりそう」


 少しだけ不安になる。


 だが。その不安よりも。新しい発明への好奇心の方が大きかった。


 研究者気質とは恐ろしいものである。


(まあ、慎重に少量ずつ売れば問題ないだろう)


 その楽観的な見通しが正しいかどうかは、また別の話だった。



★



 そしてその夜。


 自分は知らなかった。


 明日。ジョブホッパーに関する、とんでもない壁へぶつかることを。


 その名は――


【魂定着値】


 初めて目にする謎の制限だった。

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