第54.2話 停滞する職種と、ブルーノの特訓と、四人の放課後
虹結晶の生成に成功した翌日。自分は朝から難しい顔でステータスを眺めていた。
名前・レイ
職種 【魔導技師 2.9】 【魔導剣士 4.1】
「やっぱり変だよな……」
魔導技師は順調だ。研究するたびに伸びる。発明するたびに伸びる。むしろ上がり過ぎなくらい上がっている。
だが問題はもう一つの職種だった。
【魔導剣士】
こちらは全く成長しない。4.1になってから完全に停滞していた。
「毎日素振りしてるんだけどなぁ……」
寮の裏庭での朝練だけでも百回以上。休日なら五百回近く振ることもある。体力作りも続けている。走っている。筋トレもしている。
なのに上がらない。
「もしかして才能ない?」
一瞬そんな不安がよぎる。しかしすぐに首を振った。
「いや、ブラット達との差はあるけど成長してるのは確かだし」
昔の自分と比べれば遥かに強い。問題は職種の成長条件だった。
そこでふと思い出した。
「そういえば……」
運動会の身体測定の時。ブルーノくんが言っていた。
『今度、身体の動かし方を教えるよ』
「あれだ」
完全に忘れていた。発明に夢中になり過ぎていた。
「よし」
善は急げ。さっそく聞いてみよう。
★
昼休み。自分はブルーノくんの元へ向かった。
「ブルーノくん」
「ん?」
「前に言ってた身体の使い方を教えてほしいんだけど」
するとブルーノくんは一瞬ぽかんとした。そして。
「今頃?」
「え?」
「もっと早く来ると思ってた」
「ごめん。発明してた」
「ああ、レイだもんね」
何故か納得された。最近みんなの中で自分の扱いが雑な気がする。
「それで今日やる?」
「お願いしたいかな」
すると後ろから声がした。
「私も参加したいです!」
振り返る。コーデリアさんだった。その隣にはシンシアさんもいる。
「わたしも……」
「二人とも?」
コーデリアさんは元気よく頷いた。
「私の憧れの回復魔法師は身体能力も高いんです!」
目がキラキラしている。どうやらやる気満々らしい。
「回復魔法って後衛じゃないの?」
「強い人は前衛もできます!」
なるほど。この世界らしい発想だった。
そしてシンシアさんも小さく手を上げる。
「わたしも遺跡探索したいので……」
「遺跡?」
「はい……」
シンシアさんは少し照れながら答えた。
「昔のお話とか好きなんです」
(可愛い)
なんだろう。暴走エルフだと思っていたけど、意外と普通の女の子だった。眼鏡が似合っている。
「よし」
ブルーノくんが立ち上がる。
「じゃあ放課後だね」
★
放課後。訓練場。自分達四人は並んでいた。
するとブルーノくんは突然言った。
「まず走って」
「え?」
「全力で」
言われるまま走る。そして戻る。
「どうだった?」
「普通かな?」
「全然駄目」
「えぇ……」
いきなり厳しかった。
★
「みんな勘違いしてるんだ」
ブルーノくんは地面へ線を引きながら説明を始めた。
「身体能力と身体操作は別物なんだよ」
身体能力。筋力。体力。敏捷性。そういう基礎スペック。
「でもね」
ブルーノくんは続ける。
「強い人ほど身体を思った通りに動かせる」
そこで自分は少し理解した。確かに。ブラットは無駄な動きが無い。エレナもそうだ。まるで身体の全てを把握しているような動きをする。
「つまり?」
「脳と身体のズレを無くす。それが第一段階」
なるほど。前世の工場でも似たような話があった。優秀な職人は「手が覚えている」と言う。それは筋力より精度の問題だった。この世界でも同じ理屈が通じるらしい。
★
訓練は地味だった。本当に地味だった。
片足立ち。目を閉じて歩く。指定された場所へ正確に着地する。腕を一定速度で動かす。
そんな内容ばかり。
「地味だね」
「地味ですね」
「地味です……」
三人の意見が一致した。
「でも大事なんだ」
ブルーノくんは笑う。
「騙されたと思って続けてみて」
一時間後。
「……あれ?」
自分は少し驚いていた。最初より動きやすい。身体が軽い。
いや、正確には違う。自分が身体を理解できている感覚だ。
「これか」
「気付いた?」
ブルーノくんが笑う。
「今までレイは頭の中と実際の動きがズレてたんだ」
図星だった。魔導操作ばかり鍛えていたせいかもしれない。思考速度に身体が追いついていない。
「なるほど……」
これは面白い。発明とは別方向の学びだった。
コーデリアさんは途中で何度かふらついたが、それでも諦めなかった。転んで立ち上がる度に「もう一回です!」と宣言していた。シンシアさんは小柄なせいかバランスを取るのが得意で、目を閉じての歩行ではほぼ失敗しなかった。
「シンシアさん、上手だね」
「そ、そうですか?」
「うん。遺跡を歩き回るセンスがあるんじゃないかな」
「……遺跡センス」
初めて聞く単語だったが、シンシアさんは嬉しそうだった。
そしてブルーノくんの指導は丁寧だった。出来ていない時は具体的に直す。出来た時は短く褒める。押し付けがましくない。教えるのが上手い人間の動きだった。
(実はロナルド先生より教え方が巧みかもしれない)
そう思ったが口には出さなかった。
★
訓練終了後。みんな汗だくだった。
するとコーデリアさんが突然言った。
「これからも一緒にやりませんか?」
自分達は顔を見合わせる。
「いいね」
最初に賛成したのはブルーノくんだった。
「僕も一人より楽しいし」
「わたしも……」
シンシアさんも小さく頷く。そして自分も。
「賛成かな」
一人でやるより続きそうだ。何より最近研究ばかりで人と関わる時間が減っていた。少しだけ反省していたところでもある。
「じゃあ決まりですね!」
コーデリアさんが嬉しそうに笑った。その笑顔につられて、みんなも笑う。
★
こうして。レイ。ブルーノ。コーデリア。シンシア。四人による放課後トレーニングが始まった。
この時はまだ誰も知らない。この地味な訓練が後にそれぞれの成長を大きく加速させることを。
そして次の週にはさらに大きなイベントが待っていることを。
それは――ロナルド先生が満面の笑みで宣言する。
「そろそろ夏だ!」
という一言から始まるのだった。




