↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジョブホッパーの魔導譚 〜幾多の職を越えて紡ぐ、魔眼使いの英雄譚~  作者: フェアリーP
学園編 低学年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/76

第54.1話 巨大血液濃縮循環機と、封印という発想と、虹結晶誕生

 シンシアさんの大暴発事件から数日後。自分は寮の部屋で腕を組みながら唸っていた。


「どうしたものか……」


 視線の先には、自室の半分を占領している巨大な装置がある。露店で稼いだ資金の大半を注ぎ込んで完成させた超大型研究設備。


【巨大血液濃縮循環機】


 自分の最高傑作の一つだった。


 だが――。


「成果が出ないんだよなぁ……」


 深いため息が漏れる。


 装置の中央では虹色の結晶がゆっくりと回転していた。その大きさは既に人の頭ほど。普通の魔石と比較すれば異常なサイズである。


 しかし。何度【鑑定】しても結果は変わらなかった。


【虹魔石】


 表示されるのはその文字だけ。名前も、性能も、全く変化しない。


「違うんだよな……」


 自分が欲しいのは虹魔石ではない。目指しているのは別の存在だ。


 巨大結晶。世界に十四個しか存在しないと言われる神話級の秘宝。邪神の力を封印しているという、伝説そのもの。


 もちろん同じ物を作ろうとは思っていない。そんなことが出来たら世界がひっくり返る。だが構造だけでも再現できれば話は別だった。巨大結晶の仕組みを理解できれば、魔導具開発は次の段階へ進める。そう考えていたのだ。


「予想が外れたかな……」


 椅子へ座り込みながら頭を掻く。


 研究とは失敗の連続だ。前世でもそうだった。成功する発明なんて一握り。だが、それでも落ち込む時は落ち込む。特に今回は期待が大きかった。



★



 気分転換も兼ねて図書館で借りた資料を読み返してみる。


 巨大結晶について書かれた本は少ない。そのほとんどが伝承や神話だ。だが共通する記述が一つだけあった。


『邪神の力を十四個へ分割し封印した』


 封印。その単語だった。


「封印か……」


 何度も読み返す。封印。閉じ込める。押さえ込む。圧縮する。


「ん?」


 そこで思考が止まった。


 今まで自分は魔石の生成ばかり考えていた。魔素を集める。濃縮する。結晶化する。


 だが巨大結晶は違う。封印だ。ただ集めるだけではなく、閉じ込める工程が必要なのではないか。


「……あれ?」


 その瞬間、頭の中で何かが繋がった。


 普段、自分は何をしている?魔導操作だ。魔力を集める。圧縮する。固定する。封じ込める。


 それって封印と似てないか?


「もしかして……」


 自分は勢いよく立ち上がった。こういう時は考えるより作る。それが一番早い。


前世でも、現場で詰まった時はまず動いてみることにしていた。机上の計算より現物に触れる方が答えが出ることは多かった。



★



 その日から魔導工房へ籠もることになった。工房には失敗作が次々と積み上がっていく。


 魔力が漏れて爆発。圧縮不足で崩壊。封印が解けて消滅。


「違う」


 作り直す。


「これも違う」


 さらに作り直す。何十回も繰り返した。途中から数えるのをやめた。


失敗するたびに工房が少し焦げた。三日目には壁に黒い跡が三箇所増えていた。後で【クリーン】をかければ消えるが、それはそれで妙な達成感があった。


 そして三日後。ようやく手応えのある試作品が完成する。


 手のひらサイズの透明な珠。見た目は地味だ。だが内部では魔力が渦を巻いている。


【魔素圧縮封印珠】 周囲の魔素を圧縮し封印する珠。


「……これだな」


 確信は無かった。だが勘が告げている。今までで一番成功に近い。



★



 自分は慎重に巨大血液濃縮循環機の前へ立った。中では虹魔石が回転している。そこへ封印珠を投入。


 ポチャン。


 小さな音が響く。


「頼むぞ……」


 後は待つだけだ。


三日後。朝一番で装置を確認する。


 そして。


「……え?」


 思わず声が漏れた。


 結晶が小さくなっていた。以前より一回り。いや二回りほど。


 しかし。輝きは圧倒的に増している。虹色の光が内部から溢れていた。まるで小さな太陽だ。


「嘘だろ……」


 震える手で鑑定する。


【虹結晶】


 表示を見た瞬間、心臓が跳ねた。


「成功した……」


 もう一度確認する。


【虹結晶】


 間違いない。名前が変わっている。進化した。ついに辿り着いた。


「できたぁぁぁぁぁ!!」


 思わずガッツポーズが飛び出した。数週間の研究。大量の失敗。全部報われた気がした。


工房の中で一人で跳び上がった。傍から見たら完全に不審者だ。だが構わなかった。嬉しいのだから仕方ない。



★



 だが興奮が落ち着くと別の感情が顔を出す。


「……なんか怖いな」


 最近こんなことばかりだった。


 虹魔石。虹結晶。変装ペンダント。魔力低下ネックレス。思いつきで作った物が次々成功する。偶然にしては出来過ぎている。まるで誰かに答えを教えられているような感覚さえあった。


(魔導王伝説の本に書いてあった一文が頭をよぎる)


深淵の魔眼を持つ同胞へ。あの言葉は、こういう感覚のことも含んでいたのだろうか。


「いやいや」


 首を振る。考えすぎだ。発明とはそういうものだ。試行錯誤を繰り返した結果、成功する。ただそれだけ。


「よし」


 気持ちを切り替える。研究は一歩前進した。なら次だ。次の課題を考えよう。


そう思いながらステータスを開いた時、自分は別の問題に気付くことになる。


【魔導剣士 4.1】


 全く成長していない職種だった。


(魔導具開発ばかりで戦闘訓練がおろそかになってたな……)


 研究の充実と引き換えに、別の何かを後回しにしていた。それはいつでも起こりうる問題だった。前世の現場でも、一つに集中しすぎると別のことが抜ける。バランスの問題だ。


 その問題が、次の行動へ繋がることになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。