第49話 研究漬けの日々と、魔導王の継承者と、部屋が秘密研究所になった
最近の自分は、完全に【魔導具】作りに取り憑かれていた。
朝起きる。授業を受ける。昼休みに設計を考える。放課後は工房へ直行。夕食後は寮で試作品制作。寝る直前まで研究。そして翌朝になる。
気付けばそんな生活を繰り返していた。
正直な話――最高だった。
前世では仕事に追われていた。やりたい事より、やらなければならない事が優先だった。だが今は違う。作りたい物を作る。試したい事を試す。結果が出れば嬉しい。失敗しても経験になる。
(やっぱり物作りは楽しいなぁ)
自分は完成したばかりの魔導具を眺める。銀色の指輪。小さな魔石。刻まれた魔法陣。見た目は普通だ。だが――。
【疲労軽減の指輪】
性能表示を見た瞬間。
「おおっ!」
思わず立ち上がった。
「当たりだ!」
効果量が明らかに違う。通常品の三倍近い性能。完全な大当たりだった。思わずガッツポーズする。
最近はこれがたまらない。十個作れば一個くらい、たまに異常な性能の魔導具が生まれるのだ。まるで前世のソシャゲで最高レアを引いた時のような感覚だった。
「よしよしよし」
思わず撫でる。愛着すら湧く。
ちなみに高性能品は自分用だ。普通品だけ露店で販売している。売上で材料を買う。また作る。売る。作る。最近は完全に好循環が完成していた。
★
「最近売上どう?」
放課後。露店へ顔を出した自分はクライブへ尋ねた。すると珍しく、クライブは深いため息を吐いた。
「微妙だこん」
「え?」
思わず聞き返す。商売の天才が弱気だった。
「珍しいね」
「変なお客さんが増えたこん」
「変なお客さん?」
クライブは心底疲れた顔になった。
「僕を見ると皆同じ事を聞くこん」
「何を?」
「お前は【魔導王】の継承者かって聞いてくるこん」
「ぶふっ!!」
盛大に果汁水を吹き出した。
「げほっ! げほっ!」
「汚いこん!」
「ご、ごめん!」
心臓が止まるかと思った。危ない。非常に危ない。嫌な予感しかしない。
「なんでそんな話になってるの?」
平静を装う。全力で装う。
クライブは怪訝そうな顔をした。
「最近有名だこん。この街に【魔導王】の継承者が現れたらしいこん」
「そうなんだ」
「子供らしいこん」
「へぇー」
視線を逸らす。完全に逸らす。
「レイ」
「なに?」
「絶対何か知ってるこん」
「知らないよ?」
即答した。
「怪しいこん」
クライブの目が鋭い。さすが商人。人を見る目が怖い。
「情報提供者には報酬も出るらしいこん」
「へぇー」
絶対に教えない。というか教えたら人生終わる。そんな予感しかしない。
「噂の原因は【虹魔石】らしいこん」
その瞬間。心臓が跳ねた。
「……」
「王国が保有してる国宝級の虹魔石と同じ物を、どこかの子供が売ったらしいこん」
「なるほど……」
脂汗が流れる。完全に自分だった。
しかも問題はそこじゃない。本当の問題は――今も寮で動いているアレだった。
★
その夜。寮の自室。自分はベッドへ座りながら頭を抱えていた。
「やらかしたかなぁ……」
視線の先。そこには巨大な装置が鎮座していた。
いや、一台ではない。
十台である。
部屋の半分以上を占拠している。存在感が凄い。普通に邪魔だ。
しかし止められなかった。
何故なら――面白いから。
ぽこぽこ。ぽこぽこ。
不気味な音を立てながら装置が稼働している。
【血液濃縮循環機】
しかも改良型。内部では大量の血液と虹魔粉が循環し続けていた。魔力濃度を少しずつ高めるための実験装置である。露店の利益はほぼ全部これへ消えた。
なぜそこまでやるのか。理由は単純だった。
図書館で読んだ一冊の本。【魔導王伝説】。そこに書かれていた存在。
【巨大結晶】
世界に十四個しか存在しない神話級の遺物。邪神封印の要。世界そのものを支える柱。魔導王が生み出した奇跡。
そこまで読んだ時、自分は思った。
(作れないかな?)
と。
普通の人なら思わない。だが自分は思ってしまった。そして思ったら試したくなる。それが研究者という生き物だった。
「だって気になるし」
誰に言うでもなく呟く。
巨大結晶は魔素の塊。なら魔素を極限まで濃縮したら近い物が出来るのではないか。理論はガバガバだ。根拠も無い。完全に思いつきである。
だがだからこそ試したい。
「失敗しても経験だしな」
自分に言い訳する。たぶん失敗する。むしろ成功したら怖い。それでも結果は知りたかった。
そして問題が一つある。
「……増えたなぁ」
完全に作り過ぎだった。最初は一台だったのだ。気付いたら増えていた。研究あるあるである。本人に自覚は無かった。
もし寮監が見たら卒倒するだろう。普通の六歳児の部屋ではない。もはや秘密研究所だった。
(前世の施工管理では、必要な仮設機材を見積もる時に常に多めに発注していた)
その癖が悪い方向に出ている気がした。
★
「虹魔石どうしようかな……」
最近の悩みはそこだった。本来なら売る予定だった。だが今は無理だ。売れば噂になる。噂になれば追跡される。追跡されたら終わる。
「うーん」
考える。そして一人の人物を思い出した。
「あの執事さんか」
以前露店へ現れたダンディな老人。見るからに高位貴族の使用人だった。あのルートなら安全かもしれない。
さらに【変装ペンダント】もある。
「変装して売ればいけるんじゃないか?」
我ながら名案だった。
もちろん後に振り返れば全然名案ではなかった。むしろ盛大なフラグだった。しかし今の自分は気付かない。
「よし」
満足そうに頷く。そして再び巨大装置を見る。
ぽこぽこ。ぽこぽこ。
静かに動き続ける研究設備。まだ誰も知らない。六歳の少年が好奇心と趣味だけで、世界の根幹を支える神話級遺物の再現に挑戦していることを。
そしてその研究が数年後、王国どころか世界中を巻き込む大騒動へ発展することを。
もちろん――当の本人も全く理解していなかった。




