第47.2話 深夜の興奮と、朝の実験と、リベンジ宣言
帰省した夜。新たなスキルへの興奮を抱えたまま眠りについた頃のはずだった。
モロットの町は静かな夜を迎えていた。窓の外では虫の鳴き声が聞こえ、家の中には穏やかな空気が流れている。
だが。
自分だけは眠れなかった。
「うーん……」
ベッドの上で寝返りを打つ。理由は簡単だった。頭の中が新スキルのことでいっぱいなのである。
魔導弾。魔導手。魔導壁。魔導剣。どれも強そうだった。というか絶対強い。問題は――。
「早く試したい……」
これに尽きる。新しいゲームを買った子供のような気分だった。
しかし深夜に庭で暴れる訳にもいかない。お父さんに見つかったら怒られる。お母さんには心配される。フローラは面白がってついてくる。最終的に大惨事だ。なので我慢するしかなかった。
「寝よう」
目を閉じる。三秒後。
「無理だ」
起きた。完全に遠足前の小学生である。
(前世でも新作ゲームを買った夜はこうだったな……)
何十年経っても変わらない自分が少し情けなかった。それでも眠れないものは眠れない。
★
翌朝。自分は朝日と同時に飛び起きた。
「よし!」
早速庭へ飛び出す。誰もいない。絶好の実験日和だった。
まず試したのは【魔導弾】。
「今までとの違いは……」
手を前へ出す。魔力を圧縮。形成。発射。すると透明な弾丸が飛び出した。
見た目は以前の【ボール】とほとんど変わらない。だが。速度が違った。
ドンッ!!
庭の木へ直撃。幹が大きく揺れる。
「速っ!?」
以前より明らかに速い。しかも魔力消費が少ない。さらに連射。
ドドドドドドドッ!!
七発。八発。九発。十発。まるで機関銃だった。
「これは凄い」
思わず笑みが漏れる。今までなら五発撃った時点で制御が怪しくなった。だが今は違う。パラレル思考と魔導弾。相性が良すぎた。
★
続いて【魔導手】。空中へ展開する。すると透明な腕が現れた。以前の【ハンド】より一回り大きい。
「持ち上げてみるか」
近くの石を掴む。軽々持ち上がった。
「力も上がってる」
さらに。三本。五本。十本。二十本。次々展開。以前なら十本を超えた辺りから集中力が必要だった。だが今は違う。二十本同時操作。問題なし。
「これは便利だなぁ……」
戦闘より生活スキルとして優秀かもしれない。荷物運び。工作。料理。掃除。全部できる。主婦が見たら泣いて喜びそうだった。
(前世でも万能な手があれば良いと思っていたが、本当に手に入るとは)
異世界転生の恩恵は時々こういう形で現れる。
★
そして問題の【魔導壁】。
「これはどうかな」
前方へ展開。透明な壁が現れる。見た目は変わらない。だが。
「硬そうだな……」
試しに魔導弾を撃つ。
ガンッ!!
弾かれた。傷一つない。
「えっ」
もう一発。ガンッ!! 無傷。三発。五発。十発。無傷。
「硬すぎない?」
思わず引いた。以前のシールドなら何発も受ければ徐々に削れていた。しかし今は別物だった。防御力が段違いである。
「エレナ捕獲作戦に使えそうだな……」
そんな危険なことを考えてしまう。
(絶対逃げられる気もするけど)
エレナの回避能力は壁程度では止まらない可能性が高い。
★
最後。【魔導剣】。これが一番気になっていた。
神木の小太刀を抜く。そして魔力を流し込んだ。
すると――。
ブォン。
刀身を包む透明な刃が形成される。
「おお……」
綺麗だった。以前のブレードより遥かに安定している。そして恐ろしく鋭い。
試しに木の枝へ振る。
スッ。
感触がなかった。
「あれ?」
次の瞬間。枝が音もなく落下した。
「……」
沈黙。
「危なくない?」
自分は真顔になった。切れ味がおかしい。ほとんど抵抗がなかった。これ、対人戦で使ったら危険では?
そんな考えが頭をよぎる。そしてすぐ理解した。魔導剣士の練度が四を超えた。今までとは次元が違う領域へ入ったのだ。
(威力は上がった。でも制御はより慎重にしなければならない)
前世でも、道具の性能が上がるほど取り扱いは慎重になる。それはこの世界でも変わらない。
★
ひと通り実験を終えた頃。背後から拍手が聞こえた。
「ほぉ」
「うわっ!?」
振り返る。お父さんだった。いつから見ていたのか分からない。非常に怖い。
「なかなか面白い技だな」
「見てたの?」
「途中からな」
レオンは腕を組む。そして少しだけ真面目な顔になった。
「レイ」
「うん」
「強くなったな」
その一言だった。
だが。少し嬉しかった。昔から父親は滅多に褒めない。だからこそ重みがある。
「ありがとう」
「だが」
来た。絶対来ると思った。
「身体能力は相変わらずだな」
「うっ」
痛いところを突かれた。事実だから反論できない。
「魔導は凄い」
レオンは頷く。
「だが魔導だけに頼るな」
「分かってる」
「本当か?」
「たぶん」
「怪しいな」
完全に信用されていなかった。
(たぶんと言ったのが失敗だった)
反省した。だが否定しきれないのだから仕方ない。
★
朝食の席。自分は新スキルの話をした。
「へぇ〜」
お母さんは感心したように頷く。
「凄いじゃない」
「ありがとう」
「でも無茶はしちゃ駄目よ?」
「うん」
「絶対よ?」
「うん」
「本当に?」
「信用ないなぁ……」
フローラが笑う。
「にぃにぃ〜」
そして。なぜか魔導手で持ち上げられる遊びを要求してきた。
「また空飛びたいの?」
「とぶ〜!」
大人気だった。結果。朝食後。自分は三十分ほどフローラ専属アトラクションになるのだった。
(フローラが喜んでいるなら文句はない)
むしろ本音を言えば全然苦ではなかった。喜ぶ顔を見ているだけで満足できる。兄というのはそういうものらしい。
★
その日の夕方。帰宅準備をしながら考える。
魔導剣士の練度が上がった。パラレル思考も手に入れた。今の自分は間違いなく強くなっている。
だが。頭の中に浮かぶのは一人だけだった。
銀髪の猫耳少女。何百回挑んでも勝てなかった幼なじみ。
「帰ったら……」
自然と笑みが浮かぶ。
「まずエレナだな」
リベンジ。再戦。再々戦。何度でもいい。今度こそ完全勝利してみせる。
そんな決意を胸に、自分は学園へ戻る準備を始めるのだった。
――なお。その頃のエレナは。
「なんか嫌な予感がするにゃ……」
理由もなく背筋が寒くなり、不思議そうに首を傾げていた。




