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ジョブホッパーの魔導譚 〜幾多の職を越えて紡ぐ、魔眼使いの英雄譚~  作者: フェアリーP
乳児編

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第4話 鑑定スキルと、人生初の魔法

【魔力操作】と【魔力感知】を覚えてから、さらに数日が経過した。


その間も、自分は暇さえあればスキルの検証を続けていた。


赤ん坊というのは、意外と忙しい生き物だ。寝る。起きる。授乳される。そしてスキルの検証をする。


(……うん、最後だけ絶対に普通の赤ん坊じゃないな)


自分で考えて、少し笑ってしまう。


だが仕方ない。異世界に転生したのだ。しかもステータスまで存在する世界。そんな状況で何もしない方がおかしい。むしろ今しか出来ないことがある。身体が自由に動かない今だからこそ、出来る限り情報を集めておきたかった。





そんな中で最近特に気になっていたのが、【鑑定】だった。


異世界ものにおける超定番スキル。主人公の相棒。チート能力。攻略サイト代わり。そんなイメージがある。


だから期待していた。本当に期待していた。


しかし現実は少し違った。


試しに部屋の壁へ鑑定を使う。


【壁】普及している建材で作った壁。


続いて天井。


【天井】普及している建材で作った天井。


(うん……)


(微妙だな!?)


思わず心の中でツッコんだ。


いや、間違ってはいない。確かに壁だし天井だ。それは認める。だが違う。そうじゃない。自分が求めているのはもっとこう……品質とか、耐久値とか、希少価値とか、レアリティとか、そういうゲームっぽい情報である。


これでは鑑定というより説明文だ。しかもかなり雑な。


前世の仕事柄、建材を見る機会は山ほどあった。木材の種類、強度、加工方法、品質。そういうものを見る癖が骨の髄まで染み付いている。だからこそ、この鑑定結果には物足りなさしか感じられなかった。


(いや、まだ諦めるには早いか)


ゲームでも最初から最強スキルなんて少ない。使い続ければ成長する可能性もある。むしろその方が自然だ。


そう考え直し、次の検証対象へ視線を向ける。


ソフィアだ。





ほぼ間違いなく自分の母親である。


毎日授乳してくれる。一緒に寝ている。世話もしてくれる。どう考えても母親だった。


しかし未だに少しだけ違和感がある。


前世の自分は三十八歳。社会人として働き続けた大人だった。そんな自分からすると、ソフィアはどう見ても若い。しかも驚くほど綺麗だ。透き通るような青い髪。優しい瞳。整った顔立ち。前世で見た芸能人と比べても負けていない。


(母親っていうより、お姉さんに見えるんだよな……)


もちろん年齢は分からない。だが感覚的には二十代前半くらいにしか見えない。異世界だから寿命や老化も違うのかもしれない。


そんなことを考えながら鑑定を発動する。


【ソフィア】


表示されたのは名前だけだった。


(え?)


(それだけ?)


拍子抜けした、その時だった。


ソフィアの表情が、ふっと変わった。笑顔が消える。そして周囲をゆっくりと見回した。部屋の隅、窓、扉。まるで誰かの視線を探すように。警戒するように。


(……今の、もしかして)


背筋がぞくりとした。


偶然だろうか。だがタイミングが良すぎる。まるで鑑定されたことに気付いたような反応だった。


(危なっ!?)


もし本当に察知できるなら問題だ。0歳児が母親を鑑定している。冷静に考えると怖すぎる。自分が親だったら泣く。


今後は無闇に人へ使わない方が良さそうだ。そう固く心に誓った。


前世でも無駄な地雷は踏まない主義だった。ブラック現場で余計なことを言うと仕事が増える、という教訓と同じだ。





さらに検証を続けていく中で、新たな発見もあった。


【鑑定】は右目でしか発動しない。


左目では何も起きない。最初は気のせいかと思った。だが何度試しても結果は同じだった。


そして右目へ魔力を流し込むと、世界の見え方が変化する。空気の中に霧のようなものが浮かび上がるのだ。ゆらゆらと揺れる光。煙のようにも見える。水蒸気のようにも見える。


最初は幻覚かと思った。だが違う。それは確実に存在していた。


(これが……魔力)


感動した。異世界に来てから何度も驚いてきた。だが、これは特別だった。目に見えないはずの力が見えている。前世では絶対にあり得なかった現象。


まさしくファンタジーだった。


そして理解する。【鑑定の魔眼】には、二つの能力があるのだ。


一つは【鑑定】。もう一つは【魔力視】。


本当に魔眼だった。


(名前負けしてなかったな……)


少し安心する。しかし同時に疑問も生まれる。魔力は見える。だが鑑定できない。いくら試しても結果が表示されないのだ。


(レベル不足かな……)


そんな気がした。使い続ければ情報量が増える。実際、鑑定結果は少しずつ増えている。なら魔力もいずれ分かるようになるだろう。


そう信じて鍛えるしかない。





そして数日後。


努力は、きちんと結果として現れた。


【壁 ウィリー材】


(増えた!!)


思わず歓喜する。鑑定結果に材料名が追加されたのだ。たった一項目。されど一項目。これは大きな進歩だった。


つまり予想通り、スキルには成長要素が存在する。使えば使うほど強くなる。ゲーム好きとしては最高の仕様だった。


成果が結果として見える。だから楽しい。だから続けられる。


前世でもそうだった。仕事だって最初は何も出来なかった。図面の見方、工程管理、積算、発注。一つずつ覚えていった。気付けば人並みに仕事が出来るようになっていた。


スキルも同じなのだろう。なら答えは簡単だ。使い続ければいい。


一方で【魔力操作】の練習も続けていた。だがこちらは難航している。手のひらへ魔力を集める、そこまでは出来る。しかし維持が出来ない。集中が切れた瞬間、霧のように散ってしまうのだ。


(難しいな……)


それでも面白かった。何もなかったところから少しずつ出来ることが増えていく。その感覚はゲームのレベル上げによく似ていた。




転生してから数週間。起きている間、自分はほぼ常に何かしらのスキルを使っている。それなのに一度も魔力切れを起こしていない。そこも気になっていた。


(魔力量が多いのか?それともスキルは消費しないのか?)


判断材料が少なすぎる。やはり攻略本が欲しい。本気で欲しい。ネット環境の偉大さを改めて実感していた。


前世では当たり前のように使っていたものが、今は何一つない。分からないことは全部自分で試すしかない。それはそれで悪くないのだが。


そんな時だった。


ふとソフィアへ視線を向ける。


彼女はよく手を光らせている。おそらく魔法だ。毎日見ているのに、いつ見ても不思議な光だった。


ならば――。


(観察したら覚えられたりしないかな?)


そんな考えが浮かんだ。


ゲームで言えば「技を見て覚える」やつだ。現実的かは分からない。でも試さない手はない。


そして実際に試してみる。


何日も。何日も。ひたすら観察を続けた。


ソフィアが手を光らせるたびに、右目へ魔力を流し込んで魔力視を発動する。流れを追う。形を読む。どこから来てどこへ向かうのかを追い続ける。


最初はただの光にしか見えなかった。


だが何日も見続けるうちに、少しずつ見えてきた。


魔力が指先に集まる。形を作る。そして放出される。そのわずか数秒の流れが、繰り返し見ることで輪郭を帯びてくる。


(なるほど……こういう動きをするのか)


頭の中で何かが繋がっていく感覚があった。





そして、その日の夜だった。


ソフィアが手を光らせた瞬間、自分の右目に何かが走った。


(今だ)


反射的に同じ流れをイメージする。魔力を指先に集めて、形を作って、放出する。


すると。


【クリーンを感知しました】


【クリーンを取得しました】


(取れたぁぁぁぁぁっ!?)


心の中で叫んだ。


ついに。ついに魔法を覚えた。人生初の魔法だ。


しかも取得した瞬間、使い方まで何となく理解できる。魔力を集める。形を作る。放出する。感覚的には粘土細工に近い。前世で模型を作った時の感覚にも似ていた。


(これ、面白いぞ……)


胸が高鳴る。ワクワクする。異世界へ来てから一番興奮していた。


クリーンというのは、おそらく汚れを落とす生活魔法だろう。攻撃魔法でも強化魔法でもない。地味といえば地味だ。


だが関係ない。


魔法を覚えた。それだけで十分だった。


夢見た力が、今まさに自分の手の中にある。





だが同時に、冷静な自分もいた。


今使ったら駄目だ。絶対に駄目だ。


零歳児が突然魔法を使う。そんな光景を見たら大騒ぎになる。下手をすれば神童扱いどころでは済まない。研究対象になるかもしれない。国に連れていかれるかもしれない。ソフィアと引き離されるかもしれない。


(……それは困る)


今はまだ、静かにしていた方がいい。


前世でも現場では空気を読むことが大事だった。タイミングを見誤ると余計な仕事が増える。それはここでも変わらない。


だから我慢する。ソフィアが部屋から出た時、その時に試そう。


人生初の魔法。その瞬間を楽しみにしながら、自分は今日もスキルの鍛錬を続けるのだった。





───────────────


名前・レイ(0歳)

状態・良好

属性・雷

職種・無

種族・人族

成長スピード

 力   3

 器用  8

 速さ  3

 知力  8

 魔力  8

パッシブスキル

 人見知り/建築/土木/料理/素材の極み

アクティブスキル

 魔力感知/魔力操作/鑑定/クリーン

固有スキル

 ジョブホッパー/鑑定の魔眼


───────────────

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