第4話 鑑定スキルと、人生初の魔法
【魔力操作】と【魔力感知】を覚えてから、さらに数日が経過した。
その間も、自分は暇さえあればスキルの検証を続けていた。
赤ん坊というのは、意外と忙しい生き物だ。寝る。起きる。授乳される。そしてスキルの検証をする。
(……うん、最後だけ絶対に普通の赤ん坊じゃないな)
自分で考えて、少し笑ってしまう。
だが仕方ない。異世界に転生したのだ。しかもステータスまで存在する世界。そんな状況で何もしない方がおかしい。むしろ今しか出来ないことがある。身体が自由に動かない今だからこそ、出来る限り情報を集めておきたかった。
★
そんな中で最近特に気になっていたのが、【鑑定】だった。
異世界ものにおける超定番スキル。主人公の相棒。チート能力。攻略サイト代わり。そんなイメージがある。
だから期待していた。本当に期待していた。
しかし現実は少し違った。
試しに部屋の壁へ鑑定を使う。
【壁】普及している建材で作った壁。
続いて天井。
【天井】普及している建材で作った天井。
(うん……)
(微妙だな!?)
思わず心の中でツッコんだ。
いや、間違ってはいない。確かに壁だし天井だ。それは認める。だが違う。そうじゃない。自分が求めているのはもっとこう……品質とか、耐久値とか、希少価値とか、レアリティとか、そういうゲームっぽい情報である。
これでは鑑定というより説明文だ。しかもかなり雑な。
前世の仕事柄、建材を見る機会は山ほどあった。木材の種類、強度、加工方法、品質。そういうものを見る癖が骨の髄まで染み付いている。だからこそ、この鑑定結果には物足りなさしか感じられなかった。
(いや、まだ諦めるには早いか)
ゲームでも最初から最強スキルなんて少ない。使い続ければ成長する可能性もある。むしろその方が自然だ。
そう考え直し、次の検証対象へ視線を向ける。
ソフィアだ。
★
ほぼ間違いなく自分の母親である。
毎日授乳してくれる。一緒に寝ている。世話もしてくれる。どう考えても母親だった。
しかし未だに少しだけ違和感がある。
前世の自分は三十八歳。社会人として働き続けた大人だった。そんな自分からすると、ソフィアはどう見ても若い。しかも驚くほど綺麗だ。透き通るような青い髪。優しい瞳。整った顔立ち。前世で見た芸能人と比べても負けていない。
(母親っていうより、お姉さんに見えるんだよな……)
もちろん年齢は分からない。だが感覚的には二十代前半くらいにしか見えない。異世界だから寿命や老化も違うのかもしれない。
そんなことを考えながら鑑定を発動する。
【ソフィア】
表示されたのは名前だけだった。
(え?)
(それだけ?)
拍子抜けした、その時だった。
ソフィアの表情が、ふっと変わった。笑顔が消える。そして周囲をゆっくりと見回した。部屋の隅、窓、扉。まるで誰かの視線を探すように。警戒するように。
(……今の、もしかして)
背筋がぞくりとした。
偶然だろうか。だがタイミングが良すぎる。まるで鑑定されたことに気付いたような反応だった。
(危なっ!?)
もし本当に察知できるなら問題だ。0歳児が母親を鑑定している。冷静に考えると怖すぎる。自分が親だったら泣く。
今後は無闇に人へ使わない方が良さそうだ。そう固く心に誓った。
前世でも無駄な地雷は踏まない主義だった。ブラック現場で余計なことを言うと仕事が増える、という教訓と同じだ。
★
さらに検証を続けていく中で、新たな発見もあった。
【鑑定】は右目でしか発動しない。
左目では何も起きない。最初は気のせいかと思った。だが何度試しても結果は同じだった。
そして右目へ魔力を流し込むと、世界の見え方が変化する。空気の中に霧のようなものが浮かび上がるのだ。ゆらゆらと揺れる光。煙のようにも見える。水蒸気のようにも見える。
最初は幻覚かと思った。だが違う。それは確実に存在していた。
(これが……魔力)
感動した。異世界に来てから何度も驚いてきた。だが、これは特別だった。目に見えないはずの力が見えている。前世では絶対にあり得なかった現象。
まさしくファンタジーだった。
そして理解する。【鑑定の魔眼】には、二つの能力があるのだ。
一つは【鑑定】。もう一つは【魔力視】。
本当に魔眼だった。
(名前負けしてなかったな……)
少し安心する。しかし同時に疑問も生まれる。魔力は見える。だが鑑定できない。いくら試しても結果が表示されないのだ。
(レベル不足かな……)
そんな気がした。使い続ければ情報量が増える。実際、鑑定結果は少しずつ増えている。なら魔力もいずれ分かるようになるだろう。
そう信じて鍛えるしかない。
★
そして数日後。
努力は、きちんと結果として現れた。
【壁 ウィリー材】
(増えた!!)
思わず歓喜する。鑑定結果に材料名が追加されたのだ。たった一項目。されど一項目。これは大きな進歩だった。
つまり予想通り、スキルには成長要素が存在する。使えば使うほど強くなる。ゲーム好きとしては最高の仕様だった。
成果が結果として見える。だから楽しい。だから続けられる。
前世でもそうだった。仕事だって最初は何も出来なかった。図面の見方、工程管理、積算、発注。一つずつ覚えていった。気付けば人並みに仕事が出来るようになっていた。
スキルも同じなのだろう。なら答えは簡単だ。使い続ければいい。
一方で【魔力操作】の練習も続けていた。だがこちらは難航している。手のひらへ魔力を集める、そこまでは出来る。しかし維持が出来ない。集中が切れた瞬間、霧のように散ってしまうのだ。
(難しいな……)
それでも面白かった。何もなかったところから少しずつ出来ることが増えていく。その感覚はゲームのレベル上げによく似ていた。
★
転生してから数週間。起きている間、自分はほぼ常に何かしらのスキルを使っている。それなのに一度も魔力切れを起こしていない。そこも気になっていた。
(魔力量が多いのか?それともスキルは消費しないのか?)
判断材料が少なすぎる。やはり攻略本が欲しい。本気で欲しい。ネット環境の偉大さを改めて実感していた。
前世では当たり前のように使っていたものが、今は何一つない。分からないことは全部自分で試すしかない。それはそれで悪くないのだが。
そんな時だった。
ふとソフィアへ視線を向ける。
彼女はよく手を光らせている。おそらく魔法だ。毎日見ているのに、いつ見ても不思議な光だった。
ならば――。
(観察したら覚えられたりしないかな?)
そんな考えが浮かんだ。
ゲームで言えば「技を見て覚える」やつだ。現実的かは分からない。でも試さない手はない。
そして実際に試してみる。
何日も。何日も。ひたすら観察を続けた。
ソフィアが手を光らせるたびに、右目へ魔力を流し込んで魔力視を発動する。流れを追う。形を読む。どこから来てどこへ向かうのかを追い続ける。
最初はただの光にしか見えなかった。
だが何日も見続けるうちに、少しずつ見えてきた。
魔力が指先に集まる。形を作る。そして放出される。そのわずか数秒の流れが、繰り返し見ることで輪郭を帯びてくる。
(なるほど……こういう動きをするのか)
頭の中で何かが繋がっていく感覚があった。
★
そして、その日の夜だった。
ソフィアが手を光らせた瞬間、自分の右目に何かが走った。
(今だ)
反射的に同じ流れをイメージする。魔力を指先に集めて、形を作って、放出する。
すると。
【クリーンを感知しました】
【クリーンを取得しました】
(取れたぁぁぁぁぁっ!?)
心の中で叫んだ。
ついに。ついに魔法を覚えた。人生初の魔法だ。
しかも取得した瞬間、使い方まで何となく理解できる。魔力を集める。形を作る。放出する。感覚的には粘土細工に近い。前世で模型を作った時の感覚にも似ていた。
(これ、面白いぞ……)
胸が高鳴る。ワクワクする。異世界へ来てから一番興奮していた。
クリーンというのは、おそらく汚れを落とす生活魔法だろう。攻撃魔法でも強化魔法でもない。地味といえば地味だ。
だが関係ない。
魔法を覚えた。それだけで十分だった。
夢見た力が、今まさに自分の手の中にある。
★
だが同時に、冷静な自分もいた。
今使ったら駄目だ。絶対に駄目だ。
零歳児が突然魔法を使う。そんな光景を見たら大騒ぎになる。下手をすれば神童扱いどころでは済まない。研究対象になるかもしれない。国に連れていかれるかもしれない。ソフィアと引き離されるかもしれない。
(……それは困る)
今はまだ、静かにしていた方がいい。
前世でも現場では空気を読むことが大事だった。タイミングを見誤ると余計な仕事が増える。それはここでも変わらない。
だから我慢する。ソフィアが部屋から出た時、その時に試そう。
人生初の魔法。その瞬間を楽しみにしながら、自分は今日もスキルの鍛錬を続けるのだった。
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名前・レイ(0歳)
状態・良好
属性・雷
職種・無
種族・人族
成長スピード
力 3
器用 8
速さ 3
知力 8
魔力 8
パッシブスキル
人見知り/建築/土木/料理/素材の極み
アクティブスキル
魔力感知/魔力操作/鑑定/クリーン
固有スキル
ジョブホッパー/鑑定の魔眼
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