↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジョブホッパーの魔導譚 〜幾多の職を越えて紡ぐ、魔眼使いの英雄譚~  作者: フェアリーP
学園編 低学年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/76

第45.1話 身体測定と、最下位と、ブラットの怒り

 コーデリアさんへブレスレットを贈った翌日。自分たち一年Aクラスの生徒は、朝から学園の大グラウンドへ集められていた。


 雲ひとつない青空。春の風が心地よく吹き抜ける。だが生徒達の空気は妙に騒がしかった。


「なんだろうな?」


 自分が首を傾げる。


「運動会らしいにゃ」


 隣でエレナが尻尾を揺らした。


「運動会かぁ……」


 前世でも何度も経験した行事だ。だが異世界の運動会がどんなものかは少し気になる。


 そんなことを考えていると、ロナルド先生が前へ出た。朝日を背負う筋肉の塊。教師というより歴戦の戦士である。


「よし!」


 大音量が響く。近くの鳥が一斉に飛び立った。


「今日は身体測定と運動会の選手決めを行う!」


「「おおーっ!」」


 男子達が盛り上がる。特にアランとブラットがうるさい。まだ何も始まっていないのに優勝する気満々だった。


「運動会は二ヶ月後!」


 ロナルド先生は続ける。


「学年対抗でもある! 全力で頑張れ!」


「はい!」


 元気な返事が響く。自分も配られたプリントへ目を落とした。そこには種目一覧が書かれている。


 個人種目:五十メートル走、障害魔法レース、干し肉食いレース。


 二人種目:二人三脚。


 団体種目:玉当て、綱引き、闘技戦、リレー。


 思ったより本格的だった。


「干し肉食いレースって何……」


「レイが昔に言っていたパン食い競争みたいなものじゃないかにゃ?」


「ああ、なるほど」


 異世界版パン食い競争らしい。干し肉なら確かに異世界っぽい。


「今日は五十メートル走、垂直跳び、握力、砲丸投げを測定する! 結果を見て出場種目を決めるからな!」


「「はい!」」


 こうして身体測定が始まった。



★



 最初は五十メートル走だった。


「まずはアラン!」


「おう!」


 アランが前へ出る。自信満々だった。


「見てろよ!」


 スタート。地面を蹴る。速い。かなり速い。普通の六歳児なら圧倒される速度だった。


 だが。


(ブラットやエレナを見慣れてると普通に見えるな……)


 完全に感覚が狂っている自分だった。


「ほう、なかなかだな」


 ロナルド先生が頷く。


「へへっ!」


 アランが胸を張った。


 次はブルーノ。ホワイトナイト。見た目からして主人公っぽい少年だ。


 スタート。走る。綺麗だった。とにかく綺麗だった。フォームが美しい。無駄がない。そして速い。


「おおっ!」


 アランの記録をあっさり更新した。


「くっ……!」


 アランが悔しそうな顔になる。しかしブルーノは爽やかに笑った。


「良い勝負だったよ」


 爽やかだった。爽やか過ぎた。


(本当に主人公みたいだな……)


 自分は少し感心した。


 続いてバリー。普段はあまり目立たない。だがスタートした瞬間。


「うおっ!?」


 クラス全員が驚いた。速い。まるで風だった。小柄な身体が一瞬で駆け抜けていく。流石シーフ職。敏捷特化である。順位は一気に入れ替わった。



★



 そして。


「次、ブラット!」


「はい!」


 元気良く返事をして前へ出る。自分は少し期待していた。幼なじみだから知っている。ブラットは速い。かなり速い。


 スタート。次の瞬間、全員が目を見開いた。


「はやっ!?」


 自分ですら思わず声が出た。圧倒的だった。バリーを大きく引き離す。技術ではない。純粋な身体能力。力技だった。


「よっしゃあ!」


 本人は大喜び。アランは泣きそうだった。


「俺……最下位になるのか……」


「まだ途中だからな!?」


 ロナルド先生が慌ててフォローする。


次はクライブ。自分は心の中で祈った。


(頼む。仲間でいてくれ)


 しかし現実は残酷だった。クライブも普通に速かった。


「裏切ったなクライブ」


「え?」


「仲間だと思ってたのに」


「何の話?」


 本気で分かっていないらしい。少し悲しかった。



★



 そして。ついに自分の番である。


「次、レイ!」


「はい」


 前へ出る。全員の視線が集まる。少し緊張した。


(クライブには勝ちたい)


 目標は低い。だが重要だった。


 全力で走る。本気で走る。腕を振る。脚を動かす。息が苦しい。頑張った。本当に頑張った。


 しかし。結果。


 男子最下位だった。


「……」


 自分は空を見上げた。青空が綺麗だった。現実逃避である。


「レイ」


 ロナルド先生が肩を叩く。


「他で頑張れ」


「はい……」


 慰められた。余計に悲しかった。


(魔力は8なのになんで足は遅いんだ……)


 前世でも運動は苦手だった。今世でも苦手だった。悲しいくらい一貫している。



★



 そんな時だった。


「レイくん」


 ブルーノが近付いてくる。


「もしかして手加減してる?」


「……え?」


 本気だった。百パーセント本気だった。むしろ酸欠だった。


 しかしその瞬間。


「ブルーノ」


 低い声が響いた。ブラットだった。


 空気が変わる。クラス全員が静まり返った。自分ですら驚く。ブラットが本気で怒る姿を見たことがなかった。


「レイはいつだって本気だ」


 真顔だった。怒っていた。


「俺はレイの努力を知ってる」


 ブラットは言う。


「毎日鍛えてる。毎日魔力操作してる。毎日勉強してる。毎日変な発明もしてる」


「最後いらなくない?」


「事実だろ」


 酷かった。だが少し嬉しかった。自分の努力を見ていてくれたから。


ブルーノは素直に頭を下げた。


「ごめん。身体の使い方に違和感があったから勘違いしたんだ」


 悪意はなかったらしい。


「身体の使い方?」


「うん」


 ブルーノは頷いた。


「レイくんって考えを上手く身体に伝えられてない感じがする」


「そんなの分かるの?」


「姉に教わったからね」


 どうやら武術の心得があるらしい。


「今度教えようか?」


 自分の目が輝く。


「ぜひお願いしたいかな」


 身体能力が低いなら技術を学ぶしかない。その提案はありがたかった。


男子の最終順位。一位ブラット。二位バリー。三位ブルーノ。四位アラン。五位クライブ。六位自分。


 綺麗に最下位だった。



★



 続いて女子。コーデリアさんは途中まで速かった。しかし後半で失速する。精霊使いらしく体力は少なめらしい。自分がギリギリ勝った。


(勝ったって言えるのかな……)


 微妙だった。


 シンシアさんは走り方がぎこちない。身体の使い方が上手くないのだろう。ブルーノの話が当てはまるかもしれない。


 マーティナは平均以上。


 そして最後。


「はいにゃー!」


 エレナだった。全員が驚いた。圧倒的だった。ブラットよりさらに速い。異常だった。


「な、なんだあれ……」


 ロナルド先生が呆然としている。どうやら先生より速かったらしい。エレナ本人は楽しそうだった。


 理不尽である。


こうして五十メートル走は終了した。


 だが。自分の試練はまだ終わらない。


 次は垂直跳び。握力。砲丸投げ。


 さらに現実を突き付けられることになるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。