第33.1話 チェスガン散策と、武器屋と、お小遣い問題
チェスガンへ来て数日。入学式まではまだ時間があり、自分達は久しぶりに三人で街を見て回ることになった。
せっかく大きな街へ来たのだ。学園が始まって忙しくなる前に、色々な場所を見ておきたい。
朝から寮の前へ集合すると、ブラットが大きく伸びをした。
「さて、どこ行くんだ?」
「僕は武器屋と雑貨屋かな」
そう答えると、ブラットが不思議そうな顔をした。
「武器屋?」
「うん」
「いや、お前ならオヤジの店で見ればよかったじゃねぇか」
その言葉に、自分は思わず遠い目になった。
「それがね……」
「?」
「前に見ようとしたら『お前にはまだ早い』って言われたんだよ」
「あー」
ブラットが納得したように頷いた。
「そういや言われてたな」
ガインさんの武具店はモロットでも有名な店だ。冒険者も来るし、時には他の街から客が来ることもある。当然、自分も興味があった。
だが――。
「店の中には入れてもらえるんだけどね」
「うん」
「武器を触るのや買うのは禁止だった」
「そりゃそうだろ」
ブラットは肩を竦めた。
「レイなんてまだ身体小さいしな」
「でも触るだけなのに……」
「触るだけじゃ終わらねぇからだよ」
ブラットが呆れた顔になる。
「絶対欲しくなるだろ」
「うっ」
否定できなかった。確かに気になる武器があれば触ってみたくなる。重さとか、握り心地とか、気になるし、最終的には欲しくなる。
「まずは木剣で身体作れってことだろ」
「そうなんだろうけどさ」
自分は少しだけ不満そうに言った。
「街で木刀持ってると笑われるんだよね」
すると。ブラットとエレナが顔を見合わせた。
「いや、それ違うにゃ」
「そうだな」
「え?」
二人は同時に首を振った。
「レイが木刀持ってるとよ」
ブラットが真顔で言う。
「なんか頑張って背伸びしてる子供みたいなんだよ」
「そうにゃ」
エレナも大きく頷いた。
「可愛いにゃ」
「可愛い?」
「木刀が似合ってないにゃ」
「むしろ木刀が浮いてるにゃ」
「違和感がすごい」
「マジか……」
初耳だった。てっきり弱そうだから笑われているのかと思っていた。
「ちなみに鉄の剣持っても変わらないと思うぜ」
「え?」
「たぶんもっと目立つ」
「……」
少しだけショックだった。剣士っぽく見えると思っていたのに。自分の外見と武器のギャップがそこまで激しいとは思っていなかった。
★
「それで二人は何を見たいの?」
話題を変える。
「おれは特にねぇな」
ブラットは肩を竦めた。
「雑貨屋で日用品見るくらいか」
「私は服屋に行きたいにゃ!」
エレナが元気よく手を挙げた。予想通りだった。モロットにいる頃から何度も言っていたのだ。
『大きな街に行ったら絶対に服屋を見るにゃ!』
と。
「じゃあ服屋も決定だね」
「決まりにゃ!」
エレナの尻尾が嬉しそうに揺れる。
「二人の服も選んであげるにゃ」
「え、僕はあるからいらないよ」
「俺もいらない」
自分とブラットは即座に断った。だが。エレナは呆れた顔になった。
「二人とも服のセンス無いにゃ」
「ぐっ」
反論できない。
「そのままだと絶対モテないにゃ」
妙に刺さる。前世から服装には無頓着だった。だから自覚はある。
「俺は別にモテなくていい」
ブラットは平然としていた。強い。
「レイは?」
「僕は……」
少し考える。
「買うかどうかは別として、選んでもらうくらいなら」
「任せるにゃ!」
エレナが満足そうに胸を張った。何だか嫌な予感がした。エレナのセンスは悪くないが、猫族の好みが反映された場合、どうなるかが読めない。
★
最初に向かったのは武器屋だった。チェスガンでも大きな店らしく、店内はかなり広い。
「おお……」
思わず声が漏れる。
剣。槍。斧。弓。短剣。盾。壁一面に武器が並んでいた。男の子なら誰でもテンションが上がる光景だと思う。
「すげぇな……」
「だろ?」
ブラットも少し興奮していた。鍛冶屋の息子でも嬉しいらしい。
自分は近くの剣を見てみる。そして。
「高っ!?」
思わず声が出た。鉄の剣一本で自分のお小遣いが何年分も吹き飛ぶ。予想以上だった。
「こんなもんだぞ?」
ブラットは平然としている。感覚が違う。鍛冶屋の息子は値段の基準がそもそも違うらしい。
「買えないんだけど……」
「お前まだ六歳だろ」
「それもそうか」
確かに。今から買う必要は無い。それでも値段を知るのは大事だ。前世でも、相場を知らないまま物を買うのは危険だった。
そして何より。
(鑑定だよね)
自分はさり気なく【鑑定】を使う。
【鉄の剣】 品質:普通
【鉄の短剣】 品質:普通
【鉄の槍】 品質:良
(テンプレだと掘り出し物があるんだけどなぁ)
残念ながらそんな都合の良い話は無かった。むしろ全部ちゃんとしている。流石は専門店だ。品質が普通でも、作りは丁寧だった。それだけで信用できる店だと分かる。
「どうだった?」
「適正価格ばっかりだった」
「何言ってるか分かんねぇ」
ブラットが首を傾げた。当然である。鑑定のことは言えない。
★
武器屋を出た後。自分達は雑貨屋へ向かった。三階建ての大きな店だ。モロットでは見たこともない規模だった。
「私は日用品見てくるにゃ」
「おれも適当に見る」
「了解」
二人と別れ、自分は店内を歩き始めた。
(今回の目的はアクセサリーの材料だ)
以前から考えていた。【素材の極み】を利用して何か作れないだろうか、と。お小遣い稼ぎ。将来的な資金源。出来るなら確保しておきたい。
まずは材料探しだ。色付きの細いワイヤー。小さな金具。ガラス玉。細工用の工具。色々な物が並んでいる。
(思ったより種類が多いな)
見ているだけでも楽しい。
そしてもう一つ欲しい物があった。
(魔石だ)
小さな魔石。出来れば安い物。試作品に使いたかった。
近くの店員へ声を掛ける。
「すみません」
「はい?」
「小さい魔石って売ってますか? もっと小さいやつとか」
すると店員は少し考えた。
「ああ、クズ魔石かい?」
「クズ魔石?」
「小さすぎて価値の低い魔石だよ」
なるほど。そう呼ばれているらしい。
「ここには無いんですか?」
「魔石屋の方が種類は多いね」
店員は笑う。
「でも安く欲しいなら露店街だな」
「露店街ですか」
「ただし気を付けな」
急に真顔になる。
「坊やみたいな子は騙されやすそうだからな」
「気を付けます」
有益な情報だった。そしてこの店員、なかなか親切だ。前世でも、良い情報は人から来ることが多かった。
露店街。後で見てみよう。そう決めながら、自分は材料をいくつか手に取った。
(うまくいけば、お小遣い問題が解決するかも)
学園生活は長い。四年間、お金に困り続けるのは避けたい。【素材の極み】を上手く使えば、品質の高いアクセサリーが作れるはずだ。
ただし売りすぎると目立つ。その辺のバランスが難しい。
(まずは試作からだな)
そう思いながら、自分は雑貨屋の奥へと歩いていくのだった。




