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ジョブホッパーの魔導譚 〜幾多の職を越えて紡ぐ、魔眼使いの英雄譚~  作者: フェアリーP
幼児編

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第24話 職種告白と、幼なじみの適性と、黒い羽根

 ステータスの確認を終えた後、自分は部屋を出て、両親が待つ居間へ向かった。


 胸の奥は少しだけ高鳴っている。五歳になり、ついに職種が判明した。しかも普通とは違う。その事実を知っているのは、今のところ自分だけだった。


「お父さん、お母さん。職種の確認が終わったよ」


「そうか」


 父さんが笑う。


「それでどんな職種だった? 基本的に職種が何になっても気にする必要はないからな」


 そう言われ、自分は二人の向かいへ腰を下ろした。


「それでね……職種は【魔導剣士】になったよ」


 一瞬。父さんの眉が僅かに上がった。


「ほう……【魔導剣士】か」


 意外そうな反応だった。母さんも目を丸くしている。


「あら? 私はてっきり魔法師か生産職になると思っていたわ」


「俺もだな」


 父さんが頷く。


「レイは昔から工作や料理が好きだったからな。剣士系になるとは思わなかった」


「私もそう思うわ」


 母さんはくすりと笑った。


「レイが剣士なんて少し不思議ね」


「そうかな?」


「そうよぉ。お父さんみたいに筋肉で解決するタイプには見えないもの」


「おい」


 父さんが苦笑する。だが否定はしない。否定できないのだろう。


(まあ、それはそう)


 父さんの戦い方を見たことがある。木剣を一振りしただけで地面が吹き飛ぶ。あれは剣術ではない。災害だ。自分はああはなれない。なりたくもない。





「【魔導剣士】って多い職種なの?」


 そう尋ねると、父さんは少し考え込んだ。


「いや、少なくとも俺は聞いたことがないな」


「え?」


 思わず声が漏れる。父さんは元冒険者だ。それなりに世間を知っている。そんな父さんでも知らない。


「職種には似た名前が多い」


 父さんは説明を続けた。


「例えば俺の職種は【魔剣士】だ」


 そう言って腰の剣を軽く叩く。


「普通なら魔法を使う剣士らしい」


「らしい?」


「ああ。だが俺の場合は違う」


 父さんが笑った。


「俺は魔剣を召喚する剣士だ」


「へぇ……」


 何度聞いても格好良い。魔剣召喚。男の子が好きそうな単語ランキング上位である。


「つまり職種名だけでは分からん」


 父さんは真面目な顔になった。


「同じ職種でも人によって能力が違うことは珍しくない」


「じゃあ僕の【魔導剣士】も?」


「分からん」


 即答だった。


「だから焦る必要はない」


 父さんは穏やかな声で言う。


「剣を振って、魔力を使って、生活していくうちに分かってくる」


「なるほど」


(普通はそうなんだろうな)


 自分だけは違う。ジョブホッパーのおかげで説明文が見える。ジョブ変更までできる。明らかに例外だ。


 だが今は黙っておく。まだ何も分かっていない段階で話しても混乱するだけだ。父さんと母さんを心配させたくもない。


「お父さん」


「ん?」


「職種って変わったりしないの?」


 すると父さんは即答した。


「基本的には変わらん」


「やっぱり」


「ああ」


 そして少しだけ表情を変える。


「ただし例外はある」


「例外?」


「記憶喪失になったり、大事故で人格が変わったりした場合だな」


「そんなので?」


「噂だけどな」


 さらに続ける。


「継承系の固有スキルを受け継いだ時に変わる話も聞いたことがある」


(やっぱり特殊事例は存在するのか)


 だがジョブホッパーほど自由なものではなさそうだ。少なくとも複数職業を渡り歩く人間なんて聞いたことがない。今後も表向きは【魔導剣士】として活動するべきだろう。


 まずは練度3.0。そこを目指す。


「気長にやってみるよ」


「それがいい」


 父さんは満足そうに頷いた。母さんも嬉しそうに笑っている。


 その顔を見ていると、少しだけ罪悪感が湧いた。全部は話せていない。でも嘘はついていない。そう思うことにした。





 その夜、レイは静かに眠りについた。


 誰にも知られず。誰にも気付かれず。その意識は深い眠りの中へ沈んでいく。





 白い。


 どこまでも白い空間。空もない。地面もない。ただ静寂だけが広がっていた。


 その中心に、一人の女性が立っている。長い黒髪。漆黒のドレス。どこか寂しげで、どこまでも優しい瞳。


 女性は誰もいない場所を見つめながら微笑んだ。


『五歳になりましたね』


 その声を聞く者はいない。それでも女性は語り続ける。


『今回も無事にここまで来られて安心しました』


 まるで大切な誰かへ話しかけるように。慈しむように。


『本当はもっと話したいのですけどね』


 小さく苦笑する。


『でも約束ですから』


 そう言って空を見上げた。遥か遠い昔を思い出すように。


『あなたは昔から変わりませんね』


 女性の声が少しだけ寂しくなる。


『誰かのために頑張って』


『誰かを助けようとして』


『最後には自分を後回しにしてしまう』


 その言葉には、長い時間の重みがあった。千年。万年。それすら短く感じるほどの歳月。彼女だけが覚えている。彼女だけが見続けてきた。


『だから今度こそ』


 胸の前でそっと手を組む。


『今度こそ幸せになってくださいね』


 祈るように。願うように。


 その言葉は白い空間へ溶けていく。そして――一枚の黒い羽根が風に乗って舞い上がった。


 静かに。誰にも知られることなく。





 翌朝。


「ふわぁ……」


 自分は大きく欠伸をした。


 妙によく眠れた気がする。身体も軽い。頭も冴えている。


「職種が決まったからかな?」


 自分でもよく分からない。だが気分は悪くなかった。窓から差し込む朝日も心地良い。


「さて」


 ベッドから飛び降りる。


「ブラット達に職種を教えに行くか」


 部屋を出ようとした時だった。窓の外を黒い羽根が一枚だけ舞っていた。


 だが。自分がそれに気付くことはなかった。





 いつもの広場。いつもの三人。話題は当然、職種だった。


「僕の職種は【魔導剣士】だったよ」


 するとブラットが待ってましたと言わんばかりに胸を張った。


「おれは【グラディエーター】だぜ!」


「おお」


 納得しかない。むしろそれ以外が想像できない。


「本当は親父と同じ職種が良かったんだけどな!」


 少しだけ残念そうに言う。だが表情は明るい。


「でもブラットに凄く似合ってると思うよ」


「だろ!」


 一瞬で機嫌が直った。単純である。


 続いてエレナ。


「わたしは【レンジャー】だったにゃ~」


「それもエレナらしいね」


「そうかにゃ?」


「うん」


 猫獣人らしい素早さ。短剣を使う戦い方。確かにぴったりだった。


 そこで何気なく魔眼を使う。



ーーーーーーーーーーーーーー


名前・ブラット(5歳)


状態・良好 属性・火 職種・グラディエーター 種族・人族


成長スピード 力9 器用6 速さ7 知力4 魔力4


武器・大剣(木)


ーーーーーーーーーーーーーー



(相変わらず化け物だな)


 力9。速さ7。どう見ても前衛特化である。同じ五歳とは思えない数値だった。



ーーーーーーーーーーーーーー


名前・エレナ(5歳)


状態・良好 属性・氷 職種・レンジャー 種族・獣人族(猫)


成長スピード 力5 器用8 速さ8 知力3 魔力6


武器・短剣二本(木)


ーーーーーーーーーーーーーー



(こっちも凄い)


 器用8。速さ8。完全に回避盾か遊撃役だ。


 そして自分。力3。速さ3。


(うん)


(知ってた)


 比較すると悲しくなるのでやめよう。


「三人の職種って意外とバランス良いかもね」


 そう言うとブラットが頷く。


「ああ! おれが前衛!」


「僕が後衛かな」


「わたしが支援にゃ!」


 綺麗に役割が分かれている。ブラットが突撃。エレナが撹乱。自分が後方支援。確かにパーティーとしては悪くない。


「将来、学校でも同じパーティーになれたらいいね」


「ああ!」


「楽しみだにゃ!」


 三人で笑い合う。


 五歳児らしい約束。まだ何も知らない子供達の未来の話だった。


(まあ……)


 心の中で苦笑する。


(頑張らないといけないのは自分だけど)


 ブラットには怪力がある。エレナには俊敏さがある。自分にはない。


 だが――自分にはジョブホッパーがある。


 まだ正体も可能性も分からない謎の力。


 ならば、自分なりの戦い方を見つければいい。剣士になれないなら。魔法師になれないなら。その両方を組み合わせればいい。あるいは全く別の道でもいい。ジョブホッパーなら、それができるかもしれない。


 胸の奥で、小さな期待が膨らむ。


 五歳。職種取得。そして新たな一歩。


 レイはまだ知らない。この【魔導剣士】という選択が、後に数多くの職業を渡り歩く壮大な旅路の最初の扉になることを。


 そしてその旅路が、世界そのものを大きく変えていくことを

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