第23話 認証の儀式と、黒服の神官と、ジョブホッパーの正体
今日は五歳になる子供達の【誕生祝い】の日だった。
町の中心にある集会所には、今年五歳になった子供達とその家族が集まっている。そして――聖教会から派遣された神官達も来ていた。
自分は初めて聖教会の人間を見たのだが……。
(思ってたのと違うな……)
正直な感想だった。もっとこう、白いローブを纏った神父みたいな人を想像していたのである。
だが現実は違った。
黒いスーツ。灰色のワイシャツ。黒いネクタイ。髪は綺麗なオールバック。表情は真面目。姿勢も良い。
なのに何故だろう。とても怖い。
地球で例えるなら、教会関係者というより裏社会の幹部みたいな雰囲気だった。
(本当に聖職者なんだよな……?)
少しだけ不安になる。もし「これから指輪を渡します」と言いながら契約書を出してきても違和感がない。そんな迫力があった。
★
集会所には二十人ほどの子供達が集まっていた。もちろんブラットとエレナもいる。そして今日は家族も一緒だ。
そのため、自分は初めてブラットの父親を見ることになった。
(でかっ!?)
思わず二度見した。
赤い髪。赤い瞳。ブラットによく似た顔立ち。そして何より――巨大だった。
ドワーフ族と聞いていたので、小柄な職人を想像していた。だが違う。全然違う。身長は二メートル近い。腕は丸太。胸板は岩壁。首なんて自分の胴体くらい太そうだ。鍛冶屋で働いていると聞いていたが、むしろ鍛冶屋のハンマーそのものが人になったような体格だった。
(絶対強い……)
子供が見たら泣く。いや、大人でも泣く。間違いなく泣く。そんな迫力だった。
改めて自分の父親を見る。細マッチョ。爽やか。優しい。
(うん、お父さんで良かった)
心の中で深く頷いた。父さんも十分すぎるほど強いのだが、少なくともガインさんと比べれば安心感がある。比較対象がおかしいのは分かっている。
★
やがて神官が前へ出る。簡単な祝福の言葉。五歳まで成長できたことへの祝い。神への感謝。そして未来への祈り。堅苦しい内容だったが、思ったより短かった。
その後、順番に【認証の指輪】が配られていく。
もっと派手な儀式を想像していた。神々しい光とか、天使の羽とか、謎の神託とか。そういうものだ。だが現実は違う。
普通に名前を呼ばれる。指輪を受け取る。終わり。
(意外と事務的だな……)
まあ考えてみれば当然かもしれない。毎年行われる行事なのだから。神官も慣れているのだろう。ありがたいことに、黒服の神官は近くで見ると思ったより穏やかな表情だった。ただし遠くから見ると威圧感が戻ってくる。不思議な人だった。
やがて自分の番が来る。黒服の神官から指輪を受け取った。
「健やかな成長を」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げる。指輪は銀色とも白金色とも言えない不思議な色をしていた。見た目はシンプルだ。だが握った瞬間、ほんのり温かい気がした。
神様の技術が込められているということだろう。言葉では説明できないが、何かが宿っている感覚があった。
★
儀式が終わる。大人達は片付け。子供達は帰宅。いつもの流れらしい。
「レイー!」
ブラットが駆け寄ってきた。
「明日は職種を教え合おうぜ!」
「いいね」
「私も楽しみだにゃ」
エレナも尻尾を揺らしている。三人とも少し浮かれていた。
当然だろう。五歳。職種。人生で初めて自分の適性が分かる日なのだから。ブラットは既に自分が剣士系だと確信しているらしく、終始ニヤニヤしていた。エレナは「何でもいいにゃ」と言いながら、尻尾の動きが明らかにそわそわしていた。
「また明日」
「おう!」
「またにゃー!」
そうして二人と別れた。
★
家へ帰る。しばらくして両親も帰宅した。
「お父さん、お母さん」
「どうした?」
「指輪を付けるの、一人でやってもいい?」
父さんは笑った。
「ああ、好きにしろ」
「終わったら教えてねぇ」
母さんも微笑む。
ありがたい。非常にありがたい。二人とも深く追及しない。そういう親だった。
(ジョブホッパーが絶対に普通じゃない気がするんだよな……)
五年間ずっと気になっていた。職種関連の固有スキル。普通なわけがない。もし変な表示が出たらどうしよう。
「じゃあ部屋に行くね」
そう言って自室へ向かった。
★
部屋に入り、扉を閉める。
静寂。誰もいない。
深呼吸する。そして左手へ指輪を嵌めた。
その瞬間。指輪が柔らかく変形する。自分の指へぴたりと密着した。
(うわ……)
思わず指を眺める。まるで皮膚と一体化したような感覚だった。違和感はない。痛みもない。だが取れない。本当に取れない。
(死ぬまで取れないって聞いたけど……)
改めて考えると少し怖い。呪いのアイテムみたいだ。しかも破壊不能。神様の技術力は相変わらず意味不明だった。
「さて……」
心を落ち着かせる。そして念じる。
(ステータス)
見慣れた半透明の画面が現れた。職種欄。そこには――。
【➡未設定】
という文字が表示されていた。
(やっぱりか)
どうやら自分で選ぶらしい。少し安心した。そして未設定を選択する。
次の瞬間。新しい画面が表示された。
【魔導剣士】
【召喚師】
【魔導技師】
※ジョブホッパーの説明
「……お?」
予想外だった。職種が複数ある。普通なら一つのはずだ。やはりジョブホッパーの影響だろう。
とりあえず説明を見る。
【ジョブホッパー】
①複数ジョブの変更が可能(適性ジョブのみ)
②ジョブ練度が数値化される
③最新ジョブの練度3.0以上で次ジョブ解放
④同系統ジョブは一定条件で統合
⑤初期スキル習得率上昇、極みスキル習得率低下
「……」
「…………」
しばらく沈黙した。
(ゲームだな?)
どう見てもゲームだった。レベルではない。ジョブ練度。転職システム。ジョブ統合。完全にそれだった。
ただ、微妙に分かりにくい。練度3.0がどのくらいなのか分からない。全部取れるのかも分からない。
だが一つだけ理解できた。今までスキル習得が異常に早かった理由。たぶん⑤だ。初期スキル習得率上昇。それがずっと働いていたのか。
(納得した)
そして同時に思う。
(素材の極みみたいなヤバいスキル、まだありそうだな……)
⑤をよく読むと「極みスキル習得率低下」とある。つまり素材の極みは通常なら習得困難なスキルということになる。それが既にある。今後もそういうものが出てくる可能性がある。
少し怖くなった。
★
改めて職種を見る。
【魔導剣士】 魔導を操る剣士。
【召喚師】 召喚を操る魔導師。
【魔導技師】 魔導具を造る技師。
「説明少なっ!」
思わず声が出た。もう少し詳しく書いてほしい。雑すぎる。
だが選ばなければならない。
召喚師には惹かれる。前世でも召喚職は好きだった。しかし地雷の可能性もある。序盤が弱い典型的なタイプかもしれない。赤ん坊の頃に暴発を恐れて雷属性を避けたあの慎重さが、今でも顔を出す。
魔導技師も気になる。建築や加工との相性が良さそうだし、自分の適性にも合っていそうだ。
だが。
(まずは戦える手段が欲しいかな)
どんな生き方をするにしても、護身能力は必要だ。のんびり暮らしたいからこそ、最低限の戦力は持っておきたい。前世で工具を揃えるのと同じ感覚だった。
結局。自分は【魔導剣士】を選択した。
直後。画面が光る。
【ブレードを取得しました】
【武器強化を取得しました】
「おお……」
少し感動した。本当にジョブ専用スキルだった。転職したらスキルが変わる。ということは違うジョブを選べば違うスキルが手に入るということでもある。
再びステータスを確認する。
職種
【魔導剣士 1.0】
しっかり反映されていた。
(なんだろう)
想像していた職種制度とは全然違う。でも――。
(ちょっと面白いかも)
そんな気持ちがあった。ジョブを増やし、練度を上げ、統合する。どう考えても普通ではない。だがジョブホッパーという名前なら納得だった。
五年間ずっと謎だった固有スキルの正体が、ようやく見え始めた。全部は分からない。まだ分からないことの方が多い。
でも今は十分だ。
「……とりあえず」
立ち上がる。家族に報告しよう。父さんと母さんなら何か知っているかもしれない。そして今日は誕生祝いの日だ。きっと美味しい料理もあるだろう。
そんなことを考えながら、自分は部屋の扉を開いた。
ジョブホッパーとしての人生、その第一歩を踏み出しながら。
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名前・レイ(5歳)
状態・良好 属性・雷 職種・魔導剣士 1.0 種族・人族
パッシブ・人見知り/建築/土木/料理/素材の極み
アクティブ・ブレード/ウィップ/武器強化/ストレージ/ハンド/シールド/ボール/ボックス/クリーン/魔力感知/魔力操作/鑑定
固有スキル・ジョブホッパー/鑑定の魔眼
武器・神木の小太刀
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