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ジョブホッパーの魔導譚 〜幾多の職を越えて紡ぐ、魔眼使いの英雄譚~  作者: フェアリーP
乳児編

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第2話 ステータス画面と、自分だけの固有スキル

 視界の端に、見覚えのある文字が浮かんでいた。


【ステータスを確認しますか?】


その瞬間、思考が完全に停止した。


いや、正確には停止せざるを得なかった。


なぜなら、その文字列は前世で何千回、いや何万回と見てきたものだったからだ。


ネットゲーム。家庭用ゲーム。スマホゲーム。


ゲーム好きだった自分にとって、ステータス画面という存在は呼吸をするのと同じくらい当たり前のものだった。レベル、能力値、スキル、職業、装備。ゲームを起動したら真っ先に確認する画面であり、強くなるための指標でもある。


だが、それはあくまで画面の向こう側の話だった。


プレイヤーとして見る側の存在。決して表示される側ではない。


ましてや――。


(なんで自分の視界に出てるんだ……?)


心臓がどくりと鳴る。


赤ん坊の身体だから実際にそうなのかは分からない。それでも胸の奥がざわつく感覚だけは確かだった。


改めて周囲を見渡す。木造の部屋。柔らかな光。見たこともない家具。聞き慣れない言葉。そして先ほど母親らしき女性が見せた、あの不思議な光。


どう考えても日本ではない。いや、地球ですらないだろう。


(本当に異世界転生したんだな……)


そう考えた瞬間、不思議と実感が湧いてきた。





前世の最後の記憶が、静かに脳裏をよぎる。


終わらない工程表。足りない職人。遅れる工期。鳴り止まない電話。休日出勤。残業。残業。そして残業。


気付けば一週間の大半を現場で過ごしていた。家に帰るのは寝るためだけ。趣味だったゲームですら、まともに遊べなくなっていた。


朝早く現場へ向かい、夜遅くまで作業を確認する。トラブルが起きれば飛んでいく。材料が足りなければ手配する。職人同士が揉めれば仲裁する。工期が遅れれば頭を下げる。


現場監督という仕事は、思っていた以上に何でも屋だった。


最後に覚えているのは、現場事務所の椅子にもたれながら仮眠を取ろうと目を閉じたところまでだ。


そのあと何が起きたのかは分からない。


過労死したのかもしれない。倒れて病院に運ばれたのかもしれない。事故だった可能性だってある。


だが今となっては、答えは分からない。分からないことを考え続けても仕方がなかった。


少なくとも今、自分は生きている。意識がある。新しい身体がある。新しい家族もいる。


ならば――。


(せっかくなら、楽しもう)


前世では忙し過ぎて出来なかったことを全部やろう。魔法があるなら使ってみたい。冒険者がいるなら会ってみたい。ドラゴンだって見てみたい。


そして何より、ゲーム好きとしては、この表示を無視するという選択肢など存在しなかった。


(確認する)


そう思った瞬間だった。


目の前に半透明の画面が、音もなく現れた。


「あうっ!?」


思わず変な声が出た。


仕方ないだろう。本当に出たのだから。





───────────────


名前・レイ(0歳)


状態・良好

属性・雷

職種・無

種族・人族

成長スピード

 力   3

 器用  8

 速さ  3

 知力  8

 魔力  8

パッシブスキル

 人見知り

 建築

 土木

 料理

 素材の極み

アクティブスキル

 鑑定

固有スキル

 ジョブホッパー

 鑑定の魔眼


───────────────


(本当にステータス画面だ……)


何度見ても消えない。夢ではないらしい。試しに瞬きをしてみる。やはり消えない。


異世界転生。ステータス画面。スキル。


ここまで来ると、もはや認めるしかなかった。





まず目に入ったのは名前だった。


レイ。


どうやら今世の自分の名前らしい。不思議なことに、違和感がない。むしろ妙にしっくりくる。


前世の自分の名前は思い出せないのに。


仕事内容は覚えている。趣味も覚えている。資格も覚えている。失敗談まで細かく覚えている。なのに肝心の名前だけが、靄がかかったように曖昧だった。


まるで最初から削除されているかのように。


少しだけ、寂しい気持ちになる。


前世の自分は確かに存在したはずなのに。あれだけ必死に働いて、必死に生きていたのに。名前だけが思い出せない。


(……まあ)


自分は小さく、息を吐いた。


(今はレイなんだよな)


これからはこの名前で生きていく。そう思うと、不思議と前向きな気持ちになれた。過去を引きずるより、今をどう生きるかの方がずっと大事だ。前世でも、現場で覚えた数少ない教訓の一つだった。





次に気になったのは属性だった。


雷。


(おお……雷か)


思わずテンションが上がる。


雷属性。ゲームでも大好きだった属性だ。主人公属性ランキングがあれば上位常連だろう。炎も格好いい。氷も好きだ。風も捨てがたい。だが雷には特別なロマンがある。


速い。強い。派手。三拍子揃っている。


漫画でもゲームでも、雷使いは強キャラ率が高い。いつか雷魔法を使える日が来るのだろうか。想像するだけで胸が高鳴った。


バチバチと雷を纏って戦う自分。空から雷を落とす自分。


(これは期待できるな)


続いて職種は「無」。まあ当然だろう。赤ん坊だし。むしろ職業持ちの赤ん坊の方が怖い。生まれた瞬間から暗殺者とか言われても困る。


将来どんな職種になれるのか、それは純粋に楽しみだった。


剣士、騎士、魔法使い、冒険者、商人、職人。異世界なのだから前世では出来なかったことをやってみたい。建築士兼魔法使いなんて面白そうだ。前世の知識と異世界の魔法を組み合わせたら、何か面白いものが作れるかもしれない。





そして視線は、固有スキルへと向かった。


ジョブホッパー。


その文字を見た瞬間、思わず苦笑した。


(よりによって、それかよ……)


前世で何度か言われた言葉だった。


「お前みたいなのをジョブホッパーって言うらしいぞ」


同僚が笑いながら言っていたのを覚えている。転職を繰り返す人。職を渡り歩く人。昔はあまり良い意味では使われなかった言葉だ。


だが自分にも事情はあった。


会社の倒産。給与未払い。ブラック環境。人間関係のこじれ。業界の再編。建設業界は想像以上に過酷だった。それでも転職するたびに技術を覚えた。知識も増えた。資格も取った。


土木、建築、設備、施工管理、現場運営。


結果として様々な仕事が出来るようになった。気付けば「器用貧乏」と言われるほどに。


(でも転職マスターの方が格好良くないか?)


少しだけ不満だった。名前負けしている気がする。


だが固有スキルという響きは魅力的だった。もしかすると自分だけの特別な能力なのかもしれない。詳しい内容が分からないのがもどかしい。


(鑑定で調べられるのか……? 後で試してみよう)





そしてもう一つの固有スキル。


鑑定の魔眼。


こちらはいかにもチートっぽい名前だった。見るからに強そうだ。むしろ異世界主人公感がある。


だが気になることもあった。


さっきから右目だけ、かなり違和感があるのだ。見え方が違う。光が強調されるような、何かを透かして見ているような感覚。


これが鑑定の魔眼の影響なのだろうか。


今はまだ使い方が分からない。だがこの能力には、妙な期待感があった。


前世でも素材を見極める仕事をしていた。木材、鉄骨、コンクリート。品質を見抜くのは得意だった分野だ。もしかすると、相性が良い能力なのかもしれない。





最後にパッシブスキルへ視線を向ける。


建築。土木。料理。


これは分かる。完全に前世の影響だ。建築と土木は仕事そのまま。料理は現場飯を自炊していた時期の名残だろう。


だが。


(人見知りって何だよ……)


思わずツッコミたくなった。


スキルなのかそれ。むしろ状態異常では? しかもパッシブ。常時発動。嫌すぎる。


だが前世を思い返すと、否定できない。


知らない人と話すのは苦手だった。初対面は緊張する。営業職だったら三日で辞めていただろう。現場では仕事上の会話しかできなかった。


(……否定できないのが悔しい)


そしてもう一つ、気になるのが【素材の極み】だった。


なんだその職人が泣いて喜びそうな名前は。


建築系スキルとの相性は良さそうだが、詳細が分からない。鑑定で調べたら何か分かるだろうか。異世界は説明書が不足している。





改めてステータス全体を見渡す。


力と速さは低い。知力と魔力は高い。器用さも高め。


どう見ても前衛向きではない。生産職か魔法職だろう。


だが、悪くない。むしろ自分らしかった。


前世でも何かを作るのが好きだった。設計図を見て頭の中で建物が完成する瞬間。素材を組み合わせて形にしていく過程。完成した時の達成感。あの感覚は、仕事の辛さの中でも確かに好きだったものだ。


なら今世でも、作ればいい。


魔法と技術を組み合わせて。前世には無かったものを。誰も見たことがないものを。


そう考えた瞬間、胸の奥が静かに、でも確かに熱くなった。


前世では仕事に追われる毎日だった。自分で選んだわけでもない現場を走り回って、気付いたら終わっていた。


だが今度は違う。


この人生は、自分で選べる。


魔法もある。スキルもある。夢もある。時間だってある。


赤ん坊だからこそ、可能性は無限大だった。


(よし)


心の中で小さく笑う。


(第二の人生、思い切り楽しもう)





こうして――。


金髪の赤ん坊、レイとしての新しい人生が、本当の意味で始まったのだった。


次は何を知ろうか。次は何を作ろうか。


そんなことを考えながら、レイは小さな手をぎゅっと握りしめた。


その手はまだ、何も掴んでいない。


でも今はそれでいい。


これから、全部掴んでいけばいい。

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